10-4 セレナ
なんとなく部屋に戻る気も起きず、セレナはディゴールの屋敷の外にいた。
「……」
夜風は冷たい。
しかし、セレナにとってその風は、どこか心地よかった。
そうやって空を眺めている時、屋根から物音がした。
謎の物体が屋根を伝って、町外の方へと飛んでいく。
(……レオンか)
セレナがレオンだとわかったのは必然だ。
この辺りでそんな芸当ができるのは、レオンくらいである。
おそらく、金獅子として活動していた時の仲間に会いに行ったのだろうと、セレナは考えていた。
「仲間……か……」
思い出したのは、王国騎士団第7小隊のこと。
セレナが彼らといた時間は、アストラルたちよりも長い。
騎士学校時代に知り合った仲もいた。
それが全員死んだ。
その事実は、彼女にとって重くのしかかっていた。
「慣れたつもりだったんだが……」
アストラルたちといる時は、騎士としての自分が表に出る。
仲間の死を悼み、その場で泣き崩れるというのは騎士らしくない。
そんな考えが、セレナの行動を縛っていた。
あの日、レーヴァティンに助けられた日から、彼女はそれを強く意識した。
守るための騎士。
守られるものではなく、助けられるものでもなく、何かを守り、何かを助ける。
それが騎士であり、彼女の理想でもあった。
「最近は、そうでもないか」
セレナが騎士でなくなる時。
鎧を脱いでいるときは、彼女は一人の女性である。
普通に生活もすれば、本も読む。
恋もするし、憧れることもある。
しかし、彼女はその姿を人前に出すことはあまりしない。
やはり、根底にあるのは騎士としての自分である。
「今の私を見て、彼らは一体……なんていうかな」
空を見上げる。
月の大きさも考えると、それほど星は見えているわけではない。
もともと明りも少ない街ということもあるのか、それでも夜の星は、はっきりと見えた。
「……」
無言でその星々を眺める。
その視線は、まるで夜空に吸い込まれていそうな、そんな風にも見える。
(……すこし、私の話を聞いてくれないか)
セレナの視線の先には誰もいない。
だが、彼女はそれでも、その場所を見つめる。
そこに誰かがいるように。
その誰かと目線を合わせているかのように。
そして、彼女は声に出さず、話し始める。
声はなくても、伝わる。
そんな確信があるようだった。
(ああ……そうか)
セレナが感じていたもの。
どうして、アストラルのことが心配なのかを。
アストラルのことを考えているのかを。
それを、セレナは悟った。
だからこそ、出てきた言葉は至極当然のようにも思える。
「……失いたくない。……もう二度と、失いたくない……!」
セレナはまっすぐに手を伸ばす。
(この手で、守って見せる……!)
静かな決意。
しかし、それはセレナが初めて騎士としてではなく、彼女個人が願ったものだった。




