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ツキヨミの巫女は未来を選ぶ 〜選ばれなかった未来とともに〜  作者: 凛花


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第二十三話 最後の選択





「……カ!」


「アヤカ!!」



名前を呼ぶ声に、ゆっくり目を開ける。


最初に飛び込んで来たのは泣きそうな顔のアンだった。



「——アン?」


「アヤカ!」


アンは、そのままアヤカをぎゅうっと抱き締める。


「アン、苦しい……」


「どこか、痛むか?」


続けて、カイルの声。


アヤカはゆっくりと首を振った。


「……大丈夫。私……?」


「あなた、2日も目が覚めなかったのよ!」



——死ぬよ



ノアの声が、遅れて胸に落ちる。


「……そっか」


小さく呟く。


そして、はっと顔を上げた。



「——2日?」



慌てて体を起こす。


「ドルジェは?」


「あれから、部屋から出てこないの。」



ふ、と部屋の隅に備え付けられたソファに目を向ける。


そこには、疲れたように眠るレナンの姿があった。



「……レナン。」


「ずっと起きてたのよ。心配で。さっき、やっと眠ったところ」



アンが優しくレナンを見る。



「……行かなきゃ」


「どこへ?」



「——ドルジェのところ。」






——



ガチャリ。



その部屋の扉を開く。


そこは、もう現実とはかけ離れたような場所だった。


崩れかけた空間。


歪んだ天井。


その中に、ドルジェはいた。


椅子に座って、ただ俯いている。


覇気はない。


そして——その隣に。



黒く揺らぐ“それ”が、ゆっくりと形を成していく。



人のようで、


人ではない。



「……ようやく、辿り着いたか」



低く、響く声。



アヤカは、それをまっすぐ見据える。



「……あなたが」



「母上!」


その時、レナンが動く。


その声に、ドルジェの肩がピクリ、と動いた。


「レナン!」


アンがレナンの腕を掴む。


「でも……!」


アンがゆっくり首を振る。


「殿下、下がってください。」


カイルがアンとレナンの前に立った。


その時、男のフードが取れる。


その顔が見えた時。


「ち、父上……」


漏れる、ドルジェの声。


「違う。あれは……」


「あれは、公爵じゃない」


「——ただの器。」


否定する、アヤカの声。


男は口元を歪め、笑う。


ハハハ、と響く声。


その輪郭が、黒く崩れていく。


形を保てない、影。


黒が、波打つ。


「我は——」


空間が、軋む。


「選ばれなかった未来」


「捨てられた可能性」


「消され続けた“歪み”の総体」


一瞬の静寂。


「——忘れられたまま、行き場を失った“結果”だ」


空気が、凍りつく。


「……厄災」


アヤカが呟く。


「そうだ」


「貴様らが生み出したものだ」



その瞬間。


意識が、引きずられる。



——


「……来たね」


ノアの声。


「……あれが」


「うん」


「全部の“歪み”」



——



黒が、膨れ上がる。


「どうした、巫女」


嘲る声。


「また未来を“消す”か?」


アヤカは、ゆっくりと前に出る。


拳を握る。


「……消さない」



笑みが消える。


「……消さない」


もう一度、言う。


空気が変わる。


「なに?」


「あなたを、消さない」


一瞬、間。


「消したら——また同じことになる」


「アヤカ……?」


アンの声。


「どうする気だ」


カイルの声。


「……」


レナンの息を呑む気配。


それらを背に、アヤカは顔を上げる。



「私が、受け入れる」


「は?」


「全部。消された未来も、捨てられた未来も——全部」


「私が、受け止める」



「馬鹿なことを!」


男の声。


「そんなことをすればどうなる!死にたいのか?」


「ダメよ!」


男の声とアンの声が重なる。


「大丈夫。」


背中越しに、アンに笑みを向ける。


一歩、近付く。


男が一歩、下がる。


「アヤカ!」


アンが手を伸ばす。


その手を、カイルが制した。


「カイル!でも……!」


カイルは一瞬、迷うように瞳を揺らす。


一歩、踏み出しかけて——止まる。


そして、まっすぐにアヤカを見た。





アヤカは、手を伸ばした。


「このままにはしない」


指先が、黒に触れる。


「全部——」


その瞳が、強く光る。


「引き受ける」


世界が、震える。


「……アヤカ」


アンが、名前を呼ぶ。


「それじゃ……」


カイルが、言葉を失う。



——それは、


“死”と同義だった。


誰も、言葉を続けられない。


それでも。


アヤカは、笑った。


「大丈夫」


「ちゃんと選んだ」



黒が、流れ込む。


無数の声。


悲鳴。


笑い声。


消えた未来。


選ばれなかった命。


すべてが、押し寄せる。


「っ……!」


体が崩れそうになる。


それでも——


「……終わらせる」


光が、弾けた。








——ありがとう




——あとは、私たちが引き受ける




——私たちが、全部持っていく




——あなたは、生きて——






声がした。



それは、どこか懐かしい、声だった——





 






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