第7話 魔王の魔法
今日も勇者は魔王城へ向かっていた。
「今日は絶対に戦う」
もう朝ごはんにも流されない。
畑にも付き合わないし、昼寝もしないし、本も読まない。
決意を固め、勇者は城門を押し開けた。
「魔王!!」
裏庭では魔王が畑を眺めながら腕を組んでいた。
それはいつも通りだった。
「あ、勇者来た」
「今日こそは、勝負だ!」
剣を構えて今にも斬りかかって来そうな勇者を見ながら、魔王は微笑んだ。
「うん」
魔王があっさり頷くと、勇者は思わず固まってしまった。
「……え?」
「魔法を見たいんでしょ?」
「見たいとは言ってない!」
「じゃあ、見せよう」
「話、聞いてる?」
魔王は静かに畑の中央へ歩いて行き、クロウは少し離れた場所まで下がる。
「魔王様、本気ですか」
「うん」
勇者は剣を構えた。
(来る……)
巨大な炎か。
雷か。
空を裂くような禁呪か。
世界最強の魔王なのだから、それくらい使えて当然だ。
魔王はゆっくり右手を空へ掲げる。
ふわり……と黒い魔力が空へ舞い上がる。
空気が震え、大地が小さく唸り、勇者は思わず息を呑んだ。
「これが……魔王の魔力……」
魔法陣が空いっぱいに広がる。
その大きさは、畑どころか山一つを覆ってしまいそうだった。
「すげぇ……」
勇者の額に汗が伝った。
これまで見てきた魔族の魔法とは比べ物にならない程の圧を感じた。
────勝てるのか?この力に。
勇者は息を飲み、どう攻撃に対応するか考え始めた時だった。
クロウが静かに微笑んだ。
「始まりますよ」
魔王は優しく目を閉じ、小さく呟く。
「元気に育ってね」
次の瞬間。
キラキラキラ……柔らかな光が畑一面へ降り注いだ。
土がふっくらと盛り上がり、トマトが赤く色づき、ナスは艶を増し、きゅうりはみるみる大きく育っていく。
畑全体が生命力に満ち溢れた。
魔王は嬉しそうに目を輝かせ、畑に向かい拍手する。
「みんな立派だねぇ!」
勇者はしばらく固まったまま畑を見つめた。
「…………」
「…………」
「…………」
そして────。
「どこに魔力使ってんだよぉぉぉぉ!!」
魔王城の裏庭へツッコミが響き渡った。
「世界最強の魔法なんだろ!?」
「うん」
「もっとあるだろ!」
「あるよ」
「じゃあ戦えよ!」
魔王は首を傾げた。
「いやぁ……」
少しだけ恥ずかしそうに鼻を掻く魔王に、勇者は頭を抱えた。
「力の無駄使いだろぉぉぉ!」
クロウは収穫された真っ赤なトマトを一つ手に取り、小さく笑った。
「豊作ですね」
「うん!」
魔王は満面の笑みで頷くと、優しい微笑みを勇者に向けた。
「勇者のおかげかな」
「なんで俺!?」
「応援してくれてたでしょ」
「してねぇよ!」
魔王は真っ赤なトマトを一つ勇者へ差し出した。
「はい」
「…………」
勇者は少し迷ったあと、受け取ってしまった。
「甘いよ」
一口かじる。
「…………うめぇ」
魔王は嬉しそうに笑って、呟いた。
「良かった」
────今日の勇者。
魔法を見て、驚いていた。
トマトも美味しそうに食べてくれて、嬉しかった。




