接触
この村には無くてはならないパン屋。日持ちするパンを作り、村の一大産業にまでなった。
そんな小さな噂でこの村に住みたいと移住してくる者は以前より増えたと聞く。
またギルドのおかげで野獣や魔獣だけでなく盗賊も形を潜めており、中継する行商人の休憩地として選ばれることが増えてきた。
そのパン屋。やはり噂が絶えない。
ある者は聞く。その者は決して退かず、強欲な悪徳商人に強く、ギルドにも縁がある。
別の者は語る。ギルドの深夜の傾国の姫君の園。
ある者は解く。あれこそが村をまとめるべきだ。
ある日、行商人の老年の男性がミレファンに聞いた。
「この店に屋号はあるのか。是非ともその屋号と共にこのパンを売りたい。」
ミレファンはとっさに答えてしまった。
「ええ。私どもは夢幻亭です。」
と。
この一言が後に呼ばれざる者を集める事になるとは、誰が思おうだろうか。
そんな平穏は3年続いた。
その間に、冒険者ギルドは出張所から支所へと増築された。とうとう宿も出来た。開拓も進む。周辺の森は切り開かれ、田畑と牧場ができている。
そして、黒パンも進化した。牛のミルクが安定して手に入ってからは、日が経過してもぱさぱさにならないパンが遠距離行商人にとても売れた。
ギャレットは魔法使いとして、生活を支えている。地下の水をくみ上げ、ややこしい仕組みで釜の廃熱で沸騰させる。我が子ながらよくするもんだ。
ルシエはギルドの受付嬢として働いている。俺が父だって事は誰もが知ることだから、手出しされることは無い。
ああ、妻は1年前に更に一人の子を産んだ。ミシェル。完全に俺の血を継ぐ男子だ。妻の要素が何処にも無い。スマン。
そう思っていた、ミシェル。アレは俺の子だ。間違いなく。だが、アレは無い。ドワーフの成長の早さよ。
1才にならずに立っていた。ジャンプもする。あれが普通なのか?まだ言葉はつたないダァーとかなのに。
妻よ。スマン。君の胸がどんどん伸ばされる。あぁ、ギャレットよ、魔法でミシェルを空へ飛ばすな。あの強靱さなら不安に・・・無いか。
さて、魔獣が時折村に侵入する事はあったが、今日みたいに防衛戦を行うほどの規模は初めてだ。
どこからか移動してきたゴブリンの集団。
手には刃こぼれした剣や冒険者なら捨ててしまうような防具でも身につけているやっかいな魔物。つまり、知恵がある。火も恐れない。実にやっかいだ。そんな魔物が30体ぐらい確認されたと聞く。
ギャレットは何も言わず手伝いに行った。ルシエはギルドで支援の準備。俺は今まで通りパンを焼く。こんな年寄りが出しゃばったところで役には立たないからな。
キーリンの叱咤激励が聞こえる。そりゃそうだ。あいつの二つ名「抜かせずのキーリン」がここでも発揮されることを願うよ。
お?終われば酒樽を解放するだと?くそう、参加できないのが悔しいぞ。
「ミレファン、どうもここは包囲されているみたいよ。完全に潰したいって意図が見えるの。」
妻からの遠話はきな臭い言葉だった。
だがしかし。できることをする。それ以外にやることは無い。
ルシエが戦線にギルドを出る姿がちらっと見えた。いやがんばってくれ。
こんな村が状態にあるに関わらず、武器をむき出しにした男達が数人店に入ってくる。
「物騒な物は下ろせ。ここは血をばらまく場所じゃ無い。」
もうすぐパンが焼き終わるのに、ここで手間取れば焼けすぎる。
「聖女を返してもらう。その返事は如何に?」
「パンが焼ければ返事してやる。その駄賃ぐらいはパンを食って我慢してくれ。」
職人が板に付いた言葉だった。
「私がお客さんを丁寧にもてなすから、ミレファンはいつも通りパンを焼いてね。」
直ぐに遠話が富んできた。なら俺はそのままで良い。
焼き釜の蓋を開けると、もう男達は居なかった。ざっぱーんという音が聞こえた気がした。
店は居平常運転だ。
村と森の境も盛り上がっていた。なぜか地面に半身が埋まっているゴブリンの集団。脅威度はほぼ無い。
ここにあるのは、だれがその首をとるかだけ。
「伝令!この森を抜けたところにオーガの集団が」
ゴブリンの集団ですらこんなにも大勢で対処するのだ。オーガなんて・・・
「石像になってました!」
いや、何があった。知りたくも有り知るのが怖いキーリンであった。
「誰が首を取っても良い。だがその戦果は皆に均等に評価するっ!宴会の為に凱旋するっ!」
意気高くギルドは村の正面から凱旋する。この村の安全は守られた。
「おい、ちょっと面貸せや。」
キーリンは仕事をほったらかして、パン屋に駆け込む。
「大変でしたな。噂は息子から」
「あぁ。おかげで作戦も糞も無かったよ。」
「どうやら7箇所から魔物が攻めてくる。これは悪意がありますよね。」
「はぁ?7箇所だと?」
キーリンは事の重大性に戦く。
「残りも石像になったりならなかったりとか。言葉を濁してたな。」
「やっぱりおまえん所・・・しかないよな。」
いや、ギルドあっての我が村だ。我々を守って頂き感謝する。」
両手で右手を抱くように握り、頭を下げた。よし。これで全ては解決した。
「あぁそうだ。宴会用にパンは焼いておいた。好きなだけ持って行ってくれ。」
ギルドに戻ると、エールを口にする冒険者達で一杯だった。
「皆の物、君たちのおかげで村は守られた。大いに飲んで大いに食べてくれ!」
歓喜に湧く酒場をキーリンは後にし、会計職員を呼びつけパンならパン屋から無償で、ビールは俺の報酬から差し引いてくれ。と、伝えると、多くの職員はパン屋とギルドを往復するのだった。
「ミレファンめ、俺を無能にしたいのか!」
怒りとも情けなさともとれる漏れた言葉はだれにも聞かれなかった。




