求心
わずか30人程度の集落。空き家もちらほらある。そんな村で生活すると決めたミレファンに誰も文句は言わない。
「でも、この村では宿は要らない。」
ルシエは言い切る。
「相変わらず聡いな。そうだ。だから中継する者たちへの食べ物を売る。店と家はできるかぎり近く。」
「父様、また地下暮らしですか?」
「あれはあれでいいのよ。人が増える祝福みたいな物だから。」
「この村の受け入れだが、村の長には昨晩には話を付けてある。年収の半分は持って行かれたがな。」
そのおかげで、村の外れでも無く目に付きやすい空き家を宛がわれた。
そして、妻と息子の魔術で地面の下が毎日少しずつ拡張されていく。
ミレファンは知るよしも無いが、大雨を受け入れる大きな底、家族以外の不埒な物を底に落とす仕組み。聖女とあるまじき仕組みが何カ所にも。
「母様、父様に告げましたが、母様も聖女に戻る必要は無いかと。」
「ギャレット?その話は家の中でも外でも駄目なのよ?精霊様や神とやらが聞いておられますから。」
口元に指を一本立てると息子をなだめた。
ミレファンがこの村で行う商いは、パンの提供だった。村の畑の作物を購入し、中継する商人から麦を買い、パンを売る。
しかも、ここのパンは黒パンなのに表面が固くかびにくい。ある地方のごく一部しか知らないパンの作り方。木灰を水で練った物を更に水で薄めた、ある意味で物珍しいパンであった。
家での食事もこのパンが基準となる。基準になるのだが、焼きたてと時間をおいた物では内部の柔らかさで雲泥の差があった。
「以前より美味しいです。」
妻の一言でやる気が湧いた。そうだろう。思いの外予定よりも多く取引されている。その甲斐もあって少し良い粉も使っている。
「口に入れば同じだって。」
娘は容赦が無い。
「ギャレット、また何かするのか?」
「火力のある焼き釜を活用した食べ物をと。」
息子も妻の教えを更に請いながら、食べ物に執着が出てきたみたいだ。
「ほどほどにな。」
「父様、このパンは更に塩を振るのが良いかと。」
食後は明日の朝からの販売に備えてミレファンはパンを焼くのだった。
塩が軽く振られたパンは今まで以上に受け入れられた。村の住民も時々購入姿がみられる。商人が商品としたいと願うくらいに売れた。
ギャレットは村の野菜を焼き釜の残り熱で乾燥させる。それもまた商品として売り出された。
数ヶ月、そんな状況は続くと、大きな力を持つ商人が村に畑を潰すほどの店を構えるようになった。
「はっはっは。ミレファンさんのお力を当方もあやかりたいと思いましてね。」
小さな酒場、馬小屋、飲食スペース、産物販売。あの店でほとんどが取りそろう状況を持ち出してきた。
そうなると、氏は毎朝在庫が無くなるまで大量にパンを買いあさり、ほぼ変わらない値段で氏の店で売り出した。
行商は一切寄らない。これでは粉と塩が無くなれば終わりだ。
私は耐えた。粉が無くなるぎりぎりまで。食事用のみとなった頃、村で問題が起きた。
「パンが無い。」
そりゃそうか。私が焼かなければこの村でパンを提供する中継商人はいない。むしろ購入していくばかりだ。
あの店が販売しない事に不満を漏らす者も一気に増えた。そして、どこからか噂が立った。
「パンは買うけど粉を販売しなかったらしい。」
と。
村の長が店に来た。
「あの店からの要望だ。粉は村からだそう。すぐにでも焼いてもらえんか。その分金を収めてもらうことになるが。」
その直後、村の長は驚いた顔で辺りを見回す。
「いや、すまん。忘れてくれ。余りにも強欲すぎるのぅ。これからは粉を持ってきた者の分だけ焼いてくれ。」
不思議なことも・・・あぁ、妻の遠話だな。きっと。初めてなら尚更驚く。
そう。いつものことだ。そう思うことにした。




