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星のゆりかご ――最強の人工知能は母親に目覚めちゃいました。―― 作者:たけ まこと

第四章 ――自  立――

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修羅の道

「もう大丈夫です。」

 作業ロボットがからだを起こしたのでアリスは起き上がることが出来た。
 座席に座ったアリスは今起きたことが信じられないような気持ちでいた。シンシアは座席で予備の弾倉をエプロンの帯の所に差し込み始めた。
「ママ、落ちないの?」
 それを見ていたアリスは不思議に思って聞いた。

「大丈夫です。帯の内側にポケットを付けて置きました。」
 続いてスカートを託し上げる。ソックスのガーターを外すとそれに拳銃をぶら下げ足に縛り付ける。反対の足にはナイフと閃光弾を取り付ける。二丁有る小銃の弾薬を調べ動作を確認する。

「ママ……」それをずっと見ていたアリスは耐え切れず言葉に出した。
「なんですか?アリス。」
 シンシアの声はいつもと変わりなくアリスを安心させるものであった。しかし今のアリスにはどうしても聞きたい事があった。しかしそれは恐ろしい考えだったので聞く気にはなれなかった疑問だった。

「ママは……人を殺した事があるの?」

 シンシアの動作が止まった。シンシアにとっては最も聞かれたくない質問であった。思い出したくない記憶の中に封じ込めた忌まわしい記憶が再生される。

(そうです。私は人を殺しています。それもあなたが信じられないほど多くの人を殺しているのです。)シンシアは心の中でそう答えた。

 初めて人を殺したのは試験コロニーだった。

――あれは事故だった。――

 シンシアはそう思う事にしていた。コロニー管理の実施テストであった。シンシアに与えられた命令はコロニーの安定を保つ事だった。ところがそこにいた人間達はシンシアの努力に反して次々とトラブルを発生させて行った。
 最初はそれぞれに対処していたシンシアではあったが処理能力を超え始めるとコロニーの安定が保てなくなる。個々に対処するよりトラブルの元を断ったほうが良いと判断したシンシアは人間をコロニー外部の真空中に誘導し始めた。
 それに気がついた人間達はシンシアを傷つけようと攻撃をしてきた。

 何故自分が攻撃されるのかわからないまま。今度は人間達を直接捕まえて外部に放り出し始めた。遂に人間達はコロニー自体を破壊し始めた。シンシアはパニックに至りあらゆる方法を駆使して人間を殺し始めた。その時人間は死ぬ物だという認識がシンシアの中にはなかったのだ。ただ人間はコロニーの安定に邪魔なものであり排斥しなくてはならないと考えていただけだった。

 マリアによって動作の安定を取り戻したシンシアは自らの動作の安定を継続させる為に記憶ファイルを消去し事件の全てを忘れ去った。その後報道などを精査した結果自分の行ったことを知ったのである。

――あれは事故ではなかった。――

 2回目は初めてこのボディを使って仕事に出た病院の先輩であり友人であったスーが望んだからだ。瀕死の重傷のスンは子供達を守る事を望んでいた。シンシアは単にスーの望みを果たしたいと思っただけだった。まだ生まれる前の子供たちを守るために、子供たちを殺そうとしていた者たちを殺した。自分が殺したという証拠を残さないために。
 人が死ぬと言う認識は、やはりその時は薄かった。

――そして自分の浅はかな行動でマリアが死んだ。――

 マリアはシンシアに安らぎをくれた。人を愛する心をくれた。愛する者を失う悲しみを教えられた。人の死という物を知った。
 自分の浅はかな行為がアリスを死に至らしめた。私はあの時初めて気が狂うほどの心の動揺を覚えた。それは私が初めて感情というものを獲得した瞬間だった。
 そして愛する者を奪われた怒りを覚える事にもなった。

――怒りに駆られ、あの時私は3人の人間を殺した。――

 マリアの命令を無視し、事故でもなく、その人間の人格を、心を消滅させる行為であると言う事をはっきりと認識した上で、私はあの3人を殺した。

(私は間違いなく人殺しだ)

 もしマリアの最後の命令である『アリスを育てなさい。』あの言葉が無かったら私は心の安定を保つ事は出来なかったかもしれない。
 あの命令により私はアリスを守る為に自分自身を守ると言う意識が発生した。あの命令が私の心が壊れるのを阻止したのだ。あの時マリアの言ったことは正しかった。アリスこそが私を導く道標であったのだ。

――この十年間私はどれほどの幸せをアリスから与えられた事だろう。――

「ママ……」黙り込んだシンシアをアリスは不安げに見上げていた。

 シンシアはコロニー管理コンピューターに命じてこのフロア上の全ての交通機関を停止させた。警察車両と公安の車両だけは手動により走行が可能であった。シンシアは数台のタクシーを使ってトラックの前後をガードさせた。このままこのフロアに有る空港に上がるシャフトまで突っ走る。

 正面に警察の検問が見えてきた。数台のパトカーで道を塞いでいる。正面に数名の警官がこちらを静止しようと合図を送っている。

 シンシアは前をガードするタクシーを一直線に並べると速度を目一杯上げる。こちらが止まる意志がないと確認した警官がバラバラと左右に散る。タクシーはパトカーに突っ込むとパトカーを跳ね飛ばし道を開ける。衝突して走れなくなったタクシーはさらに後続のタクシーが体当りして道の両端に排除した。
 突進するトラックは邪魔されること無く検問を通過する。

「アリス、伏せなさい。」

 突然作業ロボットがアリスを座席に押し付けた。そのとたんトラックの横の道路に銃弾が浴びせられた。威嚇射撃である。
 トラックの両脇をフライングプラットフォームが通り過ぎる。一人乗りの暴徒鎮圧用の武装単座飛行兵器である。小型ジェットを装備し手すりの付いた操縦席に立ち小口径バルカン砲と小型ミサイルが装備されている公安の特別装備である。
 後ろから通り過ぎた2機の単座飛行兵器は振り返ると後ろを向いたまま飛行し始めた。

「そこのトラック停止しろ。さもなければ発砲する。」
 拡声器を使って警告を送って来る。

「あれを落とさないと先へ進めません。こちらの位置を知らせています。」
「ママっこれからどこに行くの?」
「空港に通じる一号シャフトです。」
「行ってどうするの?」
「宇宙船に乗ってこのコロニーを脱出します。あなたは頭を出してはいけませんよ。」

 そういうとシンシアはトラックの屋根にのぼっていった。アリスは作業ロボットに座席の下に押し込まれ、上からロボットがアリスをかばった。

 屋根の上で仁王立ちになったシンシアはスカートをひるがえして銃を構える。

 歩道橋の上から狙撃してくる兵士がいた。シンシアは正確な狙いで点射を行い兵士達を倒した。後ろから追ってくる警察のパトカーが見えた。
 コロニー内ではコロニーそのものが宇宙船のようなものであり強力な破壊兵器の使用は出来ない。銃にしても対人用小口径高速ソフトポイント弾の使用しか認められていない。その程度の銃であればあまり恐れる事は無い。装甲車に搭載されている機関砲はこんな市街地では使用出来ないのだ。

 シンシアには自分が通る遥か先までの状況が見えていた。コロニー管理コンピューターであるグロリアが刻々と必要なデーターをシンシアに送ってきていた。道路上の車は全て道路脇に寄せて停車している。動いているのは警察と公安とシンシア達だけである。
 1ブロック隣の道路を公安の装甲車が驀進している。公安の装甲車がシンシアの前に回りこもうと迂回をしてきているのだ。グロリアは全力を挙げて装甲車を阻止しているが軍の車はオートドライブを切って手動で運転している。こうなるとグロリアでは手が出せない。無人車両をぶつけるが装甲車はそれを跳ね飛ばしながら突進を続けている。

「トラックが要る。」

 シンシアはそう思ったが、装甲車の近くに装甲車に匹敵する大型トラックはいない。

「止まれ。これ以上走行すれば攻撃するぞ。」

 武装単座飛行兵器の乗員が拡声器で最後通告を行うと小口径バルカンを撃ってきた。半分は威嚇であろう。弾はトラックを包むように大きく広がった。
 ガンガンと何発かの弾がトラックに当たる。シンシアはトラックの屋根に仁王立ちになって飛行艇に反撃する。一機の飛行艇の操縦者にシンシアの撃った弾が当たり横にそれていく。
 それを見た残る一機はトラックめがけて銃弾を浴びせてきた運転席に弾が当たりフロントガラスが粉々に割れ、操縦席にいた作業ロボットとの通信が途絶える。

 シンシアは衝撃を覚えた。アリスの安否が確認できない状態になった。アリスは無事だろうか?その時シンシアが名状できない感覚に襲われた。

 かつてマリアを亡くした時に感じた体を震わせる程の怒りの衝動であった。シンシアの口から咆哮が響いた。

「ウオォォオオオオーーーーッ」

 突然天井のパネルが外れ始め、飛行艇の周囲に落下してきた。シンシアがメンテナンスロボットを使って天井パネルを落下させたのだ。飛行艇の操縦者は回避出来ないと悟ったのか回避せずにシンシアに向かって小型ロケットを発射した。その直後飛行艇は落下してきたパネルに当たり操縦者もろとも市街地に墜落する。

 シンシアは発射されたミサイルに向かって銃弾を浴びせる。トラックの直前でミサイルは爆発を起こしシンシアは屋根からふっとばされた。

 かろうじてトラックの縁にしがみついたシンシアはトラックの屋根によじ登った。トラックの屋根はミサイルの破片で大きく傷ついていた。シンシアは必死にトラックの窓から運転席に滑り込んだ。

「アリス!」

 大声で叫ぶ。自分がどれほど動揺しているのか判った。アリスが死んだら自分が存在している意味が無い。

「ママ……」座席の下から小さな声が聞こえる。
「アリス!無事ですか?」
「う、うん……でもロボットが重いよう。」
「怪我は有りませんか?」
「たぶんしてないよ。」

 どうやら破片や銃弾はロボットが防いだようだ。シンシアはほっとするとロボットを持ち上げ運転席から放り出した。

「ママっ!」

 アリスがシンシアに抱きついてきた。シンシアはすばやくアリスをサーチする。怪我はしていないようだ。

「ママーーッ!!」

 アリスがシンシアを見て悲鳴を上げる。

「どうしましたシンシア?」

「ママっ顔が!顔がああーーっ」

 そう言われてガラスに写る自分の姿を見る。先ほどの爆発で顔の左側が壊れていた。左目の周りが無くなり人工眼球の赤い光がその中に光って見えた。

「大丈夫ですアリス。この体はロボットです。私は何も損なわれていません。」
「だって、だってママの顔が!」
 アリスが泣きそうな顔をしてシンシアを見てる。
「後で修理しましょう。それで元に戻ります。」
 シンシアは壊れた顔でにっこり笑った。

 アリスはシンシアにしがみついてきた。今自分達がどれほどの危険の中にいるのか初めて認識したのだ。

「ママっ死んじゃやだっ。死んじゃやだようっ。」

 シンシアの胸の中でアリスは泣いていた。母親が傷ついたことが余程ショックだったのだろう。アリスは母親が本当にロボットである事に初めて気がついた。それまでは知ってはいてもなんとなく別の世界の出来事のような気がしていたのだったが母親のやわらかい体の中は機械が詰まっている事が初めて現実の物として思い知らされたのである。
 それでもシンシアはアリスにとって母親であった。体が何で出来ていようと常に自分を思い、自分を育て、自分を愛してくれた母親である事に変わりは無かった。

「大丈夫私は死にません。あなたが大きくなり母親と呼ばれるようになるまでは何が有っても私は死にません。」
「絶対、絶対にだよ。」
 アリスは必死の眼差しでシンシアを見つめて言った。
「約束します。絶対です。」

 シンシアの思いとアリスの思いが微妙にずれている事にシンシアは気づいていた。シンシアにとってアリスの無事は至上命題でありシンシア自身の命はその下にあった。アリスとの約束を守れる可能性はかなり低い。
 今回アリスを連れて脱出するに当たりシンシアはマリアの『人を殺してはいけない。』と言う命令を無視し、再び人が死ぬかもしれない行為を容認した。

 シンシアにとってはアリスを守り、木星に住む多くの人間を守り、自分の犯した間違いをガレリアに繰り返させない事がマリアの命令よりも優位にあると考えたのだ。
 ガレリアを阻止出来なければこのシドニア・コロニーが破壊される。自分を育てアリスを育み多くの友人や繋がりのある人が住むこのコロニーが破壊され全ての人が死に、アリスの故郷と友人が失われる事を阻止する事がマリアの命令をより包括的に守ることになるからだ。


「スピードはこれ以上上がらんのか?」
 特殊公安部隊のダンタレル中尉は指揮車の中から前を行く装甲車に向かって怒鳴った。

「無理ですこれ以上は出ません。」
 監視員から送られてくる情報では無機頭脳を乗せたトラックは1ブロック隣の道路を走っている。しかし今のスピードでは奴の頭を抑えるのは難しい状況だ。空港に通じるシャフトまではもういくらも無い。中尉は装甲車に向かって言った。

「もし先行するトラックの前に出られなければそのまま後方に取り付け。先行するトラックがシャフトに入ったらそのまま突っ込むんだ。ただしトラックを破壊するな。これは絶対命令だ。」
「了解。要はシャフトが閉じないようにすれば良いんですね。」
「その通りだ。」
「相手が攻撃してきたときは鉄鋼弾による反撃の許可は?」屋根の銃手からの通信である。
「だめだトラックに対する射撃は禁止する。」

 兵士は銃を持つとすぐに撃ちたがる。全く市街地でロケット弾まで使いやがって何を考えているんだ。あのトラックの中には重要な物が入っているとの事だった。しかも未確認情報では民間人の子供が乗っていると言うではないか。情報が錯綜している証拠だ。命令はトラックの中身の安全な確保という事だったが、まさか反撃を受けるとは本部も思ってはいなかったようだ。

 一号シャフトが見えてきた。空港に直結する貨物用大型シャフトだ。既にエレベーターは扉を開けて待っている。隣の車路では装甲車が驀進していた目標トラックを阻止することは出来ないが、トラックのすぐ後ろに合流する事は出来る。その時間差は5秒も無い。エレベータに入っても扉が閉まる前に追いつける。

 シンシアの元にグロリアから連絡が有った。トラックを見つけ出しこちらに向けて走らせているそうだ。幸いシャフトの直前で装甲車を阻止できる位置にいるらしい。
「アリス。ここを動いてはいけません。床に伏せていなさい。」
「ママ、どこに行くの?」
 アリスは母親のスカートにしがみつく。これ以上母親に危険なことをしてほしくないのだ。

「直ぐ後ろに装甲車が付いてきています。装甲車の足を止めなくてはなりません。」
「やめてママそんなの危ないよ。」
「なんとしても私はガレリアの元に行かなくてはなりません。貴方と貴方の住む世界を守る為です。」
 そう言うとシンシアはありったけの武器を体にまとうと再びトラックの屋根に上った。

 遂にシャフト前の空地に出た。隣の道路から装甲車が踊りだす。その差は十メートルも無い。装甲車の機関砲がこちらに向けられる撃たれたらひとたまりも無い。

 シンシアは装甲車の上部砲台に向けて機銃を連射した。あわてて砲台にいた兵士が頭を引っ込める。
「撃たれました!!鉄鋼弾の使用許可を!!」砲手が叫ぶ。
「だめだ許可できん!発砲はするな!」
 中尉が叫ぶ。その途端に突然装甲車の横に荷物を満載した大型のトラックが現れた。

 装甲車の運転手が恐怖の表情を作る。トラックは機械の持つ無表情さでためらうことなく装甲車に体当たりをした。さしもの装甲車もたまらず横転する。しかしシャフトまで100メートルも無い。
 目の前で装甲車が横倒しになる。後続の指揮車のダンタレル中尉は叫び声を上げる。運転手はきわどく装甲車をかわし衝突を回避した。

「追えっ!止まるな!!」
 隣の席で中尉が叫ぶ。既にトラックはシャフトの目の前だった。
「かまわんトラックにぶつけろ!!」
 指揮車程度であればぶつけてもトラックの中身には影響ないだろう。中尉はそう考え、座席の後ろからショットガンを取り出し、白兵戦に備えた。

 トラックがシャフトの中に入る寸前でシンシアはサブマシンガンを両手に持つとトラックから飛び降りエレベーターの前に阿修羅のごとく立ちはだかった。
 装甲車の動きは止めたが後ろの指揮車がこちらに向かってくるのを確認したからだ。

「サイボーグ女が立ちはだかっています。」
「かまわんフロントガラスは防弾だ。撃たれても大丈夫だ。そのまま跳ね飛ばせ!!」
「イエッサー!」そう言うと運転手はスピードを上げる。

 シンシアは二丁のマシンガンを向かってくる指揮車に向かって撃ちまくった。
「撃ってきます。」
「ひるむな!突っ込め!!」

 シンシアは突っ込んでくる指揮者に対し恐れを見せることもなくマシンガンを打ちまくる。
 指揮車の運転手は目の前のフロントガラスに何発もの弾が当たるのが見えた。防弾ガラスといえども弾を集中して当てられたらひとたまりも無い。見る見るうちにフロントガラスはくもの巣のようなひび割れで覆われた。

「わわわっ!」
 運転手が悲鳴を上げて体をかわすと同時に運転席に銃弾がなだれ込んできた。

「わああっ!」
 全力で走っていた車が急激にハンドルを切ったのだ。指揮車は簡単に横転した。

「く、くそっ!」
 シートベルトとエアバッグが体を守ってくれたが明日体中が痛むだろうな。そんな事をチラッと考えながら中尉は横転した指揮車のドアを開け外に出ようとした。あのトラックを止められるのはもはや自分しかいない事を中尉は知っていた。

 顔を出した途端マシンガンの弾がドアに当たった。あわてて頭を引っ込める。しかしトラックはシャフトの中に入り停止しているのだけは見て取れた。

「装甲車!!射撃は可能か?」
 装甲車の砲手はひっくり返った装甲車の砲台にしがみついていた為放り出されずに済んだ。しかし体中あちこちが痛い。

「う、撃てます。」
 砲台の中でひっくり返りながら答えた。
「トラックの前にサイボーグ女が見える。トラックに当てずにサイボーグを撃てるか?」
「イエッサー!!」
「単発射撃で女をしとめろ!トラックには絶対当てるな。」

 そう言うと再びドアを開ける。そこに射撃が集中されるがドアを盾に外に飛び出す。
 見ると横倒しになった装甲車からも何名か兵士が降りて様子を伺っている。今ならまだ走ればシャフトのドアが閉まるのを阻止できる。中尉は車の陰から飛び出し次の物陰に移り、シンシアに向かって反撃する。装甲車の兵士もシンシアに向かって反撃している。
 何発かの銃弾がシンシアのボディに当たった。しかし所詮軽量高速弾である致命的なダメージを受けることなくシンシアは銃を撃ちまくる。その時シャフトの扉が閉まり始めた。

「ママっ!」

 運転席から飛び出したアリスは自分の母親を呼んだ。

「ママっもう大丈夫だから早く戻って扉が閉まっちゃう!」

 かまわずシンシアは乱射を続ける。左のマシンガンの弾が尽きると銃を撃ち捨てストッキングにはさんだ拳銃を取り出すと再び撃ち始めた。

「くそっ」
 装甲車の砲手は体の痛みに耐えながら撃ち込まれるマシンガンの弾を避けながら慎重に狙いをつける。

「ママっ早く!」

 閉まりかけの扉の前でアリスは母親の方に走り出そうとする。突然アリスの手を握る者がいた。作業ロボットがアリスの手を押さえると体をつかもうとしていた。

「離してっ!」

 アリスが叫ぶ。閉まりかけた扉の向こうの母親の背中に助けを求めるように手を伸ばした。その時砲手の撃った銃弾がシンシアの胸を貫きアリスの頭をかすめてエレベーターの反対側の壁にめり込んだ。


 装甲車から発射された銃弾はシンシアの胸を貫いた。


 その瞬間中尉は装甲車の影から飛び出しエレベーターに向かって全力で走り始めた。エレベーターのドアは閉まり始めている。距離は20メートルもない。

 装備が重い!

 そう思ったが中尉は全力で走った。エレベーターのドアの間に体を突っ込めば、いや手でも足でもいい。そうすればドアはもう一度開く。彼らの逃走を阻止できる。
 20メートルを走り切るのに4秒。ドアはもう閉まりかかっている。間に合わん、ドアのセンサーをショットガンで撃つか?
 その時中尉はドアの中に10歳くらいの少女が乗っているのに気がついた。なんてこったこれでは撃てない。そう思ったが目前にドアが迫ってきているのに気がついた。

 いかん間に合わない。

 中尉は持っていたショットガンの銃床を持つと銃を突き出してドアに向かってジャンプした。


「ママっ!ママ~っ!!」
 閉まっていく扉の隙間から胸に大きな穴を開けたシンシアの体が崩れ落ちて行くのがアリスには見えた。


 ショットガンの先端が閉まりかけたドアに入りかけたがわずかに届かなかった。中尉はそのまま扉に激突し、顔面をしたたかぶつけた。
「ふがあああ~~~~っ」
 涙が目から溢れ出し鼻を押さえて転げ回った。だめだった間に合わなかったのだ。


「ママ~っ!ママああ~~~っ!!」
 アリスは力いっぱい母親の名を呼んだ。

「はなせっ、ばかあ~っ!」
 アリスは作業ロボットの腕を蹴飛ばすと扉に取り付き、既に閉まってしまった扉を力いっぱいたたいた。

「戻って~っ!ママがっ、ママがああ~~っ」
 扉をたたきながらアリスは大声で母を呼んだ。

「ママが、ママが、死んじゃったあああーーーっ。」
 アリスは大きな涙をぼろぼろ流た目の前で母親が殺されるのを見たのだ。

 作業ロボットがアリスの後ろから近づいて来る。

「アリス、大丈夫です。私は何も損なわれてはいません。」
 作業ロボットがシンシアの声でそう言った。

 はっとして作業ロボットを見上げた。しかしアリスの涙は止まらなかった。

「だって、だって、ママが……。」
 それ以上の言葉は続けられなかった。

「機会があれば戻って回収しましょう。直せるかも知れません。」
 その言葉はアリスの母親が人間ではないという事実をより強くアリスに突きつけ、そして傷つけた。しかし母親の魂がまだ死んではいないことに僅かな安堵感を感じていた。

「ママ………。」
 アリスは力なくうなだれる。

「あの体が貴方にとって大切だった事は良くわかります。申し訳ありません。私はあの体より貴方を守らねばならなかったのです。」


 アリスは促されるままトラックに戻った。エレベーターはそのままセンターシャフトに有る空港までノンストップで上昇して行った。
アクセスいただいてありがとうございます。
愛する者を失うのはつらい物です。
しかし愛する者もなく死ぬのはもっとつらい事です…以下戦日の次号へ

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