9-4 参謀の記憶
『何っ!?』
「ほう、これがもう一人の俺か」
先ほどまで窮地に陥っていた兵士が立ち上がる。
口調もどこか、シュバルツ皇帝のように聞こえた。
『貴様、なぜ!?』
「ふん、俺もお前と同じようになったというだけだろう」
『貴様はぁ!』
禍々しい気配を持った兵士が、もう一振りの剣を手にした兵士に襲い掛かる。
剣を手にした兵士は、その攻撃をいともたやすく防いでいく。
その剣筋は、まさに皇帝そのものだった。
あれはもう魔剣だ。
ただの剣ではない。
現に、目の前で繰り広げられる戦いは、次元が違った。
ただでさえ、皇帝陛下の剣は人並み以上であったのに、それと同等のものが二人。
それはもう、その場にいる兵士は誰もが立ち入ることができなかった。
「はあっ!!」
『はあっ!!』
キンという音が一つ響くたび、自分達との力量の差を痛感させられる。
私も、獣人として訓練はしてきたつもりだ。
人よりも、五感は優れている。
動体視力も、それなりに自信はある。
そのため、ここから剣の動きを見ることはできるが、それに対応することはできない。
一瞬、頭が真っ白になる。
そのわずかな時間さえ、人の命を奪ってしまう。
目の前の現実は、それをひどく痛感させた。
この人たちには勝てない。
ただ見ているだけなのに、誰もがそれを悟っていた。
『我の邪魔をするな!』
「貴様のその頭を冷やしたらな!!」
その時、両者が同時に魔法を放った。
禍々しい魔剣は氷塊を、白く輝いていた魔剣は火球を出す。
その両者がぶつかり、激しい衝撃があたりを襲う。
その近くにいた者から倒れていき、中には氷の破片で貫かれたものもいた。
痛みでうずくまる兵士がいる中、二人はなおも斬りあいを続ける。
反乱を企てたであろう人物も、傷ついた兵士の方で手いっぱいのようだ。
『我の前にひれ伏せっ!!』
「そういうわけにもいかないのだ!」
その一言で察する。
もしかすると彼は……。
そもそも、剣を人と認識すること自体おかしいと思うが、そう思うことが正しいように感じる。
隠し通路で隠れていた私は、意を決してそこから出た。
「貴方は……!?」
「彼が戦っている間に、ここから逃げましょう」
「しかし……!」
「まずは怪我をしている者の無事が最優先です」
「……わかりました」
渋々従ってくれたが、必ずここへと戻ってくるだろう。
彼らの方に目を向けながら、けが人の搬送を行う。
一人、また一人と搬送が終わっていくと、それを待っていたかのように戦闘は激化する。
『我の前から消えろ! 貴様の存在は邪魔なのだ!』
「ふん、感情のまま戦っている貴様に、疎ましく思われる筋合いはない!」
壁が、床が、天井が、彼らの攻撃によって壊れていく。
私自身、長い時間ここにいるのは危険だった。
しかし、この戦いを最後まで見届けなければならない。
そんな使命感のようなものが、私を突き動かしていた。
「終わりだ!」
『まだだ!!』
相対する二人。
片方は膝を突く形で、片方は見下ろす形だった。
禍々しい魔剣が、剣を突きあげる。
白く輝いていた魔剣が、剣を突き下ろす。
その攻撃を、どちらも避けることはしなかった。
そして、その攻撃はどちらの体も貫いた。
お互いを刺したまま、動かない二人。
死んでいるのは、明らかだった。
近づいてみても、それは変わらなかった。
ただ、二人を貫いている剣は、生きているかのように明転している。
禍々しい輝きを、白い輝きを、魔剣は自分自身の存在を知らせるかのように。
「終わった……?」
入り口から入ってきたのは、反乱を首謀したであろう彼だった。
「魔剣には触れてはなりません」
「魔剣?」
「ええ、これは魔剣です。命をを吸いつくした剣と、命を守り抜いた剣。そのどちらもが魔剣です」
「名前はあるのですか?」
「名前……?」
そういえば、皇帝陛下から剣の名前を聞いたことがある。
確か……。
「命を吸いつくした魔剣・ダーインスレイブ、命を守り抜いた魔剣・レーヴァティン。それがこの魔剣の名前です。触れれば、あなたは人でなくなる」
「……この魔剣は、厳重に封印します。二度と虐殺を起こさないようにと、この反乱を企てたのですから」
「お願いします」
「貴方は……」
「私は山にこもります。ここに、私はいるべきではない」
「……」
彼は律儀に頭を下げる。
その彼に見送られ、私は獣人の里に帰ることにした。
それは、ノワール王国が建国した日のことだった。




