第29話 知性を有する獣
ローゼスト居住区貧民街寄り
やはり、ここから始めないとねぇ。ふふ、脇腹が痛む、息が詰まる、骨が軋むよ…
ねぇ、今度は君の番だ…。
その男は、地面を這う。
なぜ追っている事が露見したのか…
足音…消してた
服装…暗緑色の隠密着
呼吸…止めていた
風切り音…消す魔導具
露見する理由がない…はずだ
だが…いや…
肋に食い込んだ速さ。銀髪と碧眼の色が糸を引いていた……
…
…
…
アァ、君も身体強化使えるのかァ…
私のわからない気配も…わかるのかなぁ…
…
匂い……ない、でも、憶えてる……花の匂い。
どこかな…、待ってろ…ミリア・フレアベット…
その男の気配が、かき消えた。
同じ夜、違う空の下
街道の夜は危険だ。
野盗、野獣、そして魔獣。
薪の爆ぜる音を聞きながら、ミリアは落ち着かない気分で身体を乾かしていた。
アサルカは、ここは比較的安全だと言っていた。なら今はそれを信じよう。
ミリアは、不安を誤魔化すように声をかける。
「ねぇ、師匠。魔術の調整ってどうするの?」
アサルカはチラリとミリアを見る。
「お前はどうすればできると考える?」
質問に質問で、返された。もう、イジワル師匠め!
「屋敷で火の魔術を試したときは、マナを集約する量とか、魔力をどれくらい込めるかとか…うまくいかなかったけど…」
ミリアは項垂れる。焦がした天井が目に浮かぶ。
「量と力、あと一つじゃな」
ミリアは、ハッと顔を上げる。
なんだ、まだ足りないものがあっただけか。
一昼夜頑張って何の手ごたえもなかったのだ。この2つだけで頑張れって言われたら絶望するところだった。
何か他に魔術に何か関与するんだ。考えろ……、考えろ……。
無意識に中指がクルクル回る。
あたりに、マナが集約しては消える様を、アサルカは、楽しそうに見る。
キセルを大きく吸い、長い吐息で吐き出す。
マナに絡みついていく、長い煙を見て、ミリアが呟く。
「あ…、時…間?」
アサルカが微笑んだ。
「そのとおり。お前は、全ての反応を一瞬で終わらせようとしていた。攻撃としてはそれでよいがの」
アサルカは掌を下に向け、中指を回す。
集約したマナが大気中の水分を集め続ける。
「マナを変質させる時間が長ければ長いほど、同じ力、量で行使する魔術の威力は弱くなる。」
細く、水が滴り落ちていく。
「水を出す、なら、最終的に出した量は一緒じゃ」
集められたマナが霧散してする。滴り落ちていた水が止まる。
「全てを反応させる必要もない」
「師匠…これ、難しい」
早速試しているミリアの手からは、断続的に拳くらいの水玉が落ちている。
「ふぉっふぉっ!精進することじゃな」
そう言ったアサルカは上機嫌だ。燻らす煙は雄弁だ、ミリアには手に取るようにわかる。
再びキセルを燻らせ、アサルカはミリアに向かって指を立てる。
「魔術の調整は、もう一つある」
ミリアは、水玉作りをやめ、真剣な面持ちで言葉を待つ。
「そしてお前は、それがもうできるのに、やっておらん」




