第10話 二人の勇者
魔族達が一斉に地面を蹴り、勇者へ襲いかかった。
「そこまでだ」
低く響く声が聞こえた、次の瞬間だった。
ズォンッ!!
巨大な剣圧が地面を薙ぎ払い、先頭を走っていた魔族達をまとめて吹き飛ばす。
「がぁっ!?」
土煙の中から、一人の男がゆっくりと姿を現した。
大きな剣を肩へ担ぎ、ため息を一つ。
「数で襲うとは、感心しないな」
銀色の髪が風に揺れる。
勇者は目を見開いた。
「……誰だ?」
その問いに答える者はいない。
吹き飛ばされた魔族達が体勢を立て直し、再び飛び掛かった、その時。
「遅い」
シュンッ――。
一人の青年が静かに剣を振る。
剣先が空を切っただけ、勇者にはそう見えた。
だが一拍遅れて、
ズバァッ!!鋭い斬撃が一直線に駆け抜け、魔族達の足元を裂いた。
「なっ……!?」
地面が大きく抉れ、魔族達は思わず足を止める。
青年は剣を静かに鞘へ納めた。
「これ以上はやめておけ」
その声に、森が静まり返る。
大剣の男は苦笑しながら肩を竦めた。
「相変わらず容赦ないな」
「お前が加減しないからだ」
「悪い悪い」
二人はまるで散歩の途中で立ち話でもしているような気楽さだった。
勇者だけが取り残されていた。
「…………」
目の前で魔族を圧倒した2人の顔には敵意がない。
「……誰なんだ、あんた達」
勇者が問うと、銀髪の青年が少しだけ考え、口を開いた。
「”元”勇者かな」
「なんだよ、”元”って。今も勇者だろ」
黒髪の青年が即座にツッコむと銀髪の青年が苦笑いした。
「勇者って……いや、なんで勇者が魔王城近くの森にいるんだよ!!」
「いや、ルシ……魔王に会いにきた」
「上等な茶葉が手に入ったって連絡もらって」
「はぁ?!」
もはや、勇者には意味が分からなかった。
魔族を圧倒する実力の2人が元?いや現役勇者で、魔王に会いにきて、お茶会をしてたとでも言うのか?
「魔王に……会いに?」
勇者は目の前の二人を交互に見た。
どう見ても強い。
いや、強いどころではない。
自分が苦戦していた魔族達を、一瞬で制圧した。
それなのに「茶葉が届いたから遊びに来た」そんな顔をしている。
「いや、待て待て待て!」
勇者は頭を抱えた。
「勇者だよな!?」
「そうだな」
「勇者だ」
二人はあっさり頷く。
「じゃあなんで魔王と仲良くしてるんだよ!?」
「仲良く?」
銀髪の青年は首を傾げた。
「まぁ……仲はいいな」
「いや、良すぎるだろ!!」
勇者のツッコミが森へ響き渡ると、黒髪の青年は肩を竦める。
「お前は魔王に会った事、あるか?」
「あるけど……」
「じゃあ、分かるだろ」
「分かる訳あるか!」
平然と真顔で話す黒髪の青年に勇者のツッコミが決まった、その横で、銀髪の青年が頷いていた。
「ルシ……魔王はいい奴だからな。」
「あんた、またなんか言いかけたな!?」
「気のせいだ」
「絶対違う!!」
勇者は思わず叫んで話していた。
この二人。
強い。
落ち着いている。
なのに、どこか抜けている。
いや、それ以上に――
魔王を友達みたいに話している。
おかしい。
勇者が魔王と仲良くお茶会なんて……いや、自分もご飯食べたり、畑仕事したり、お昼寝したり読書を実際しているではないか。
勇者の中で、勇者と魔王の常識が壊れていく気がした。
「……帰りたい」
勇者が思わず漏らすと、銀髪の青年は苦笑した。
「大丈夫」
「何が!?」
「たぶん、おやつ食べたら落ち着く」
「その理屈が一番分かんねぇよ!!」
黒髪の青年が小さく笑う。
「今日はマカロンらしい」
「おっ、マカロン大好きだぜ!」
「魔王のマカロン、美味いよな」
二人はごく自然に歩き始め、魔王城の入口を目指した。
「ちょっ、待て待て待て!!」
勇者は慌てて2人の背中を追い掛けた。
(なんなんだ、この人達……)
魔王より先に。
勇者の常識が、音を立てて崩れ始めていた。
「あの!ちなみにあなた達の名前は!?」
勇者が問いかけると、2人は振り返り足を止めた。
そして、銀髪の青年はニヤッと笑って名乗った。
「俺は、ソーマ。大剣使いで光の魔法を剣に纏わせる事が出来る」
「俺は、レン。片手剣使いだ。氷の魔法で、斬撃を飛ばして戦える。さっきみたいにな」
「ソーマとレン………」
「ちなみに、お前の名前は?」
レンが勇者に問いかけると、勇者は少し俯いた後、2人の目をしっかり見つめて、自分の名前を名乗った。
「俺は、エルピスだ」
────今日の勇者。
森で襲われたようで心配した。
ソーマ、レン。
守ってくれて、ありがとう。
※ソーマとレンは『まだ名もなき怪物達』より、友情出演して頂きました。※




