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ツキヨミの巫女は未来を選ぶ 〜選ばれなかった未来とともに〜  作者: 凛花


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第二十二話 代償と、はじまりの巫女



——夢



暗闇と、光の境界。


静かな空間。


「……やりすぎ」


ノアの声。


振り返る。


「……勝ったでしょ」


アヤカが、少しだけ息を切らしながら言う。


「うん」


ノアが頷く。


「ちゃんと、変えたね」


その言葉に、アヤカはその場に座り込む。


「……疲れた」


ぽつりと、こぼす。


ノアが、ゆっくりと近づいてくる。



「ねえ」


「……なに」


「代償、ちゃんと理解してる?」


少しだけ、空気が変わる。


「……あるのは、わかってる」


「そっか」


ノアが、軽く息を吐く。


そして——


「じゃあ、教えてあげる」


指先で、空間をなぞる。


その瞬間、無数の光が広がる。


枝分かれする、


“未来”。


「未来はね」


ノアが言う。


「一つじゃない」


「たくさんあって——」


「選択のたびに、枝分かれしてる」


光が、幾重にも分かれていく。


「……うん」


アヤカが、静かに頷く。


「ルイーゼたち、これまでの巫女は」


ノアが続ける。


「その未来を“視る”ことはできた」


「そして、“起きる前に防ぐ”こともできた」


「でも——」


一瞬、間を置く。


「干渉はできなかった」


光の枝が、そのまま流れていく。


変えられない未来。


「……私は、できる」


アヤカが呟く。


「そう」


ノアが頷く。


「あなたは違う」


その目が、まっすぐ向けられる。


「“選べる”」


光の枝が、いくつも浮かび上がる。


その中の一つに、触れる。


「この未来を選ぶ」


別の枝が、消える。


「じゃあ、こっちは?」


静かに、問う。


消えた未来の先にあった光景。


誰かの笑顔。


違う結末。


「……消える」


アヤカが、答える。


「そう」


ノアが言う。


「選ぶってことは」


「選ばなかった未来を、消すってこと」


空間が、わずかに歪む。


「……その未来で起きるはずだったことは?」


アヤカの声が、少しだけ震える。


ノアが、ゆっくりと答える。


「消えないよ」


「形を変えるだけ」


歪みが、滲み出る。


「それが、“厄災”」


息が、止まる。



「……じゃあ」


言葉が、詰まる。


「今までの巫女は——」


「その歪みをね」


ノアが言う。


「全部、自分で受けてきた」


静かな声。


でも、重い。


「……え」


「世界が壊れないように」


「歪みを、自分の中に引き受けてきた」


アヤカの手が、わずかに震える。


「……そんな」


「災いを防ぐたびに」


「流れを逸らすたびに」


ノアが、静かに続ける。


「“本当なら起きていたはずの未来”の欠片がね」


「少しずつ、混ざっていくの」


「……混ざる?」


「うん」


「見ていないはずの景色を、知っていたり」


「会ったことのない誰かを、懐かしく感じたり」


「存在しないはずの記憶が、残る」


「——愛したはずの人の顔を、思い出せないまま苦しんだ巫女もいた」


静かな声。


「それが——これまでの巫女の代償」


沈黙。


「世界を壊さないために」


「“起きなかったはずの未来”を」


「自分の中に、留めてきた」


重く、落ちる。


「……じゃあ、私は」


声が、かすれる。


ノアが、少しだけ目を細める。


「あなたはね」


一歩、近づく。


「未来を“見る”だけじゃない」


「“干渉して、選んで、変える”」


「だから——」



ほんの少しだけ、間を置く。



「もっと重い」


静かに、告げる。


「さっきみたいなこと」


「何度もやったら——」


アヤカを、見つめる。


「死ぬよ」


ノアの目が揺れた。


「……正確には——戻れなくなる」


「境界に取り残されて」


「未来と未来の狭間で」


「ずっと、“視続ける”ことになる」



はっきりと。


逃げ場のない言葉。


「……」


アヤカは、しばらく黙ったまま。


言葉が出なかった。






「ねえ、アヤカ」


ノアが、少しだけ優しい声で名前を呼ぶ。


少しだけ、間を置く。


「私の話、まだしてなかったよね」


空気が変わる。


「私はね——」


ノアが、静かに言う。


「最初のツキヨミの巫女」


「……え」


「レイス家の、始まり」



景色が、変わる。


見知らぬ世界。


海。


流れ着いた、一人の男。


「彼は、“この世界とは別の世界”の人間だった」


「異なる世界から来た存在」


「そして、この世界で出会った」


「私の母と」


光景が、重なる。


出会い。


交わす言葉。


やがて——


一つの命。


「それが、私」


ノアの目が、静かに揺れる。


「異なる世界の血が混ざった存在」


一瞬、静寂。


その瞬間——


浮かぶ記憶。


おじいちゃんと、おばあちゃんの笑顔。


まだ幼かった私を真ん中に、


三人で手を繋いで歩いた、家まで続く道。


違う世界で生きていたはずの人たち。


それでも——


確かに繋がっていた。



「……私と、同じ」


小さく、こぼれる。


「うん」


ノアは、うなずく。


「世界と世界の“境界”に触れている存在」


「……境界」


「——この世界の内側だけで生まれた命は、決められた流れの中にいる」


「でも、私たちは違う」


ノアの視線が、まっすぐ向けられる。


「外側に、触れている」


空間が、わずかに歪む。


「この世界の“ルール”の外側に」


光の枝が、揺れる。


「だから——」


一歩、近づく。


「だから、あなたも干渉できる」


「分岐を“視る”ことができる」


「選ぶことができる」



静かな確信。


「でもね——」


少しだけ、目を伏せる。


「私は、触れすぎた」


空間が、歪む。


「未来を選びすぎた」


「消しすぎた」


黒い影が、滲む。


「その結果、生まれたのが——」


「さっきの“あれ”」


息が止まる。


「……じゃあ」


アヤカの声が、震える。


「全部……」


「そう、私のせい、だよ」


あっさりと、言う。


「最初の歪みは、私」


静寂。


「でも」


ノアが顔を上げる。


「それを広げたのは、人間」


「消えなかった未来を、抱え続けてきた巫女たち」


「そして今——」


まっすぐに、アヤカを見る。



「分岐を見て、未来を選んでしまう、あなた」



言葉が、重く落ちる。


「……私」


拳を握る。


ノアが頷く。


「でもね」


少しだけ、優しく笑う。


「あなたは、違う選び方ができる」


「……どうやって」


「全部消そうとしないこと」


沈黙。


「歪みを——」


一瞬、間。


「引き受ける」


「……!」


「逃がさない」


「消さない」


「抱えて、繋ぎ止める」


ノアの声が、静かに響く。


「それができるのは」


「あなたしかいない」



光が、解けていく。


アヤカが、まっすぐ前を見据える。



その目には、強い決意が宿っていた——





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