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葬鐘の国で、わたしは死神に拾われた  作者: わがままな饅頭


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20/21

番外編 旅の断片

── ロウの蜂蜜 ──


 旅を始めて五日目の夕方、ロウが村の小さな市場で立ち止まった。


 蜂蜜売りの屋台だった。


 「……少し待て」


 ロウは、そう言って屋台のおじさんと話し始めた。試食の蜂蜜を一口なめて、それから別の瓶を一口なめて、また別の瓶を一口なめた。


 「ロウ、ずっと試食してますが……」


 「品定めをしている」


 「もう五回食べてますよ」


 「うるさい」


 結局、ロウは瓶を三本買った。おじさんはにこにこしていた。ロウのような客は、また来てくれるから好きらしい。


 「なぜ三本も?」


 「旅が長くなりそうだから」


 「どのくらいの頻度で食べるんですか」


 「気分次第だ」


 「死神って、甘いものが好きなんですか。蜂蜜だけじゃなくて」


 「好みはある。だが、食べなくても死なないから、好きなものだけ食べる」


 「合理的ですね」


 「死神なりの贅沢だ」


 その後、ロウは歩きながら蜂蜜を指につけてなめた。子供みたいな食べ方で、なんとも言えない光景だった。


 でも、わたしはその光景が少し好きになっていた。


── ミミのこと ──


 ミミが初めてわたしにすり寄ってきたのは、旅を始めて四日目の夜だった。


 廃屋に野営していたとき、ずっとロウの足元にいたミミが、突然わたしの方に来て、膝の上に乗った。


 「ミミ、いいんですか。ロウじゃなくてわたしで」


 「……猫は気まぐれだ」とロウが言った。少し不満そうだった。


 「嫉妬してますか」


 「していない」


 でも、ロウはその後しばらく、ミミがわたしの膝から離れるのを待っているようだった。


 ミミが戻ると、ロウは何事もなかったかのようにミミの喉元を撫で始めた。


 そういうところが、憎めない。


 わたしは、そう思いながら、証言書の続きを書き始めた。


── 境界人の夜目 ──


 夜が怖くなくなった。


 生きていた頃は、夜が来るたびに少し心細い気がしていた。闇の中に何があるか分からないという、漠然とした不安。


 でも、境界人になってから、夜はただ静かな時間になった。目が利くから暗くても見える。耳が鋭くなったから、遠くの音まで聞こえる。闇が怖いのではなく、ただ、見えていなかっただけだったと分かった。


 「ロウ、夜って好きですか」


 「嫌いじゃない」


 「わたし、好きになりました。最近」


 「そうか」


 「見えるようになると、怖くなくなるんですね」


 「見えないものを怖がるのは、正しい反応だ。だが、見えるようになれば、怖がる必要がなくなる。その順序で、多くのことが変わる」


 「封印のことも、そうですかね。正しく見えていなかったから、ずっと怖かった」


 「……そうかもしれない」


 夜の道を、二人と一匹で歩く。


 わたしには、それが今のところ、一番安心できる光景だった。


── エルへの手紙 ──


 旅の途中で、わたしは一通の手紙を書いた。


 送る相手は、もういない。でも、書かずにはいられなかった。


 「エルへ。あなたに会ってから、いろいろなことがありました。ガラという子のことも知りました。二百四十七人という数のことも。旅をするたびに、あなたみたいな子がいたんだと分かって、その度に、怒りと悲しみと、でも諦めたくない気持ちと、全部が混ざりました。あなたが最初に話しかけてくれなかったら、わたしはここまで来られなかったと思います。ありがとう。必ず、全部、終わらせます」


 書き終えて、読み返して、それから火に燃やした。


 ロウが見ていた。


 「何を燃やした」


 「手紙です。返事は来ないから、届けるより燃やす方がいいと思って」


 「……煙が届くと言う者もいる」


 「本当ですか」


 「分からない。ただ、そう思いたい者がいるのは確かだ」


 わたしは、煙が消えていく方向を見上げた。空は、今日も青かった。


── 証言書の夜 ──


 旅の十一日目の夜、わたしはランプの明かりの下で、証言書の全ページを読み直した。


 最初のページ。ガラ、十五歳。土地の境界線を巡る争いの制裁として選ばれた。


 次のページ。タオ、十二歳。同じ村の子。詳しい理由は不明。


 次の村の子。その次の村の子。名前が並ぶ。年齢が並ぶ。理由が並ぶ。


 途中で何度か手が止まった。止まるたびに、一度深く息を吐いて、また読み始めた。


 全部読み終わったのは、夜中を過ぎた頃だった。


 「何をしていた」とロウが言った。


 「全員分、読みました」


 「全員?」


 「二百四十七人。一人ひとり」


 ロウは、少しの間黙った。


 「声に出して読んだか」


 「全員分、名前だけは声に出しました。時間がかかりましたけど」


 「そうか」


 ロウはそれ以上何も言わなかった。でも、その後しばらく、ミミを撫でる手が止まっていた。


── カインへの問い ──


 大聖堂に入る直前、わたしはロウに言った。


 「一つだけ、カインに聞きたいことがあります」


 「何だ」


 「カインは本当に、自分が正しいと思っているんでしょうか。それとも、自分が間違っているのを知りながら、見ないふりをしているんでしょうか」


 ロウは、少しの間考えてから答えた。


 「……私の経験では、どちらでもある人間が、一番長続きする」


 「どういう意味ですか」


 「正しいと信じている部分と、疑っている部分が、人の中で共存していることがある。疑いを感じると自分の信念で塗りつぶす。それを繰り返すうちに、疑いの方が見えなくなる」


 「そうなると、もう変われない?」


 「変われる可能性はある。だが、証拠を突きつけられても変わらない。変われるとすれば、自分の内側から来るときだけだ」


 「それを待つ余裕は、わたしにはないです」


 「だから、仕組みを変える。本人が変わるのを待たなくていい」


 わたしは頷いて、大聖堂の扉を開けた。


── 旅の終わりに、旅の始まりに ──


 丘の上から、次の村が見えている。


 わたしは、その村に誰が住んでいるのかを知らない。どんな問題があるのかも知らない。


 でも、行けば分かる。話を聞けば分かる。


 「ロウ、一つ聞いていいですか」


 「また何だ」


 「旅って、楽しいですか」


 「……楽しい、という言葉が正しいかどうか分からないが」


 「正しくなくていいです。感覚的に、どうですか」


 ロウは、少しの間だけ空を見てから言った。


 「悪くない」


 「わたしも、悪くないです」


 「死んで戻ってきて、悪くないとは、妙な感想だな」


 「ロウと一緒だからだと思います」


 「……うるさい」


 「褒めてるんですよ」


 「分かってる」


 ミミが、先に歩き出した。いつの間にか、ミミが先頭を行くことが多くなっていた。どこへ行くのか分かっているかのように、迷わず歩く。


 わたしとロウは、ミミの後を追うように歩き出した。


 旅は、続く。


 終わりが来るまで、どこまでも。

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