9-5 布告
「ちょっと待ってください、それじゃあ魔剣って……」
「私にも、詳しいことはわかりません。ですが、皇帝陛下……シュバルツ殿の人格が宿った、としか言えないのです」
「国を人を守るために戦った人が、罪のない人を虐殺した……そんなのって」
「事実です。それも、彼は罪悪感のようなそぶりは一切見せなかった」
「無感情で人を殺せたっていうんですか!?」
「見せないようにしていたのかもしれません。皇帝とは、そういうものですから」
ヒデヨシさんは、月を見上げるように、天井を見た。
「下剋上で皇帝になった、国を守るために戦った。本人にとっては、それが正しいことだったかもしれません。しかし、戦いで失っていく命は自分の中で切り捨てなければならない。そんな葛藤が、彼を別ったのかもしれないですね」
「別った?」
「一人の人間の中に、二つの人格。それが二振りの剣に宿った。私はそう考えています」
「虐殺を行った残虐な人格と、皇帝として生きた人格と……ということですか?」
「ええ。ノワール王国が建国してから、長い時間が経ちました。その当時のことを知る人は、私だけです。彼は……シュバルツ殿は魔王として、語り継がれてしまうのでしょうね」
そういったヒデヨシさんの顔は、どこか寂しげで……泣いているようにも見えた。
――― ―――
ふと、気がつくといつものあの場所にいた。
これが僕の中、というのは少し不思議だ。
(レーヴァティン……)
長い黒髪、黒いロングコート。
もう何度も見た姿だ。
『ふん、ひどい顔だな』
(すこし驚いちゃってね)
『獣人は人間よりも寿命が長い。生きているとは思ってなかったが、年老いていたな』
(……本当はどうだったの?)
『なにがだ?』
(君自身、人を……殺したんでしょ?)
『戦争だった。やらなければ、国が亡びる』
(それでも、虐殺をする必要はなかった……!)
『……ああ、それは事実だ』
(だったら、どうして!?)
『必要なことだった。あの場所は補給拠点として、確保するべき場所だった』
(やり方は他にもあった……!)
『ああ、あっただろうな』
(……!)
『失った命は還らない、自らの行動は自らに返る、そして……帰る場所を失った』
レーヴァティンは立ったままだ。
僕から逃げようとしない。
そして、自分自身……シュバルツから逃げようとしない。
『私がしてきた行動は、結果的に国を守り、民を守った。結果だけを見れば上出来だ』
(それで自分が死んでも)
『それが国にとって良いことなら、受け入れよう。こうして帝国は形を変え、今も続いている』
(それでも……!)
『人はいずれ死ぬ。どのみち、俺が死んだら誰かが国を続ける。それは不変だ。何かを守っていくことができたのなら、それでいい』
レーヴァティンとかかわってきた思ったことが何度もある。
どうして、こんなに非情な選択ができるのかと。
どうして、こんなに僕とかかわってくれているのかと。
どうして、こんな僕を守ってくれているのかと。
その答えが、いま見え始めた気がする。
(……ありがとう、レーヴァティン)
『ふん、礼を言われる筋合いはない』
(それでも、言いたいんだ)
僕の戦いは終わってない。
そして、レーヴァティン自身の戦いも終わっていない。
終わらせよう。
僕はカインを助ける。
それが一番の方法なら、それを実行しよう。
そう、決心した。
――― ―――
「ようやく出てきたかァ」
「待たせてごめん」
構わない、そんな風に手を振った。
そのしぐさは、どこかで見たような気がするが、気のせいかな。
「これから山を下りるが……大丈夫か?」
「はいですぅ!」
笑顔を見せるアリシア。
山は登るより、降りる方がつらいと聞くけど……これなら大丈夫そうだ。
「さあ、いこうか」
そう思って、歩き出したその時だった。
『ノワール王国に生きるすべての国民よ、聞け!』
頭の中に響く声。
その声は、僕に以外にも聞こえているようだった。
「こ、この声は……!」
『ダーインスレイブ……!』
そして、次に景色が見えた。
その景色は見覚えがある。
(ま、まさか……!)
『ノワール王国は私が手に入れさせてもらった。いまから三日後、全国民に対して攻撃を仕掛けさせてもらう』
「全国民に……攻撃だと……!?」
『レーヴァティンよ、決着を付けようぞ』
最後にその一言を言い残すと、それ以降、声は聞こえなかった。
「王宮が占拠されている!」
「あァ? 王宮だァ?」
「ダーインスレイブの力なら、一人でそれくらいはやってのけるよ」
「そ、そんなに強いんですかぁ……!」
「アストラル……」
「大丈夫」
心配そうにこっちを見たセレナに、一言そう告げる。
でも、どうして三日後なんだろう……。
「だが、どうして建国記念日なのだ?」
「建国記念日……!」
そうか、そういうことか。
ならば、ダーインスレイブの目的は……!
「この国に対する復讐か!!」
「復讐だと?」
怪訝そうな顔をするセレナ。
僕はみんなに説明をする。
レーヴァティン……シュバルツの話を。
「なるほど、そういうことか」
「しっかし、今頃になって復讐かァ」
「うぅ……」
「……王都にいこう」
「ああ、急ぐべきだな」
「そんじゃ、さっさと降りちまおうぜ」
「頑張ってついてきますぅ!」
「ありがとう、みんな」
降りる、なんて誰一人として言わなかった。
待っていて、カイン。
僕らは、いまからそこへ向かうから。
もう、こんな呪いは終わらせないと。




