第11話 戻ってきた日常
朝。いつもの夢を見ていた気もするが思い出せない。よほど深く眠っていたみたいだ。昨日の頭痛とふらつきも嘘のように治っている。一緒に寝ていた姫子は居なくなっていた。
「あれっ?」
スポーツバックに突っ込んだままのはずの制服の上着が無い。いや、ある。血まみれで穴が開いていたはずの上着はその形跡を一切残さず、元の綺麗なままハンガーラックに架かっていた。
「……夢か?」
もしかして昨日の放課後の事すべてが夢だったのかもしれない。姫子と話をしたくて姫子の部屋の部屋に行ってみたが居ない。ばあばに聞くと「姫子?もう学校行ったよ。珍しいね、あんたらが別々に出るの」と教えてくれた。
学校かー。そういえば教室も昨日の騒動で散らかったまま放ったらかしだ。飛び散った血を見て騒動になってなければいいけど。
そんな事を考えながらいつも通り小田急線に揺られて登校すると机や椅子も倒れていなければ血の一滴も残っていなかった。そんな事ある?やっぱり夢だったのだろうか。
先に出た筈の姫子はチャイムギリギリになって入ってきて話なんかできなかった。
「ゆっりちゃーん!」
放課後。帰り支度をする間もなく蛇苺さまが教室までやってきた。教室がざわめく。上級生、しかも生徒会長の蛇苺さまがいきなり訪ねて来たらそりゃあびっくりするだろう。私もそのうちの一人だ。しかもクラスメイトが名指しで呼び出しを受けているのだ。ざわめきもする。
ひそひそ話をするクラスメイトの脇をすり抜け、蛇苺さまの手を取って教室の外に出る。
「いきなりやって来ないでくださいよ蛇苺さま!」
「なんで?」
「目立ちたくないんですよ!」
いつも目立っている蛇苺さまには庶民の感覚が理解できないのかもしれない。なんで怒られてるのかわからない、という顔でキョトンとしていた。
「まあ元気そうで何よりだよ。あの後はちゃんと帰れたみたいだね」
「ええ。お陰様で」
よかった、と蛇苺さまは胸を撫で下ろした。やっぱり夢じゃないよなあ…。
「その件なんですが蛇苺さま、」
と言いかけたところで私は言葉を止めた。やたら視線を感じる。教室の扉から顔を出したクラスメイト達が聞き耳を立てていた。うーん、そりゃあ気になるよなあ。しかし昨日の物騒な話をクラスメイトに聞かせるわけにはいかない。最悪、私が頭おかしい奴だと思われてしまう。
「とりあえず生徒会室行きましょう」
蛇苺さまの背中を押して、私達はその場を後にした。




