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ツキヨミの巫女は未来を選ぶ 〜選ばれなかった未来とともに〜  作者: 凛花


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最終話 終わりの始まり





海風が吹き抜ける、高台の上。


石造りの小さな墓が、二つ並んでいた。


ひとつは——セレーネのもの。


そして、その隣に。


新たに置かれた、もうひとつの石。


刻まれた名。


——ロイ


骨は、ない。


代わりに。


あの懐中時計を、そこに納めた。 



「やっと……帰ってこれたね」


ずっと、帰れなかった場所に。


小さく、呟く。


そっと、手を合わせる。



「おじいちゃん。セレーネ様。全部、終わったよ」



風が、静かに吹き抜ける。


応えるように。


遠くに広がる海。


穏やかで、どこか懐かしい景色。



「……似てる」


ぽつりと、こぼす。


「おじいちゃんが好きだった海に」


記憶はなかったはずなのに。


それでも——


何かが、残っている気がした。


長い時間を越えて。


消えずに、ここまで辿り着いたものが。




「……帰ることも、できる」


不意に、ノアの声。


振り返らなくても、そこにいるのがわかる。


「向こうの世界に」


「あなたのいた場所に」


静かな声。


「でも——選ばなきゃいけない」


「どっちかを選べば、もう戻れない」



風が、止む。


アヤカは、少しだけ目を閉じた。



思い出す。


あの世界。


失ったもの。


それでも、生きてきた日々。


帰ったとしても——


そこに、待っている人はいない。



ゆっくりと、目を開ける。


目の前には、海。


そして、この世界。


「……もう、決めてる」


小さく、笑う。


墓石に、そっと手を置く。


「私は——こっちで生きる」



風が、強く吹いた。



「私ね」


空を見上げる。


「もう、消さない」


静かに言う。


「いらない未来って決めて、なかったことにするんじゃなくて」


「ちゃんと見て、受け入れて」


「それでも選ぶ」


その言葉は、強くて、優しかった。


「そういう巫女になる」


少しだけ、間。


「……いいね」


ノアの声。


姿は、もう見えない。


それでも、確かにそこにいる気がした。


「それがたぶん——“選ぶ”ってことだ」


光が、ほどける。


「……またね」


その声だけが、残った。




アヤカは、一人立っていた。


海を見つめる。


遠く、どこまでも続く水平線。


その先にある、無数の未来。


「……行こう」


そう呟いたその足は、


もう——迷いを知らなかった。





「——アヤカ!」


名前を呼ぶ声に、振り返る。


少女の姿。


遠くからでもわかる、柔らかな笑顔。




——



重厚な扉の前。


一人の少年が、静かに立っていた。



かつて“王太子”と呼ばれていた存在。


その手には、一通の書状。


「……これで、いい」


その声は、わずかに震えていた。


けれど——その目は、もう迷っていない。



扉を開ける。


「陛下」


まっすぐに歩み寄り、膝をつく。


「私は本日をもって——王位継承権を放棄いたします」


空気が張り詰める。


だが、その声は揺れなかった。





数年後。


王都は、静かな熱気に包まれていた。



即位式。


人々の視線の先。


玉座へと歩む、一人の少女。



アン。



凛とした表情。


迷いのない足取り。



かつて、“選ばれなかった存在”だった彼女は——


今、自ら選んだ。


玉座に座る。


その瞬間、空気が変わる。


この国で初めての、女性の王が誕生した。



少し離れた場所。


それを見守る三人の姿。


カイル。


そして——アヤカ。


隣には、レナン。


「……似合っています。」


ぽつりと、レナンが言う。


カイルが小さく鼻を鳴らす。


「最初から、あの方の場所です」


アヤカは、ふっと小さく笑った。


「……ねえ、カイル」


「なんだ」


「カイルは、アンが即位しない方がよかったんじゃない?」


カイルが眉をひそめる。


「何の話だ」


「だって。王女と騎士、じゃなくなったら——」


少しだけ、からかうように続ける。


「今までみたいに、隣で守れないじゃない?」


一瞬の沈黙。


それから——


カイルが、鼻で笑った。


「笑止千万」


短く、言い切る。


「俺の役目は変わらない」


視線は、まっすぐ玉座へ。


「立場がどう変わろうが——守るものは同じだ」


その横顔に、迷いはない。


アヤカは、くすっと笑った。


「……だと思った」





ドルジェは、すべての権限を失った。


かつての威圧も、鋭さも消え——


公爵邸で静かに暮らしている。



“終わった”のだと、誰もが思った。





壊れた街では、復興が進んでいた。


瓦礫を運ぶ人々。


声を掛け合う姿。



その中心に——レナンがいた。



笑いながら、街の人々と談笑するその姿に


もう、迷いはなかった。




——



城の外門付近。


石造りの建物の扉をノックする。


「来たか。」


ベットに横たわるのはセラフィだった。


「セラフィ様。」


「アヤカ、顔つきが変わったな。」


「ますますルイーゼに似たきたわい」


"……ルイーゼ"


初めて会った時のセラフィを思い出す。


「セラフィ様。私、この世界に来れて本当によかったです。」


セラフィは、優しく笑った。






アヤカは、今日も歩く。


この世界で。


巫女として。


未来を、見るだけじゃない。


選び、受け入れ、変えていく存在として。



空を見上げる。


そこには、変わらず月がある。



どんな未来でも、そこに在り続けるように。



「……行こう」



その一歩は、迷いなく——



——未来へと続いていた。






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