第7話 「神理」
獣人達に連行されている道中、大きな獣の襲撃に因り川を流されていたところを救出されてから2日間、気を失っていた僕は、命の恩人である目の前の老人に感謝の意を示していた。
「保護して頂いて有難う御座います。お陰様で助かりました。気分は自分自身でも良く分からないですけど悪くは無いと思います。」
「それは重畳、ゆっくりと休むが良い、何せ丸2日寝ておったんじゃからな。」
えっ?2日?そんなに寝ていたのか?僕は、、、、。
驚く僕の様子が可笑しかったのかおじいさんは、短く笑った。
「ホッホ、まぁ傷を負っていたと云うのもあったのじゃろうが、酷く衰弱しておったのじゃからな無理はあるまいて。」
「そうですか、2日も、、、、寝ていたんですね。」
「まあ、何にせよ目覚めて良かった。2日も寝れば腹も減っていよう、、、今から用意するがどうかな?」
老人は振り返り出口方面へと歩き出した。
僕はお爺さんの好意に対し居心地が悪くなり、少しでも恩返しでは無いが何か出来ないか聞いてみた。
「本当に色々とすいません。命どころか食事まで、、、、何かお手伝い出来ませんか?。」
「気にする事は無い、目覚めたばかりじゃからのう、今作ってやるから大人しく待っていなさい。」
「もう大丈夫です。お爺さんの治療のお陰で、、、、。」
そう言いながらベッドから降りようと、、、、そういえば僕、裸だった。
慌てて隠す様子にお爺さんはまた笑う。
「ホッホッホッホ、そう言えば裸じゃったのう、どれこれを着ると良い」
木製の大きな箱からローブを取り出し僕に渡す。
「何から何まですいません。気付けば裸で、、、、そう云えば此処は一体何処ですか?」
自身の境遇を思い出し、何か情報を得ようと尋ねてみる。
「此処か?セスタスクの森━━通称、深業の森と云われている森じゃ。」
「深業の森、、、、それもそうなんですが、この国は一体何処ですか?僕はイヤ、僕達は日本から来たのです。」
お爺さんは一瞬、眉を顰めたかと思うと、口を開く。
「他にも仲間が居ったのか、済まんがお主だけしか発見出来なかったのう。」
「、、、、、それは仕方ないです。それに、、、、恐らく川に落ちたのは僕だけですし。それよりも此処は何と云う国なんですか?それに、、、、あの獣みたいな、、、、。」
僕は獣人達の事も思い出し、お爺さんに聞いてみたかったのだが、少し逡巡した後、獣人達の事を聞く事が出来無かった。
実際に獣人達と対峙した際の圧倒的な存在感は、コスプレや特殊メイク等と云った紛い物では無く、実在する生物として否応が無く認識させられたのだが、獣人に襲われた━━等と言える筈も無く、言ったところでせいぜいが奇人・変人扱いされるだけに終わる、そう思い留まった。
「まぁ待ちなさい、色々聞きたい事は有るじゃろうが、しっかり食事を摂らんと頭も働かんぞい。」
そう言いながらお爺さんは、食事の支度に掛かる。
お爺さんに色々問い質したい事はあったのだが、自分の為に食事の準備をするお爺さんを手伝うべく、ローブを羽織り、出口まで向かうのだが料理するお爺さんの行動に僕は目を見張る。
「 えっ!?」
お爺さんの周りには様々な野菜が宙を浮いており、お爺さんはその一つを掴み取ったかと思うと包丁も使わず野菜の皮を綺麗に剥いていた。
え!?何これ?宙に浮いてるの?何で?手品?俺何を見てんの?魔法?ハハ・・・んなアホな。
僕の驚く様子にお爺さんは大いに笑い、口を開く。
「ホッホッホッホ!神理を見るのは初めてかお主?人間族は皆が同じ様に驚く、、、まあ初めて見るなら無理も無いがの。」
衝撃の余り、お爺さんの言葉にさえ返事が出来ない僕に、お爺さんは溜息を吐き、口を開く。
「休んで居れと言うのに、まあその様子なら大丈夫そうじゃの、、、ならば、、ホレっこれを剥いておくれ」
僕の目の前にフヨフヨと野菜とナイフが浮かびながら飛んでくる。
うそだろ?マジか?手品とかじゃないのか?、、、、魔法だ!完全に魔法だよ!
「、、、、有り得ないだろ、、、、。」
僕は思わずボソリと呟いた一言を、お爺さんは興味深く見ていたかと思うと、野菜を切りつつ爆弾を落とすした。
「、、、、やはり気付いておらんみたいじゃのう?」
ん?気付いていない?
「どういう意味ですか?やはりって?」
、、、、嫌な予感しかしない、でも、もうなんとなく判ってる。
でも聞かなきゃいけない、僕の頭が狂っていなければ、ここは、、、、、この世界は、、、、、。
「うむ、断言は出来ん部分は幾つかあるんじゃが、現時点でハッキリした事が言えるのは、この世界は今までお主が過ごしてきた世界ではない。」
お爺さんは、そう言って僕の方を向き、僕の目を見てハッキリ言った。
嘘では無いのだろう、何と無く薄々は気付いていた、、、、獣人に魔法に、、、、、このお爺さんも、、、、。
暫く黙ってしまう、お爺さんも何か言いたい事があったのかも知れないが、思わず俯いた僕の心境を察してくれたのか、黙っていてくれた。
僕はお爺さんが言った事を確かめる為に━━否、自分自身がこの現実を受け入れる為に、お爺さんに聞かなければいけない。
「、、、、、、お爺さんは、エルフ、、、、、ですか?」
お爺さんは、間を置く事無く答える。
「そうか、エルフの存在を知っておったか、、、、、おおっそう言えば自己紹介がまだじゃったのう、儂の名はアザント、アザント・エルエッドじゃ」
そう言えば、僕も自己紹介がまだだったな、助けてくれた恩人なのに失礼だった。
「すいません、失礼しました。助けてくれた恩人なのに、、、僕の名前は吾川流一です。助けて頂いて有難う御座います。」
この場合お辞儀で良いのかどうか判らなかったけど、仕様がない誠意が伝われば良いだろう、、、、伝わるのかな?
「まぁ気にせんでも良い、無事でなにより。」
アザントさんは笑顔でそう言うと、調理の続きを再開したのだが、僕は聞かなければいけない事が沢山ある。
アザントさんはきっと僕達が何故この世界に居るのか知っている、、、、何故知っているのかは分からない、僕達が違う世界の人間だって気付いた以上、何か知っている筈だ。
「何故、僕が違う世界の人間って判かったんですか?」
アザントさんは僕を一瞥し、調理を続けながら答えてくれた。
「簡単じゃよ、お主の様な人間を見てきているからじゃよ。」
他にも僕達みたいな人間がこの世界に存在している?、、、、そう訝しんでいるとアザントさんは尚、続ける。
「それにお主、裸じゃったろ?この世界に来て間もなくの人間は例外なく裸じゃ、、、つまりは何も持たないのじゃ。他にもまあ色々と理由はあるがの。」
、、、この世界に来て間もなくの人間は例外なく裸?
「、、、、すいません、どういう意味ですか?何故裸だとこの世界の人間じゃ無いと判るんですか?」
僕がそう問いかけると、アザントさんは少し逡巡して答え始めた。
「理由は色々とある、、、例えばじゃ、何故お主とこうして意志の疎通が出来る?、、、、それはお主と意志の疎通が出来る様に儂がそう云う神理を、、、、魔法を発動しておるからじゃ、本来なら種族や住む世界の違うお主と儂との意志の疎通は出来ん、、、、言語そのものが違う。」
確かに、不思議には思ってたけど、、、、でもそれって答えになって無いけど、、、。
そう訝しでいる僕を尻目にアザントさんは続ける。
「そしてもう一つ、お主は儂が魔法を目にした際、驚いておったな?この世界にある一定の期間過ごした者は魔法の存在を必ず知る事になる。、、、これは魔法を行使出来る出来無いに問わずじゃ、何故ならこの世界で生きてく上で生活の一部として必ず恩恵を受けるからじゃ。日常と置き換えても良いぐらいのな。」
そして、アザントさんは尚も続ける。
「そして、この世界に存在するほぼ全ての生命体が、それぞれ違う世界から来ておる、、、、例えば儂らエルフはエルフの世界、お主の場合はお主らの世界じゃ。」
、、、、なるほど、、、つまりここに居るアザントさんも、元々は違う惑星、、、、僕達で言う地球みたいな場所から神隠し的な感じで、ワープか何かして来たんだな、、、、 全然納得出来ないけど、、、、でもそれなら、僕達が違う世界から来たって事が判るのも当然と言えば当然か、、、、、。
でも問題は、帰れるかどうかって事、ワープとかして来たって事は帰れるチャンスがあるかも知れない、聞いてみるのが怖いけど、、、、どうしよう、、、もし、帰れないってなったら、、、、、でもやっぱり、聞くしかないよな、それ次第で今後どうするか考えなくちゃいけない、、、、、。
僕が元の世界、つまり地球に戻れる事が出来るかどうかと聞こうと考えてる間にアザントさんは心苦しそうに独白した。
「、、、、そして、ここからは心して聞くが良い、こちらの世界に存在するほぼ全ての生命体が、それぞれの本来の世界で例外無く、何等かの原因で死んだ者達だからじゃ。」
「、、、、、、、え?」




