第33話:現代技術がもたらした最新の軍の確立
ヤンダルの新聞社が設立されてから、さらに数ヶ月の時が流れた。
王都からのフェイクニュースを完全に駆逐したバールは、目覚ましい発展を続けていた。 王宮内部では、新王ウィリアムを巡る派閥争いが激化しているらしく、今のところこちらへの直接的な干渉は鳴りを潜めている。
経済規模の拡大に伴い、バール政府の組織も急激に肥大化していた。 護衛兼秘書のサーシャが、優秀な文官や実務担当の新人たちを次々と選抜・採用した結果、俺の屋敷は常に人で溢れかえり、完全にスペースが足りなくなってしまった。 そのため、現在ヴェスタに命じて、駅前エリアに巨大な『新庁舎(区役所)』の建設を進めさせている。かつてスラムだった駅前は、大規模な一掃と再開発が完了し、5階建近くになるビルや金融機関が立ち並ぶ、バールの『中心業務地区』へと完全に変貌を遂げていた。
内政は、順調すぎるほど順調だ。 だが……南の隣国、サクレア領の情勢だけが、明らかに異常な数値を叩き出していた。
「……バイブラー伯爵が、処刑されたか」
執務室でヤンダルからの報告書を読み、俺は低く呟いた。 以前、サクレアへ向かって交渉をした領主だ。軍拡に反対していた穏健派の彼が、自国内の『別の貴族』のクーデターによって粛清された。 サクレアとの国境は完全に封鎖され、交通は制限され、主要な輸入品であったサトウキビの供給もピタリと止まっている。
穏健派のトップが殺され、国境が封鎖された。これが意味することは、ただ一つ。 サクレアは今、完全に『戦争』に向かって狂奔している。
だが、俺の盤面に焦りはない。 時間を稼げたこの数ヶ月で、サラが率いるバール軍の総数はついに『4300名』にまで増強されていた。 そして何より、技術開発局とゴードの工房が進めていた「あの計画」が、ついに実用化の段階に入ったのだ。
◇
バール市街の南に新設された、広大な軍事訓練場。 俺は軍事局長のサラの案内で、現在行われている新部隊・300名の合同訓練を視察に来ていた。
「どう? ルイ。あんたの言った通り、先月から導入した『新しい玩具』の訓練、だいぶ板についてきたわよ」
サラが誇らしげに指差した先では、見慣れぬ鉄の筒……『マスケット銃』を構えた兵士たちが、横一列に並んでいた。 剣も槍も持たない、軽装の兵士たちだ。
「第一列、構え! ……撃てェッ!!」
教官の号令と共に、轟音と白煙が訓練場を包み込んだ。 五十メートル先にある分厚い木の的が、目視できない速度の鉛玉によって次々と粉砕されていく。
「見事だ。……装填のローテーションも上手く回っているな」
俺の言葉通り、射撃を終えた第一列の兵士は即座に後方へ下がり、代わりに弾込め(装填)を終えていた第二列が前へ出る。その後ろには、さらに装填中の第三列が控えている。 前世の島国で、ある戦国武将が用いたとされる『三段撃ち』の戦術だ。火縄銃やマスケット銃の最大の弱点である「次弾装填の遅さ」を、三列のローテーションによる『システム化』で克服し、絶え間ない弾幕を張る。
「正直、最初は半信半疑だったわ。こんな鉄の筒で魔法使いに勝てるのかって」
サラが腕を組み、的を見つめながら言った。
「実際に検証してみたけど、この世界の魔術師が使う『水や土の防御魔法』で、この銃弾は防げるわ。……でも、それは『ある程度のレベル以上の高位魔術師』に限った話よ。下級の魔術師が張った薄い障壁や、重装兵の鉄鎧なんて、紙切れみたいに貫通しちゃうんだから、恐ろしい威力ね」
「そこが重要なロジックだ」
俺は頷いた。
「一人前の魔術師や剣士を育てるには、何年、何十年という時間と才能というコストが必要だ。だが、このマスケット銃の撃ち方なら、農民上がりの素人でも『数週間の訓練』でマスターできる。 才能の差を、圧倒的な『工業力』と『マニュアル化』で埋める。それがこの兵器の真の恐ろしさだ」
「ええ。才能を量産できるなんて、本当に悪魔の兵器よ」
サラは少し呆れたように笑い、訓練場の奥を指差した。 そこには、深く掘られた溝……『塹壕』の中に身を潜め、銃を構える兵士たちの姿があった。
「あんたの指示通り、将来的に他国にこの技術が漏れたり、強力な広範囲魔法を撃たれたりした時を想定して、『塹壕戦』の訓練も並行して行っているわ。 今のバール軍は、この銃部隊を中核に、魔術支援部隊、魔術攻撃部隊、重装兵部隊、そして騎馬部隊を組み合わせた複合戦術のテストを繰り返している。……もう、そこらの傭兵団じゃ束になっても敵わないわよ」
「頼もしい限りだ」
剣と魔法のファンタジー世界に、物理の暴力と近代戦術を叩き込む。 俺が思い描いていた『軍隊のパラダイムシフト』が、ついに完成しつつあった。
俺たちは塹壕の訓練エリアを通り過ぎ、さらに厳重な警備が敷かれた巨大なテントへと向かった。
「……で、こっちが本命の『特大の玩具』ね」
テントの中には、ゴードの工房の職人たちが数人がかりで磨き上げている、黒光りする巨大な鉄の筒が鎮座していた。
バールが誇る最高機密兵器、『大砲』だ。
「試射のデータは完璧です、領主様」
作業を指揮していたゴードが、油にまみれた顔で笑いかけてきた。
「有効射程は驚異の『2キロ』。着弾時の爆発力は、上級の炎魔術師数人分に匹敵します。……ただ、重すぎて野戦での移動は絶望的ですね」
「問題ない。この大砲の運用目的は、あくまで『拠点防衛』だ」
俺は黒光りする砲身を撫でた。
「ヴェスタに作らせている外壁の『見張り塔』。あそこに開けさせた直径1メートルの穴は、すべてこの大砲を据え付けるための砲門だ。各タワーに数門ずつ配置し、バールに近づく敵軍を2キロ先から一方的に砲撃し、粉砕する」
防衛特化の要塞都市。それに射程2キロの固定砲台が加われば、もはや難攻不落だ。
「製造のラインも順調に稼働している。砲身の鋳造は第一区から奪った技術も取り入れた『セカンド製鉄』に。そして弾薬・火薬の製造は『バール鉄鋼』に依頼し、南の工場区にそれぞれ専門の生産ラインを立ち上げた」
武器本体と弾薬の製造を別々の企業(工場)に分ける。 これは、専門特化による『生産効率の向上』であると同時に、万が一スパイに入られても、大砲のシステム全体を一度に盗まれないための『情報分断』の施策でもあった。
俺が作り上げた巨大な軍産複合体が、今、確実にバールという都市の牙と爪を研ぎ澄ましている。
「……サクレアがいつ攻めてきても、迎撃の準備は万端ね」
サラが、将軍としての鋭い目つきで南の空を睨みつけた。 俺もまた、同じ空を見上げた。
穏健派のバイブラー伯爵を殺し、軍拡に狂奔するサクレアの黒幕。 王都から姿を消した第二王子。 そして、暗躍する竜人国の思惑。
盤面は整った。 あとは、敵がこちら(バール)の防衛網という巨大な罠に、自ら足を踏み入れるのを待つだけだ。
お読みいただきありがとうございます。
バールの都市開発がさらに進み、ついに駅前が「ビジネス・ディストリクト(CBD)」化するほどの成長を見せました。 一方で、南の隣国サクレアでは穏健派の領主が処刑され、いよいよ戦争が避けられない情勢に。
しかし、ルイの備えは万全です。 魔法の才能を「工業力(銃)」で凌駕し、三段撃ちや塹壕戦という近代戦術を導入。さらに射程2キロの大砲を都市防衛のタワーに据え付けるという、ロマンと殺意に溢れた軍備が完成しました。大砲の部品と弾薬を別の工場で作らせるリスク管理も、コンサルタントらしいですね。
次回、ついにサクレアの狂った軍勢がバールに向けて進軍を開始します。 剣と魔法の軍隊に対し、産業革命の火力が火を噴く!
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次回も【明日19時】に更新します!




