10-3 レオン
ディゴールの屋敷の屋根の上。
そこにレオンは寝転んでいた。
月明かりがあたりを照らしているため、それなりの明るさはある。
明日の決戦。
レオンには、直接的な関係はない。
アストラルのように、カインを救うためでもない。
レーヴァティンのように、因縁があるわけでもない。
セレナのように、王国騎士団としての責務があるわけでもない。
アリシアと同じである。
自ら進んで戦う理由がない。
そもそも、この旅はアストラルがレオンを引き連れてきたものだ。
もしかすると、レオンは今頃王都で殺されていたかもしれない。
そんな考えが、レオンの頭の中にあった。
(結果的には、あいつに救われてんだよなァ)
初めは敵として、いまでは仲間として関わっている。
アストラルの「カインを救うために戦う」という信念を、レオン自身は否定しているわけでもなかった。
誰かのために動くことができる人間は、そうそういないからだ。
「だけどなァ」
人を殺す。
人を救う。
相反する二つは、全く別々のことのようで、実は一つだ。
誰かを救うために、誰かを殺す。
それがレオンの考えだった。
ディゴールもその対象だった。
一人を殺したら大勢が助かるのなら、レオンは迷わずその選択を選ぶ。
それで自分の手が赤く染まることになろうとも。
(そういえば、あいつらどうしてんだろうなァ)
ふと、義賊の仲間を思い出す。
自分一人で仕事をしてきたわけじゃない。
いつだって、仲間がいた。
(そういえば、旅立つときも会えずじまいだったな。ちょっと会いに行ってみるか)
レオンは体を起こすと、屋根から飛び降りる。
そして、そのままアジトへと向かった。
――― ―――
「さすがにいねぇかァ……」
アジトはもぬけの殻だった。
当たり前だ。
ディゴールの屋敷で起きた戦いは、レオンの負けということになっている。
普通なら騎士に捕まったか、処刑されているか……その二つだけだ。
(まっ、俺の言いつけを守ってっていうことだなァ)
レオンは、仲間に『負けたら逃げろ』とだけ言ってある。
それを忠実に守ったのだろう。
それを、レオンは責めるつもりはなかった。
それでも、何か残っていないかという期待を込めて、レオンは中へと進んでいく。
「あァ?」
残っていたのは、一枚の手紙だった。
宛名もなければ差出人の名前すらないそれを、手紙といえるのか疑問だったが、レオンにとっては手紙だった。
* * * * *
アニキの言いつけ通り、俺たちはアジトを後にしうあした。
それでも、これを残していくことは許してくだせえ。
まだアニキが生きていると、希望を込めて。
あの後、俺たちはアンディゴから逃げ出した、女を調べていやした。
やつはディゴールの金で豪遊していたんでさぁ。
騎士に捕まれば、それがバレると踏んだんでしょうぜ。
王都へと逃げていきやした。
捕まえて殺ろうかと、考えやしたが……。
そのまま泳がせておきやした。
今頃、王都にいるはずですぜ。
それがどうなるか、わかったもんじゃねえですけど……。
アニキ、無茶だけはしんといてくだせえ。
俺達は、しばらく身を隠しやす。
どうか、ご無事で。
* * * * *
「はん、あいつら……」
手紙を残していけば、自分たちがここにいたという痕跡を残してしまう。
すこし物は残っているが、パッと見た限りではただの洞穴だ。
それでも、これでは十分な手掛かりになってしまう。
「ったく……だが、この手紙はありがたく受け取るぜ」
アンディゴで殺りそこなった標的。
それがこれから向かう王都にいる。
(だがァ……嫌な予感がするなァ)
レオンの直感は当たる。
半分が獣人であることもあるのだろうが、それは人よりも優れている。
あのディゴールの秘書……。
その存在が、レオンを王都へと引き寄せる。
「はん! てめえがそこでのうのうと生きていやがるんなら、俺がそっちに行ってやるぜ」
レオンは、王都の方角をにらみつける。
その目に映ったのは、なんなのか。
それは、彼だけが知るのみである。




