第9話 白い花
「今日こそ……」
そう言いかけて、勇者はため息をつく。
「……いや、今日は何してるんだ?」
自分でも驚いた。
“戦う”より先に、魔王が何をしているのか考えてしまった。
「慣れてきてるじゃねぇか……」
頭を振り、城の裏庭へ向かう。
しかし、畑に魔王の姿は見えなかった。
また、牧場か?と首を勇者は傾げた、その時だった。
ガサッ。近くの森から物音が聞こえた。
「魔王?」
勇者は足音を殺しながら森へ近付いた。
木陰からそっと覗く。
すると────。
「……」
魔王はしゃがみ込み、小さな白い花を見つめていた。
「今年も咲いたね」
優しく微笑み、土をそっと撫でる。
勇者は思わず目を見開き、呟く。
「……花?」
魔王は立ち上がると、小さく笑い森の花々を愛しそうに見つめる。
「また来年も咲いてね」
それだけ言って満足そうに城へ戻っていく。
勇者は花の前へ歩み寄った。
何の変哲もない、小さな白い花だった。
「……本当に、何なんだ?」
首を傾げながら帰ろうとした、その時だった。
ザッ。
森の奥から気配がし、勇者は反射的に剣へ手を掛けた。
木々の隙間から現れたのは――
角を持つ魔族達。
一人、二人ではなく、何人もいた。
その視線が、一斉に勇者へ向いた。
「……勇者だ」
低い声が響き、勇者は静かに剣を抜いた。
「ようやく……戦い」
勇者が呟いた、その瞬間。
魔族達が一斉に地面を蹴り、襲いかかってくる。
「そこまでだ」
────白い花が咲いていた。
小さな花だ。
地に根を張り、懸命に咲くその姿は
勇者のようだった。




