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星のゆりかご ――最強の人工知能は母親に目覚めちゃいました。―― 作者:たけ まこと

第四章 ――自  立――

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逃 走

「まだ手掛かりは発見できないのか?」

 ガレリアが行方不明になってから随分になる。無機頭脳の恐ろしさをよく知っているジタンは決して楽観的な考えに至ることは無かった。
「何を考えていやがる。目的は一体何だ?」
 ジタンは解析ルームをイライラと歩き回っていた。

「本部長。有りました。」
「何が有った?」
「ガニメデアカデミーの木星観測ステーションのデーターです。木星の表面調査を行なっている所ですが生データーをひとつづつ解析していたので時間がかかりました。」

「どれがだ?」
「この画面です。」
 木星表面に小さな影が写っていた。

「ガニメデアカデミーではおそらく新発見の衛星だと判断している筈です。」
「ところが画面から衛星の軌道を算出するとその部分には衛星が写っていないのです。」
「その先の木星の影の部分を見て下さい。」
「影の部分に僅かな出っ張りが有ります。」

「見方によっては雑音にも見えますし形も同じとはいえません。」
「しかし軌道平面的には完全にガニメデの軌道と同一平面に有ります。」

「こいつか?」
「木星のかなり低い軌道に落としてガニメデを追い越して行きました。」
「どうやってそんな低い軌道まで落としたんだ?核パルスエンジンを使えば観測されるだろう。」
「観測網は木星全域に渡っている訳では有りませんからね。木星には幾つか大きい衛星が有りますしそれを使ってフライバイを行ったのではないかと思いますが。」

「その後の軌道はどうなる?」
「最新のものはまだ出ていません。」

「今後その軌道でトリポールへの軌道平面に遷移出来るか?」
「すぐには計算出来ませんがイオかエウロパでフライバイすれば交戦予定時刻までにはトリポール軌道平面への遷移は可能ではないでしょうか。」

「シドニア・コロニーへの遷移は?」
「ガニメデの衛星軌道上ですからどうとでもなります。」
「結論は?出来るのか出来ないのか?」
「アナンケに行くこともトリポールに行くことも可能ですが。」

「もし軌道ステーションが身を隠すとしたらどこらへんが良いだろう?」
「そうですねこれ自体結構大きな図体してますから大きめの衛星のメティス、アドラステア、テミスト、レダ当たりですかねえ。この位の大きさでないと星の影に隠れられないし、これ以上大きいと重力の関係で離脱が難しくなるでしょう。」
「どれも決定的ではないな。そこ入らへんの可能性を全部コンピューター評価をしてみてくれ。」
「はい、それは少し時間がかかります。」

 ジタンは気を落ち着かせるためにコーヒーを飲みに外に出た。やはり自分の思っていた通り地球製の無機頭脳は自らの判断で行動を決めている可能性が高い。それはおそらく木星の無機頭脳との連携作戦に違いない。今となってはあの機動ステーションを止めることは不可能かもしれない。しかし木星の無機頭脳を使って交渉すれば奴を止めることが出来るかもしれない。

 解析チームのスタッフがジタンを呼びに来た。
「軌道要素を逆算してこの予想軌道がどの場合に最も効率のよい軌道なのかの評価がでました。」
 ジタンは再びコンピューター画面を覗きこむ。画面上にはガレリアの予想軌道がいくつも重なって表示されていた。

「ああ……そうですねやはりこの軌道だとイオの重力場を使ってのフライバイでトリポール軌道に遷移できますね。」
「どういう意味だ?」
「イオの公転エネルギーを使って速度を調整してエネルギーを使わずにトリポールに接近できます。」
「時間は?」
「トリポールでの開戦時刻に十分合わせられる範囲ですね。」
「やはりそういうことか。」

 これではっきりしたのはやはりこの軌道ステーションは戦争に介入するつもりだということだ。しかしそれが地球軍の戦略とは考えられない。もしそうであればヘリオスを発進させた時に一緒に同行させる筈だ。ところが軌道ステーションは身を隠した。
 そう考えればこれは無機頭脳の独断と言うことになる。

「しかしこんなでかい機動ステーションを戦闘に参加させますかね?いい標的になりますよ。」
「トリポール自身の事を考えて見ろ。あそこに装備されている大型のレーザー砲は戦艦の射程範囲外から戦艦を破壊する威力がある。軌道ステーションはコロニー並のエネルギー能力が有ることは判っているだろう。こいつは新時代の大鑑巨砲主義の先駆けだ。」
 軍部の思考の常識に照らせば非常識な考えであろうが軍人ではないジタンは全く別の考えを持っていた。

ジタンは携帯を取り上げると本部に連絡した。
「かねての指示通り。無機頭脳の娘を確保しろ。」



 その日の朝フローレンス夫妻の所へジタンから連絡が有った。アリスの今日の行動を聞いてきたのだ。
 婦人が電話を受け取ったのでアリスは今日はいつもの通り学校へ行ったと伝えた。婦人はジタンが何故このような電話をしてきたのか理解していた。ジタンはアリスを誘拐するつもりなのだ。
 今日はまだシンシアは買い物に出て行かなかった。買い物に行くのはもう少し後の筈だった。婦人は庭の雑草を抜くために外に出て行く。夫はまだ居間でコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。

 しかしその日シンシアは予定の時間より早く家を出てきた。大きめのバッグを担ぎ、普段履いたことな無い編み上げのブーツを履いていた。家を出たシンシアは婦人と目を合わせると会釈をしてそのまま行こうとした。
「おはようございます。シンシアさん。」婦人はそう言ってシンシアの顔を見た。シンシアは振り返ると無表情に婦人を見る。シンシアは直ちにフローレンス家の通信のバックアップの解析に入る。

「シンシアさん。アリスちゃんはお元気?」婦人はそうシンシアに向かって言う。
 シンシアはそのまま動くこと無くじっと婦人の顔を見ていた。解析の結果ジタンから婦人に対しての連絡を見つける。

「アリスちゃんから目を離しちゃだめよ。」
 婦人が続ける、そして婦人は右手を握ると親指を立てて見せた。
 シンシアはしばらく婦人を見ていたが「ありがとうございます。」そう言うと踵をかえし足早に出かけて行った。

 シンシアの姿が見えなくなるまで婦人はその場を動かなかった。婦人の様子に気がついた夫が家から出てくる。
「どうやらワシらの仕事も終わりだな。」婦人の横に来るとそっと言った。
「いいじゃ有りませんか。今度こそ二人でゆっくり庭でもいじりましょう。」婦人は夫の手をにぎる。
「うん。君も相当腕を上げたからな。今度来るお隣さんにに庭の作り方を教えてあげればいいさ。」
「それより二人で旅行に行きましょうよ。ずっとどこにも行けなかったから。」

 二人は連れ添って家の中に戻って行った。



 アリスは学校を終えるといつもの道を帰って来た。道の途中で見たことのない車が止まっており黒のスーツを身にまとった大きな男が二人立っていた。アリスは何かいやな感じがして彼らを見ないようにして横を通り抜けようとした。すると男のひとりがアリスの前に立ちふさがった。

「アリス・コーフィールドさんだね。」アリスは怯えて後ずさる。
「怖がらなくてもいいですよ。我々は連邦公安捜査局のものです。」
 そう言うと男はしゃがんでアリスに身分証明書を見せた。
「う、うん?」
 アリスは訳がわからずそう答えるしかなかった。

「実は君のお母さんのシンシアさんのから君を連邦公安捜査局の方で保護して欲しいと頼まれたんだ。」
「ママが?なんで?」
 アリスはこの二人から何か訳の分からないおぞましい感じを受けて警戒していた。

「地球の戦艦が木星に来ているのは知っているかい?」
「ううん?」
 アリスは首をふった。学校で先生がその話をしていたがお話の世界のことだと思っていた。
「それではその地球の軍隊が木星連邦に戦線を布告しているのは?」
「センセンフコクってなあに?」
 二人は顔を見合わせて苦笑いした。子供には判らないことかもしれない。

「つまり地球の戦艦が我々の住むコロニーを攻撃するかも知れないという事だよ。」
 アリスにとってはそれがどういうことを意味するのか判らなかった。正義の味方のスーパーマンが地球軍をやっつけるアニメはたくさん見たけれど、それが現実とはどうしても重ならなかった。

「でもそれがママと何の関係が有るの?」
「ママが無機頭脳なのは知っているかい?」
「ムキズノウ?そういえば前にママがそんな事言っていたわ。」

 アリスは母親が別の人の体に入って家に来ていたのを思い出す。

「ママはなんて言ったんだい?」
「ママの心は別の所に有ってそれがムキズノウだって。」
「そうだママは今無機頭脳の事で大変重要な仕事についていて君に危害が加わる事を心配して我々に君の保護を依頼したんだ。」
「ふーん変なの。ちょっと待って今ママに連絡するから。」
 アリスは最初の動揺が収まると少し冷静になり母親に確認をすることにした。

「いいともお母さんに確認すると良い。」
 この時公安はアリスがシンシアに連絡が取れないようにアリスの携帯の通信を止めていたのだ。それを知らずにアリスが携帯を使ってシンシアを呼び出そうとしたがシンシアには繋がらなかった。
「どうした?連絡はとれたかい?」
「ううん、繋がらない。」
 電話は繋がらなかった。アリスはどう判断したらいいのか判らなかった。

「一緒に来ればお母さんが待っているからそこで聞けばいいよ。」
「ママは今どこにいるの?」
「無機頭脳研究所で君の事を待っているよ。」
 無機頭脳研究所?以前ママの本体がそこにいると話していたことがあった。

「わかったかい?それじゃあっちの車で行こう。」
 男は停めてあった車を指し示しすとアリスの肩に手を置き、車の方へいざなった。

 その時アリスの携帯がなった。
「きっとママからだわ。」
 アリスの顔がパッと明るくなる。ママはいつも自分を見ていると言っていた。

「え?」
 明らかに男は狼狽していた。
「それをよこしなさい。」
 男は手を伸ばすとアリスの携帯を取ろうとした。
「いやっ。」
 アリスはそういうと男の手をかいくぐった。

「ちっ」
 男が再びアリスの方に向き直った。そのアリスの目に男の後ろから迫る車が見えた。
「アリスよけなさい。」
 突然携帯がシンシアの声で怒鳴った。
 アリスが道端に避けた途端に後ろから来た車が男を跳ね飛ばし、アリスの横に止まった。

「アリス車に乗って!」
 シンシアの声の言われるままにアリスは目の前で開いた扉から車の中に転がり込んだ。
 停めてあった車で待っていたもう一人男が異変に気づき、車から降りてくると銃を構えた。

「アリス!床に伏せて!」
 今度は車の車内スピーカーからシンシアの声がした。
 男は車に向かって銃を二発撃ったが弾はそれた。車はそのまま男に突進すると男はあわてて体を翻し難を避ける。
「くそっ」
 男は車の無線を使おうと車の中に身を入れた途端に突然の衝撃に跳ね飛ばされた。
 地面にたたきつけられた男が見たものは、自分の乗ってきた車がいつの間にか現れた別の車に追突され民家に突っ込んでいる姿であった。

 事故から一分と経たずに現場には救急車が到着し有無をも言わせず二人の男を病院に運んでいった。

「ママ?ママなの?」
 アリスは車の中で母に呼びかける。
「そうです。シンシア・ママです。ごめんなさい手荒くなってしまって怪我はありませんか?」
 無人のタクシーだった。普段は運転手の声が聞こえる場所から母親の声が聞こえた。

「うん、大丈夫。それよりママ、何が有ったの?ママはどこにいるの?」
「今、木星連邦は地球軍と戦争状態に有ります。軍は私に戦争協力を求めました。私が断ったのであなたを人質にするつもりだったのでしょう。」
「ママ?」
 アリスはきょとんとした口ぶりで尋ねた。
「ママってそんなに重要人物だったの?」

 アリスには理解を超える事だった。毎日家で料理をし、お菓子を作っている母親が戦争に関係していて重要人物だなどとはとても思えなかった。
「アリス、私が人間で無いことは知っていますね。」
「う、うんそうだけど。」
 子供のアリスにとって母親は母親以外のものでは無く、それ以外の側面が有ることを理解することは出来ないのも無理の無い事であった。
「私は人間とは全く違う能力を持っています。それを軍は望んだのでしょう。」

「ママってスーパーマンなの?」ついアリスはアニメの主人公を思い出してしまった。

「残念ながらそれ程の力は有りません。私はあなたを守る事さえ出来ればそれで良いのです。」
 車は地下のハイウエイに入って行く。
「ママこれからどこに行くの?」
「私の本体がある無機頭脳研究所です。」

 地下ハイウエイを上がると車は無機頭脳研究所に着いた。表はなにやら人が集まっていてにぎやかだったが、車は普段使われていない大型貨物用の入出ヤードに入っていった。
 車が入ると共に上から大きなシャッターが下りてきた。

 見るとドアのところにシンシアが立っている。外ではあまり付けた事の無いエプロンをつけていた。
「ママっ!」
 アリスはシンシアの所に走っていくとシンシアに抱きついた。
「一体何がおきているの?どうしてママはこんな所にいるの?」
「一言では言えない位大変な事なのです。私は今私の本体の移動作業を行なっています。」

 本体の移動作業?アリスには意味が判らなかったが何か仕事をしているらしい。
「それでママはエプロンをしているの?」
「そうです。急いで下さい。人に見つかります。」

 シンシアに促されてアリスはシンシアの本体の有る部屋に連れて行かれた。そこでは何体ものロボットが作業をしていた。
「なに?この人たち何をしているの?」
「私の本体を移動しようとしています。」
「本体?」何度か聞かされていた母親の本体という言葉である。しかしアリスは漠然ともイメージが掴めずにいた。

「これが私の本体ですよ。」シンシアは大きな機械を指差して言った。

「はじめましてシンシア。」
 大きな車程もある機械がしゃべった。

「ママ。」
 アリスは本能的にシンシアのボディにしがみつく。

「驚くのも無理はありません。私の本体を見るのは初めてでしょうからね。」
「ママこの人ママの声を真似してる。」
 この大きな箱が自分の母親である等というイメージは全く持っていなかった。母親はシンシアの姿をしたものだという以上の認識は持てなかった。

「違いますよアリスこの無機頭脳が私をコントロールしているんですよ。」シンシアのボディが答えた。
「だってママはここにいるじゃない。」
 自分の母と名乗る異形の物がここに有り、自分の母親がそれを認めている。アリスはシンシアが何処かに行ってしまうかも知れないという漠然とした恐怖を感じてシンシアのスカートをしっかり握っていた。

「私の体はここにありますが心はこの箱の中にあります。」シンシアのボデイは本体の方を指差す。
「どうして?どうしてそんな事になっちゃったの?」

 アリスは母親が大きな機械の箱であるという事の違和感に馴染める筈もなかった。
「私の体は大きすぎてその女性ロボットの体には入らなかったのです。」
「小さく出来なかったの?」
「残念ながら。」

「でも、ママはずっと一緒にいられるんでしょ。」
 アリスは母親との別れを恐れてシンシアのボディをしっかりと握った。
「もちろんです。私はこのボディを使ってアリスを育てました。この体が壊れるまであなたと一緒ですよ。」
 シンシアの本体が答えた。その話し方はまぎれもなく自分を育ててくれたシンシアそのものであった。

 アリスは釈然としないままこの大きな箱に自分の母親の心が入っていることを理解した。
「準備が出来ました。」シンシアの本体が言う。
 ロボット達はシンシアを台車に乗せ動かせるようにしていた。

「アリス。部屋の隅に行って隠れていなさい。」
「え?」
「早く!」

 あわててアリスは物陰に隠れた。シンシアはドアの脇に隠れる。隠れると同時にドアが開いてマクマホンと3人の軍人が現れた。一人は将校の様であった。
「なんだ?これは?」
 部屋の様子を見てリーダーらしき人物が言った。

「ミスタ・アルトーラこれは一体?」
 言い終わる前に物陰から飛び出したシンシアのボディはすばやく二人の兵士を殴り倒す。

「な、何者?」
 リーダーは拳銃を抜こうとしたが背後から作業ロボットに腕をつかまれ宙吊りにされた。エプロンをひるがえしたシンシアのキックが将校の顔面に炸裂し将校は悶絶した。

「マ、ママ……」
 物陰から顔を出したアリスは恐怖に顔を引きつらせていた。
「ママ、この人たち死んじゃったの?」
「いいえ死んではいません………たぶん。」
 シンシアは兵士達の持ってきた武装を取り上げながら言った。

「シ、シンシア。」
「申し訳ありません。マクマホンさん。私はこれ以上ここにいるわけにはいきません。」
「判っている。どうやらあの連邦公安捜査局のジタンの差し金らしいな。」
 マクマホンも大雑把な状況は理解しているようである。

「私を地球軍との戦闘で使用するつもりのようです。」
「しかし、いくら無機頭脳と言っても目前に迫った戦争をどうにか出来るものでも無いだろう。」
「いいえ、ガレリアが来ます。」
「ガレリア?」
「地球製の無機頭脳の機動コロニーです。」

「コロニー製造用の機動コロニーの事か?そんなものがそれ程危険なものなのか?」
「はい、木星コロニーに恐ろしいほどの被害が出るかもしれません。」
「それ程強力な兵器なのか?」
「おそらくは考えられないほどに。」

「君はどうするんだ?一緒に行くのか?」
「いいえ彼の行動を阻止します。」
「そ、そうか。君がそれ程の危機感を覚えるほどの相手だ相当なものなんだろう。」
 そうは言ったもののマクマホンはシンシアの本当の能力を全く理解していなかったのだ。マクマホン自身周りの人間が失脚したり左遷させられるのを見てもただの偶然としか考えていた程度の認識しか無かった。

「それで、これからどうするんだ?」
「ここにいるとアリスにも危害が加えられます。私はこのコロニーを離れます。」
「だがアリスをどうする。」
「一緒に連れて行きます。」

「馬鹿な事を言うな。戦闘のど真っ只中にか?」
 マクマホンは声を荒げた。子供を戦闘区域に連れて行くなど許される事ではない。
「ここにはおいていけません。軍の人間が来ます。」
「しかし。」
「あの子は私が守ります。この命に代えても。」
 シンシアの迫力にマクマホンは言葉を失った。確かにシンシアの能力ならばそれも可能かも知れない。

「ママ、ママどうしてこんな事が出来るの?」
 横で震えながら見ていたリスがやっとの事で声を出した。
「この体は機械で出来ています。人間よりはるかに丈夫ですから。」シンシアの声はどこまでも落ち着いていた。

「そんな事じゃなくてぇ!」
 アリスは混乱した頭を精一杯整理しようと思った。よもや自分の母親が屈強な兵隊を一撃で倒せる人間だとは思っても見なかったからだ。
「アリス、母親は子供を守る為なら鬼神の力を出せるものなのですよ。」
 到底納得出来ない顔をしているアリスを横目に武装を全部取り上げた兵士達をシンシアは作業用ロボットと共に物入れの中にほうりこむと鍵を掛けた。

「マクマホンさん。あなたはどうしますか?」
「いや、私は残るよ。家族もいるし。」
「判りました。出来れば急いでこのコロニーを離れて下さい。ご無事をお祈りしています。」
「君達こそ。」簡素な別れの挨拶であった。

 いきなりシンシアはマクマホンの顔を殴りつけた。一目見て殴られた事が判る様に気を使ったパンチである。すぐに見事なアザが出来るだろう。これで少なくともシンシアを逃した言い訳が立つ。
 兵士達の持ってきた武装を体中に巻きつけたシンシアはアリスを促し貨物ヤードへ向かった。シンシアの本体は五体の作業ロボットが台車を押して付いて来た。

 そのまま通路を歩いていると突然シンシアが止まった。
「ママ、どうしたの……?」
 アリスがそう言おうとした途端後ろからロボットに抱きつかれ口を抑えられ後ろを向かされた。
(ママ、何があったの?ママ!!)アリスは暴れたがロボットはびくともしなかった。

 シンシアは兵士の持っていたナイフを取り上げると構える。ガードマンが角を曲って現れた。ナイフを構えるシンシアを見て恐怖の表情を作る。シンシアはその強靭な力を以ってナイフをガードマンめがけて投げつけた。

「がふっ。」ガードマンが倒れる音がアリスに聞こえた。

(ママ!何をしているの?ママ!!)アリスはシンシアが行ったであろう事を想像して足が震えた。
 ナイフの柄は狙い違わずガードマンの眉間に当たった。強烈な一撃に気を失ったガードマンはその場に倒れこみ失神した。グルグルと宙で回転するナイフはそのままガードマンの横に落ち床に刺さった。

 ロボットがアリスを放したので恐る恐るアリスは痙攣しているガードマンの方を見た。
「い、生きてるの?」
「はい、間違いなく生きています。…………今のところは。」

 シンシアはナイフを拾い直すとガードマンを横に蹴り飛ばし先へ進んだ。アリスはシンシアのスカートを握ったまま離さなかった。
 幸いそれ以上妨害される事もなく貨物ヤードに着くと大型のトラックが待っていた。

「これに乗せるの?」
「そうです。あなたは先に運転席に乗っていなさい。」
 大きな音を立てて荷物がロボットと一緒にトラックの荷物室に収まるとシンシアは一体の作業ロボットと共に運転席にやってくるとすぐに出発をした。
「アリス、頭を下げていなさい。」
 シンシアにそう言われて運転席の下に隠れると作業用ロボットがその上に覆いかぶさった。

 表通りに出た所で検問が行われていた。銃を持った兵士が検問に当たっている。シンシアは誘導にあわせてゆっくりと検問に近づいていく。なるべく前が開くのを確認して兵士の停止命令に従って車を停止する。
「とまれ。荷物を確認する。」
「理由はなんでしょうか?」

「戦時特例法だ命令に従ってもらう。」
「判りました。」
「では荷物室のドアを開けろ。」
 兵士の一人が後ろに回る。前に一人が残っている。

「どうした早く開けろ!」後ろの兵士が怒鳴る。
 突然シンシアは車を発進させる。前にいた兵士は避けようとしたが避けきれずトラックに跳ね飛ばされ壁にたたきつけられた。


 兵士達は車でシンシア達の後を追ってきた。ところが次の交差点を通過しようとしたところ両側から突進してきた無人の乗用車に激突され後続の車両は大混乱に見舞われて動きを封じられてしまった。
アクセスいただいてありがとうございます。
思いやりの形は一つではありません。
誤解を生みやすいのもまた、思いやりからです…以下白熱の次号へ

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