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ツキヨミの巫女は未来を選ぶ 〜選ばれなかった未来とともに〜  作者: 凛花


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第十七話 疑惑



翌日。


アヤカは、城の廊下を歩いていた。


長く、薄暗い廊下。


足音だけが、静かに響く。


(見られている……?)


ふと、足を止める。


振り返っても、誰もいない。


それでも——


視線だけが、絡みつくように残っていた。


この感覚は、あの時。


ドルジェと話していた“何か”の視線と、似ている——。


その時。


ガラガラと、金属の擦れる音が響いた。


視線を向けると、メイドが配膳台を押している。


「こんにちは」


声をかける。


メイドは、びくりと肩を揺らし、振り返った。


その顔が、一瞬で青ざめる。


(……なに?)


——見つかってはいけないものを、見られた。


そんな顔だった。


その時、見えてしまった。


「……お肉? それに、お魚……ワインも……」


思わず、呟く。


城に来てから初めて見る、豪華な食事。


(国王様の食事は、あんなに質素だったのに……)


違和感が、胸に広がる。


(じゃあ、これは——)


「し、失礼いたします!」


メイドは慌てた様子で視線を逸らすと、そのまま配膳台を押し、ひとつの部屋の前で足を止めた。


ノック。


「どうぞ。」


中から、落ち着いた声。


(あそこは……)


(ドルジェの部屋……?)



——


「伯母様が、お肉やお魚を?」


「ええ。それに、ワインもあったわ。」


アンは、はっきりと頷いた。


「そんなはず……。だって、そんな贅沢、お父様が許すはずないわ」


アヤカは、少し考え——口を開く。


「王太子に、話を聞けないかな?」


「レナンに?」


——


「で、殿下!このような場所にいらしては、お召し物が……!」


「構いません。姉上、こちらです。」


レナンは、落ち着いた様子でそう言った。


まだ十二歳だというのに、その立ち居振る舞いはしっかりしている。


ドルジェと共にいた時の、怯えたような表情は見えなかった。


「小さい頃は、私のこと“ねぇね”って呼んでくれたのよ」


「……子供の頃の話です」


少しだけ頬を赤らめる。


その仕草は年相応で、どこか愛らしかった。


そんな会話を交わしながら——


辿り着いたのは、王家の食料が保管されている倉庫だった。


「……これは……」


アンの表情が変わる。


そこには、肉や魚、保存食が並んでいた。


「お肉……それに、これは干物……どうして……」


「母上です」


レナンが、静かに言った。


一度、視線を落とす。


「母上と僕の食卓には、肉や魚が出ます」


「陛下には内緒で……公爵家を通じて仕入れているんです」


言いづらそうに、続ける。


「見つからないように、ここに隠して……母上の側の者たちに配らせています」


「……僕のためだと」


小さく息を吐く。


「将来、王になる者が、質素な食事ではいけないと」


アンは、言葉を失った。


「……でも、いいの? 秘密なんでしょう?」


「伯母様に知られたら、あなたが——」


「いいんです」


はっきりと、言い切る。


レナンは顔を上げ、まっすぐにアヤカを見た。


「もう、陛下には話しました」


「母上の様子がおかしいことも」


一瞬、言葉を選ぶように間が空く。


「……もう、見て見ぬふりはできません」


「あなたに、協力すると決めたんです」


その瞳には、迷いがなかった。



公爵家。


それは——


ドルジェの生家、ヴィハルク公爵家。


そして、その当主は——


すでに表舞台から姿を消している。




「見過ごせないわ。」


アンが、顔を上げた。


「伯母様と直接話をしてくる!」


そう言って、扉に手をかける。


その瞬間——


視界が、歪んだ。



——ドルジェの前に、倒れ込むアンの姿——


床に崩れ落ちる音。


伸ばされた手。


そして——


動かなくなる、アン。



「……っ」


息が詰まる。


「ダメよ、アン!」


思わず、声が出た。


その一言に、アンの手がびくりと止まる。


「今はまだ、ダメ」


震える声で、続ける。


「今行けば……あなたは——」


言葉が詰まる。


けれど、はっきりと分かっていた。


(これは、避けられる未来)


「……まだ、足りないの」


小さく、呟く。


「このままじゃ、何も変えられない」


アンが、ゆっくりと振り返る。


「……どういうこと?」


その視線を、まっすぐに受け止める。


「……ヴィハルク公爵家に、行きましょう」


頭の奥に、もう一つの光景が残っている。



アンと並んで歩く道。


大きな屋敷。


そして——


そこで見つけた、“決定的な何か”。



「ヴィハルク公爵家に?」


アンが、怪訝そうに眉を顰める。


「ええ」


はっきりと頷く。


「そこに……証拠がある」


一瞬、間を置いて。


「ドルジェを止めるための、決定的な証拠が」


空気が、張り詰める。


アンはしばらく黙り——


やがて、小さく息を吐いた。


「……わかったわ」


その瞳に、迷いはなかった。


「行きましょう」


アヤカは、静かに頷く。


「……レナン、あなたも来てくれる?」


「もちろんです」


すぐに返ってくる答え。


「ヴィハルク公爵家に行くなら……僕がいた方がいい」


その声には、確かな決意があった。




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