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葬鐘の国で、わたしは死神に拾われた  作者: わがままな饅頭


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9/21

第9話 夜の話

 旅を始めて十日目の夜、廃屋の近くに野営した。


 ロウが器用に火を起こし、どこから調達してきたのか分からない干し肉をあぶる。黒猫が、ロウの膝の上でくつろいでいた。


 わたしは、火を眺めながら、証言書の束を改めて眺めた。ガラのこと、オルドから受け取った二百四十七人の記録、各地で聞いた話。分厚くなった束が、今は重いような、心強いような、奇妙な感触で手の中にある。


「ロウ、前に契約した境界人のこと、少し教えてもらえますか」


 ロウは、干し肉を火から離しながら、少し間を置いた。


「何が知りたい」


「どんな人だったのか。何を目的にしていたのか」


「……百三十年前の話だ。若い男だった。名前はセルト。村の開拓者の家に生まれて、土地の権利を巡って地主に一族ごと潰されそうになったところを、私に拾われた」


「復讐が目的だったんですか」


「最初はそうだった。だが途中から変わった。同じように土地を奪われた人間があまりにも多くて、自分一人の復讐より、その仕組み全体を変えることに気持ちが向いていった」


「……似てますね」


「そうだな」


「セルトさんは、どうなったんですか」


 ロウは、しばらく黙っていた。猫の背中を、ゆっくりと撫でながら。


「仕組みを変える手前まで来た。証拠も、仲間も、揃っていた。だが……最後の一歩のところで、聖庁の前身の組織に、場所を割れた。囲まれた」


「……逃げられなかったんですか」


「逃げようとしなかった。証拠だけは守ると言って、私に渡して、そのまま囲まれた」


 火が、ぱちりと爆ぜた。


「証拠は、その後どうなったんですか」


「私が保管し続けた。百三十年。いつか、使える人間が現れるまで」


 わたしは、その言葉の重さをゆっくりと受け取った。


「じゃあ……ロウがわたしを拾ったのは、最初から計画されていたことじゃなくて」


「偶然だ。ただ、準備はしていた。この地域に、またいずれ誰かが現れると思って、百三十年、動向を見ていた」


「百三十年……」


「死神には、時間がある」


 わたしは、証言書の束を、胸に抱えた。


「ロウ。わたし、セルトさんの分も、ちゃんとやります」


「私に言わなくていい。お前がそう決めたなら、それでいい」


「言いたかったんです。セルトさんのことを、誰かに言ってあげた人が、いなかったかもしれないから」


 ロウは何も言わなかったが、火の向こうで、口の端がわずかに動いた気がした。


 しばらく、二人とも黙って火を見ていた。黒猫が、ロウの膝の上でゴロゴロと鳴いている。


「ロウ、あの猫、名前つけてあげましょうよ」


「また猫の話か」


「だって、もう十日以上一緒にいるんですよ。名前なしは可哀そうです」


「猫に名前をつけると、情が移る」


「もう移ってますよ、どう見ても。さっきも干し肉を半分あげてたじゃないですか」


「……見ていたのか」


「バッチリ見てました」


 ロウは、天を仰いでから、ぼそりと言った。「ミミでいい」


「それ、さっき却下したやつです」


「お前が最初に言ったんだろう。では何がいい」


「ロウが決めてください。ロウの猫なんだから」


「……クロにする」


「安直すぎる。却下です」


「では、ミミでいい」


「……分かりました。ミミで」


 その夜、ミミという名前をもらった猫は、特に喜んだ様子もなく、ただロウの膝の上で眠り続けた。

 翌朝、ロウが宿の市場で蜂蜜の瓶を二つ買っているのを見た。


 「一つはいつも持ち歩いているじゃないですか。なぜ二つ?」


 「……予備だ」


 「どのくらいの頻度で買うんですか」


 「旅の途中では、三日に一瓶ほど」


 「それ、すごい量ですね」


 「文句があるか」


 「ないです。ただ、どこで覚えたのかなと思って」


 ロウは、瓶を革袋に入れながら、少しの間黙った。


 「三百年ほど前、旅の商人が置き忘れていった瓶を拾った。それ以来だ」


 「三百年間、ずっと食べ続けているんですか」


 「そうだ」


 「……そういうところが、なんか、好きです」


 「何が」


 「人間みたいなところが」


 ロウは、何も言わなかった。でも、少しだけ視線を逸らした。それが、照れているように見えて、わたしは笑わないようにするのに少し苦労した。

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