第12話 部屋と電気ケトルと私
「──で。どう?」と蛇苺さま。椅子に座り、長机に肘をつき、顎を両手に乗せてニコニコしている。
「どう、とは?」
「えっ?」
幸い、生徒会室にはまだ誰も居なかった。私は電気ケトルのスイッチを入れて急須に緑茶のティーパックを放り込んだ。
「私の唇を奪っておいてその反応は無いんじゃない!?私はドキドキして夜も眠れなかったのに!」
あ、そっち!?謎の生徒の事でも、例の力の事でもなく?意外とウブなんですね。蛇苺さま。
「それどころじゃなかったじゃないですか!こっちは死にかけたんですよ!?」
「それは!…そうだけどさ」
初めてだったのに…と、机に「の」の字を書いて不貞腐れる蛇苺さま。なんだか子供みたい。
「そんなに言うなら…」
電気ケトルがシュゴーっと鳴った。
「もう一度やってみます?」
今日起きてから色々試してみたが、あの光の力は発現しなかった。無意識に従ってやった蛇苺さまとのキスがトリガーになっているはずなんだ。その事を私も確認しておきたい。それだけだ。他意はない。うん。
蛇苺さまが無言で立ち上がった。ずんずんと距離を詰めてきて私を抱きしめる。
「結合ちゃん」
「はい」
「私はこう見えて慣れてないんだ。こういうこと」
知ってます。
「本当に初めてだったんだよ」
「ちょ…蛇苺さまっ!雰囲気作るのやめてくださいよ、やりにくいじゃないですか」
「やろうと言ったのは結合ちゃんだよ?」
「それはそうですけど!こういうのじゃなくて…こう、チュっとやるだけじゃ」
「君はキスを何だと思ってるんだい」
唇くっつけるだけでしょう?そんなの小さい頃に姫子と何度もやってるし。
「ほら、目を閉じて…」
「うう…」
抵抗できずにギュっと目を閉じる。窓の外、運動部の掛け声が遠くに聞こえた。シュゴーっと鳴る電気ケトルの音がさっきよりうるさい。
目を閉じて待つ。が、何も起こらない。目をうっすらと開けると、蛇苺さまは明後日の方向を向いていた。その方向には…
「あらあらお姉さま。仲がよろしい事で」
睦子さまとるるりんが立っていた。
「あれえ睦子、妬いちゃった?」
「妬いてません!」
蛇苺様が私を抱いた手をパッと放す。さっきまでの雰囲気はどこへやら。瞬時にいつもの蛇苺さまに戻った。
うーん。
私は溜息をつき、胸の動悸を抑えつつケトルのお湯を急須に注いだ。




