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ツキヨミの巫女は未来を選ぶ 〜選ばれなかった未来とともに〜  作者: 凛花


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第十四話 分岐の先




その日も、アヤカは街を歩いていた。


昼下がり。王都の外れ。


最近はもう、


“見ようとしなくても”見えてしまう。


断片じゃない。


流れ。


繋がって、分かれて、重なっていくもの。


先へと続く、無数の分岐。


“数分先”じゃない。もっと先の未来。


(……まだ、全部じゃないけど)


それでも、確かに広がっている。


見える範囲が。


選べる可能性が。



——そのはずなのに。


ふと、


足が止まった。


理由は、わからない。


けれど——


胸の奥が、ざわつく。



(……おかしい)


“流れ”が、薄い。


いくら王都の外れとはいえ——


僅かな、違和感。


その時——


ぴたり、と。


風が止まった。


「……?」


さっきまであった“流れ”が、


急に、鈍る。


空気が、重い。


息が、浅くなる。


(……なに、これ)


視界の奥が、揺れる。


——水。


黒く濁った、水。


それが、地面の下を流れている。


(……下?)


次の瞬間。


未来が、開く。


——井戸。


街外れの、小さな井戸。


人が集まっている。


誰かが、水を汲む。


飲む。


「……っ!」


その場で、倒れる。


一人。


二人。


次々と。


ざわめき。


混乱。


逃げ場のない、広がる異変。


(……毒?)


違う。


そんな単純なものじゃない。


もっと、曖昧なもの。


“何か”が、混ざっている。


(……止めないと)


だが——


次の瞬間。


別の流れ。


アヤカが、動く。


井戸を封じる。


人々を遠ざける。


水は使われない。


被害は、出ない。


——だが。


さらに先。


別の場所。


川。


そこから水を引く人々。


同じ“何か”が、流れている。


気づかないまま、使う。


結果は——同じ。


(……意味がない)


止めても、


場所を変えて、起きる。


胸が、ざわつく。


(……じゃあ、どうする)


ノアの言葉が、よぎる。


“もっと先を見なよ”


目を閉じる。


深く、潜る。


流れを、辿る。


井戸じゃない。


川でもない。


もっと、上。


もっと、源。


——見える。


山の方。


水源。


そこに——


黒い“歪み”が、滲んでいる。


じわじわと、


水に溶け出している。


(……ここだ)


目を開ける。


ただ、“見える”。


このまま進めば、それに辿り着く。


アヤカは、走り出す。


石を蹴る。


息が上がる。


でも、止まらない。


(間に合う)


未来が、一本に絞られていく。


——少し進んだ先。


岩肌の間から、細く水が湧き出している。


小さな、水源。


本来なら、澄んでいるはずの水。


けれど——


「……黒い」


その縁に、黒い靄のようなものが絡みついていた。


それが、水の中に、溶けるように混ざっている。


墨のような、影。


揺らめくそれは、液体とも違う。


ゆっくりと、脈打つように、広がっている。


思わず、足を止める。


胸の奥が、ざわりと揺れた。


「……なに、これ」


小さく呟く。


答えはない。


(……これは)


直感で、わかる。


このまま流れれば——


さっき見えた、光景。


街へ届く。


人々が、飲む。


広がる。


倒れる。


助からない。


息が、浅くなる。


(止めないと)


一歩、踏み出す。


だが——


足が、止まる。


(……触れたら、ダメ)


——直感。


指先が、わずかに震える。


(じゃあ、どうする)


視線を、周囲へ向ける。


岩。


崩れかけた斜面。


水の流れ。


その全部を、もう一度、“見る”。


(……流れ)


はっとする。


(これを——止めるんじゃない)


視線が、鋭くなる。


(変える)


すぐに動いた。


近くの岩に手をかける。


重い。


びくともしない。


「……っ!」


歯を食いしばる。


力を込める。


ずるり、とわずかに動く。


(いける)


もう一度。


体重をかけて、押す。


——動かない。


(足りない)


もう一度、体重をかける。


岩が、転がる。


ごろり、と鈍い音を立てて、水の出口の一部を塞ぐ。


流れが、揺れる。


だが、まだ足りない。


別の石。


崩れかけた岩。


手をかける。


指先が擦れる。


痛みが走る。


それでも——


押す。


落とす。


積む。


何度も。


何度も。


水の流れが、


少しずつ、横へと逸れていく。


黒い水が、


元の流れから外れていく。


やがて——


ぽたり、と。


別の窪みに落ち始めた。


黒は、そこに溜まる。


下流へは、流れていかない。


「……はぁ……っ」


その場に、手をつく。


息が荒い。


腕が、震えている。


でも——


(止めた、はず)


確かな手応え。


黒は、あそこに留まっている。


村へは、行かない。


もう、大丈夫だと——


思った。


風が、吹く。


水音だけが、響く。


静かな場所。


そのはずなのに——


胸の奥が、ざわついた。


(……ほんとに?)


数日前の光景が、よぎる。


助けたはずの未来。


その先で、失われた命。


(……全部は無理)


ノアの声が、蘇る。


(……私は)


黒を、見つめる。


消したわけじゃない。


ただ、流れを変えただけ。


ここに、残っている。


(……これで、よかったの?)


答えは、出ない。


ただ——


嫌な予感だけが、残る。


その時。


ぴたり、と。


風が止んだ。


「……?」


顔を上げる。


空気が、重い。


さっきとは違う。


もっと、大きい。


もっと、逃げ場のない——


“何か”。


視界の奥で、ゆっくりと、うねるような気配。


(……これ)


息が、浅くなる。


水。


——さっきとは、比べものにならない。


圧。


広がり。


(……来る)


確信だけが、落ちる。


アヤカは、空を見上げた。


遠く、見えないはずの向こう側で——


何かが、動いている。


その気配だけが、はっきりと伝わってきた。


と、その瞬間。


グラリ


視界が歪む。


(——海が……)


視えた光景に、息を呑む。


拳を、握る。


顔を上げると、城に向かって、走り出した——。





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