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第30話 必要のないもの

「そしてお前は、それがもうできるのに、やっておらん」


……うん、わからないよ、師匠……

なに?私なんかまたやらかしてるのかな。

今までやったのは……、火柱、光の花、魔術の街灯、動きの補助…、今できた水玉…、他にあったっけ?


「これじゃよ、これ」

アサルカは焚き火を指差す。


「焚き火……、がどうしたの?」


「これ、どうやったか、もう一回、言ってみよ」


……むぅ、わかりやすく言ってくれない師匠はイジワルだ

「薪を集めて、魔術で火をつけて、…半分くらい炭になったけど、それだけよ?」


「『魔術で火をつけて』、を詳しく」


……ん、ここが核心?

「魔力でマナを集めて、空気の中の燃える物を集めて、マナを熱に変えて、火をつけたわよ?」


そう言ったところで、ミリアは固まった。

自分で自分が言ったことがおかしく感じた。


……あれ?燃える物、薪があるじゃない…


アサルカは小枝を取り、言う

「気づいたな?『火』という概念に縛られるな。薪に火をつけるために、火を用意する。それは普通なら間違いではない」


小枝の先端にマナが集中し、その部分だけ景色が歪んでいく。

「だがの、魔術は何をなすか、そのために必要な物は何か、を考えよ。この場合は熱だけあれば良い。不要な物は省いていいんじゃよ」


小枝の先端から煙が上がり、赤く光ったと思ったら、火が灯った。


「明日、実践じゃな。それよりも、早う干し肉食べんか。食える時に食って備える、それは必要なことじゃぞ」


ミリアは干し肉を見て、生唾を飲み込み、そっと干し肉を握った手をアサルカに差しだす。

「師匠…、肉……ダメそう。お菓子……ちょうだい」


旅の夜は更けていく



次の日の、ローゼスト商業区。


アンナは先輩メイドと共に、買出しに商業区まで来ていた。

買出しはメイドにとって、少しの息抜きになるし、自分の買い物もできるので、取り合いになる仕事だ。今日は当番が回ってきた、ちょっと気分があがる。

「アンナ、少しは気分はれた?」

先輩メイドに声をかけられる。お菓子を半分取られたとはいえ、仲はいい。我儘極悪令嬢に扮したミリアさまの唯一の犠牲者なので、あの場に立ち会った身としては、可哀想になる気持ちもあった。


「はい!誘ってくださって、ありがとうございます!」


一通りの買い物がすんだところで、男の人に声をかけられた。


先輩、男性にもてるよね、今日何回目だろ?やっぱり胸かな?そうだよね、みんな見てるし。


「あなた方、フレアベット家のメイドさんですよね?ミリア嬢について教えてほしいんですが…」


アンナはミリアの名に反応して、体が固まる。

男の顔を見る。

細い目の整った顔立ち

最近、何かにぶつけたのか、顔に擦り傷がある。

にこやかな表情の中に、なにか物騒な雰囲気がある。


アンナに話しかけたその男。

それは、異端審問官ギースであった。


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