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僕と魔剣と  作者: Make Only Innocent Fantasy
第9章 記憶
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9-2 名もなき青年の記憶

「きゃああああああああ!!」

この目に見えるのは、燃え盛る炎と大量の死体だった。

この耳に聞こえてくるのは、最後の断末魔と泣き声だった。

この鼻に臭ってくるのは、焦げた臭いと血の匂いだった。

この手に伝わってくるのは、地面の感触と人の冷たさだった。

「なんで……! どうしてなんだ!!」

そう叫ばずにはいられなかった。

炎でのどが焼けているのか、息をするだけでも激痛が走る。

俺達はただ戦争なんて関係なく、穏やかに過ごしていただけなのに。

このアクィルスで、おせっかいな彼女と食卓を囲んでいるはずだったのに。

「どうしてなんだよおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

最後に見えたのは、とても冷たい目と禍々しい剣だった。


――― ―――


「ねえちょっと!」

「ああ? なんだよ」

「少しは手伝ってよ」

「手伝ってよ、といわれてもなぁ……」

1つしかない鎌は、いま彼女が使っている。

手でむしることができないわけじゃないが、それでは意味がない。

間違って根でも抜いてしまったら大変だ。

「変わって、って言ってるんだけど?」

「なら、はじめからそう言え」

俺は彼女から鎌を受け取ると、茎を鎌で切っていく。

アクィルスでは、ちょっとだけ有名な稲は根が残っていればまた新しい実を作る。

まるで木の実みたいだったが、味は普通の米よりも少し美味しいくらい。

見た目も米そのもので、米と同じように調理もできる。

うん、この知識だけは完璧だ。

少し細かい話になると、全く駄目だが。

ある程度、稲を収穫すると少し一休みする。

中腰の体勢はつらい。

いくらまだ若いとはいえ、農作業は体に応える。

「ねぇ、そういえば」

「ん?」

「今、戦争してる国の皇帝の話って知ってる?」

「ああ、皇帝なのに最前線に立つっていう、あの?」

「そうそう、それそれ」

「どうせ、噂だろ? 実際、皇帝が先陣切ってたら危ないじゃんかよ」

「むぅ~。でも、実際に見たっていう人がいるんだもん!」

頬を膨らませながら、子供のようにいう彼女の姿は、昔と変わらない。

そんなことを思いながら、空を見上げる。

自ら先陣を切り、軍を指揮する皇帝。

「ホントかなぁ……」

「皇帝だもん! その証拠に、皇帝しか使えない剣を使ってるって!」

「なんだよ、そりゃ」

いまどき、そんな特殊な道具なんかがあるのかよ。

「なんか帝国の紋章が入ってる剣だって。王冠みたいな感じの意味があるみたいだよ」

なるほど。

確かにそれなら、皇帝自身にしか使えない。

というよりも、皇帝であることを証明してしまってる。

前提条件として、それが事実であるならば。

「そんで? その皇帝がどうかしたのか?」

「前の戦いで、とても活躍したって話」

「いつもの話じゃんかよ。大体、あの皇帝になってから戦争は長引くばかりだし」

「本当だよね。すぐに終わるって思ってたのに」

「あんな小国。帝国なんて大層な名前に似合わないほど小さいじゃないか」

「あの国を占領したら、統一なんだっけ」

「ああ」

少し前までは、たくさん国があった。

その国同士で、貿易をしたり条約を結んだりした。

始まりは、どこかの国がどこかの国に攻撃を仕掛けた……だった気がする。

それが連鎖的に戦争の引き金を引いてしまった。

この国は、瞬く間にほかの国を占拠していき、今に至る。

あの皇帝になる前は、ただの弱小国だったはずだ。

それが、下剋上か何かであの皇帝に突然変わった。

それから、身体能力に優れた獣人を味方につけ、防衛線を崩さず、じわじわとこちらに攻め入ってきている。

唯一の救いなのが、国力が乏しいことだ。

戦争が長引けば、おのずと自滅していく。

「まっ、すぐに終わるさ。こんな戦争」

「そうだよね……」

「ところで……」

「なに?」

「いつまで俺にやらせる気だ?」

「全部」

「はぁ!?」


――― ―――


「まさか本当に全部やらせるとは……!」

「いいじゃん、ご飯作ってあげてるんだし」

「別にたの……」

「作れるの? 一人で?」

「無理です、すみません」

本当、彼女がご飯を作ってくれているから俺が生きている感じはある。

親父は戦争で死んでしまったし、お袋も親父が死んでからすぐに病死した。

隣の家に住んでいるこいつが、俺にご飯を作ってくれているから、すくすくと育っているわけで。

いつか、ちゃんと恩返しをしなくちゃな。

「ところで、今日収穫した稲はどうするの?」

「どうせ、また戦時徴収されるさ」

「ここの所、ずっとだよね……」

「仕方ないさ。国土が広くなれば、それだけ飯も必要になる。戦争が終わって、時間が経てば元に戻る」

「早くそうなるといいよね」

「ああ、そうだな」

「ほら、ご飯できたよ」

「お、今日もうまそうだな」

出てきたのは、白米と野菜を煮込んだスープ、そして肉だ。

「肉だ!」

「お母さんがくれたんだ。滅多に手に入らないから、味わうのよ」

「当たり前だろ! いつ以来だろう……」

ああ、腹の音が鳴りやまない。

「ほら、いただきます」

「いただきま~~~す!!」

がつがつとご飯を食べる。

久しぶりに味わった肉は、とてもおいしかった。

ああ、もっと食いたい。

そんなことを思った直後だった。

「あああああああ!!」

「何……? 今の声……」

「叫び声? 魔物でも出たのか!?」

「えっ!?」

「ここにいろ、ちょっと様子を見てくる」

「駄目だよ、一緒にいようよ!」

「だけど……」

腕をぎゅっとつかまれ、涙目で懇願される。

ああ、この涙には弱いな。

「わかったよ、まどから様子を見るよ」

そういって、俺は窓の外を眺める。

「……!」

見えたのは、燃え盛る真っ赤な炎だった。

「逃げるぞ!!」

「なんで?」

「火事だ! 家にいたら、焼け死ぬ!!」

「でも……!」

「いいから! おばさんのところにいこう!!」

俺は彼女の腕をとると、外に出る。

木の焦げた匂いが、ここまで臭ってくる。

彼女の家は俺の家の隣だ。

そんなに時間はかからない。

俺は一目散に、その家を目指した。

しかし、おばさんの姿をみつける前に、別の姿をみつけた。

それは……帝国の兵士だった。

「……!」

「どうし……」

彼女の口を、俺の手でふさぐ。

「声を出すな」

小声で、彼女の目を見て言う。

彼女は黙ってうなずいた。

それにしても、どうして帝国の兵士が?

こんな辺境を襲っても……もしかして、食料か?

そう考えれば、つじつまが合う。

でも、今はそんなことを考えている暇はない。

この状況をどうにかしなければ。

もう一度、辺りを見回す。

帝国兵士の姿は見えない。

「行こう」

俺は彼女の手を引く。

おばさんの家は通り過ぎてしまったが、それすらも気にならない。

なぜならば、おばさんがどうなったのかすぐに分かったからだ。

走りながら見たその家の扉は、開け放たれていた。

もう、誰もいない。

いたとしても、すでに死んでいる。

俺達が逃げたことをすぐにしって、探しに来るかもしれない。

早く、ここから逃げないと……!

「大丈夫か……!」

ふと、彼女に声をかける。

さっきから彼女のことなんて考えなかったが……。

振り返ると、ぐったりした彼女の姿が。

腹部には、血がにじんでいた。

「お前……!」

「えへへへ……すれ違い際に……」

「何で言わなかったんだ!!」

「言ったら止まるでしょ、そしたら見つかっちゃうじゃん」

「だけど……!」

「それに……もう……この傷じゃ……助からないよ」

ぐらりと倒れこむ彼女。

それを俺は受け止める。

「もっと生きたかったなぁ……」

「死ぬみたいな言い方をするなよ!」

「私をここに置いて、逃げて……」

「出来る訳……ないだろ……!」

「へへ……泣いているとこ……ひさしぶ……りにみた……」

「おい……! しっかりしろ!!」

「もう……何も……見えないよ……」

「おい! おい!!」

「……」

「返事をしてくれって……! なぁ……!!」

返事は返ってこない。

「うわああああああああああああああああああああ!!」

ぎゅっと彼女を抱きしめる。

彼女の体は、もうすでに冷たかった。

そんなはずはないとわかっている。

だけど、それだけ冷たく感じた。

「別れはすんだか?」

「お前が……」

「ふん、そんなことはどうでもいい。さっさと死ね」

「お前が!!」

顔を上げた瞬間、斬りつけられる。

激しい痛みが、腕から伝わってくる。

「待ってやったのだ。すぐには殺さん」

「どうして……!」

「見ろ、お前が大事にしていた村が焼かれる瞬間を」

「きゃああああああああ!!」

この目に見えるのは、燃え盛る炎と大量の死体だった。

この耳に聞こえてくるのは、最後の断末魔と泣き声だった。

この鼻に臭ってくるのは、焦げた臭いと血の匂いだった。

この手に伝わってくるのは、地面の感触と人の冷たさだった。

「なんで……! どうしてなんだ!!」

そう叫ばずにはいられなかった。

だが、その問いにその男は応えない。

無言で振り上げられた剣は、禍々しい気配を纏っていた。

そして、柄に見たことのある紋章が見えた。

それは、帝国の紋章。

ウィクトル公国の戦争の相手である”ノワール帝国”の紋章だった。

この男が、ノワール帝国の皇帝。

それだけに、訳が分からなかった。

「どうしてなんだよおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

俺は、彼女と……!

無慈悲にも降ろされた剣は、俺の胸を貫いた。


――― ―――


「ふん」

皇帝陛下は剣を抜き取る。

その剣は、カエルレウス川の時とは違い、禍々しい。

「全員殺せ、一人も逃すな」

その言葉の無感情に戦慄を覚える。

返事をするように、息をするように、殺せと命じたのだ。

今までの皇帝陛下からは、全く想像できなかった。

いや、もしかすると……。

「ふはは……ははははは!!」

燃え盛る炎に包まれた村で、断末魔と笑い声が不気味に響いた。

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