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葬鐘の国で、わたしは死神に拾われた  作者: わがままな饅頭


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幕間 ── 旅の途中で ──

■ ロウが蜂蜜を切らした日


 旅の途中で、ロウが珍しく機嫌の悪い顔をしていた。


 最初は気のせいかと思った。ロウの表情はもともと読みにくい。でも、それは半日ほど続いていた。歩くペースが少し速くて、返事が短くて、ミミを撫でる回数が普段より多い。


 「どうかしましたか」


 「何でもない」


 「蜂蜜、切れてますよね」


 ロウはわずかに足を止めた。


 「……気づいていたか」


 「昨日の夜、革袋を何度も開けて閉めていたので」


 「うるさい。次の村で買う」


 「次の村まで、あと半日ありますよ」


 「分かっている」


 ロウはまた歩き始めた。わたしは少し遅れてついていきながら、ニヤニヤするのを必死に堪えた。


 何百年も生きてきた死神が、蜂蜜を切らして不機嫌になっている。なんてことだろう。


 次の村に着いたとき、ロウは市場に一直線に向かって、蜂蜜売りの屋台で二瓶買った。一口なめて、表情が元に戻った。


 「よかった」とわたしは言った。


 「何が」


 「ロウが機嫌を直したのが」


 「機嫌は悪くなかった」


 「そうでした、そうでした」


 ミミがロウの足元でゴロゴロ鳴いた。ミミも、ロウが機嫌の悪いとき、普段より多くすり寄っていた気がする。猫なりの気遣いなのかもしれない。


■ 幽霊を怖がる話


 旅を始めて六日目の夜、宿屋の廊下で幽霊と鉢合わせた。


 老人の幽霊だった。白く透けた姿で、廊下の隅にぼんやりと立っている。


 「ひっ」


 思わず声を上げた。ロウの部屋を叩く音が想像以上に大きくなった。


 「どうした」扉が開いて、ロウが顔を出した。


 「廊下に」


 「幽霊か」


 「い、います」


 ロウは廊下を見て、「ああ」とだけ言った。


 「ああ、じゃないですよ。怖い」


 「あれは、この宿屋の昔の主人だろう。百年以上前に死んだ。害はない」


 「害があるかどうかじゃなくて、怖いんです」


 ロウは、少しの間わたしを見てから、「分かった」と言って廊下に出た。


 老人の幽霊に話しかけた。「お前は毎晩そこにいるのか。少し部屋に引っ込んでいてくれないか。私の連れが怖がっている」


 老人の幽霊は、しゅっと消えた。


 「……早い」


 「未練のある場所を離れたくないだけで、呼びかければ動く。たいていの幽霊はそうだ」


 「ロウは幽霊とよく話すんですか」


 「仕事柄、多い」


 「うらやましい……じゃなくて、慣れてるんですね」


 「お前も慣れる」


 「慣れたくないです」


 「慣れる」


 その後、わたしは自分の部屋に戻ったが、目を閉じるたびに老人の幽霊の顔が浮かんで、なかなか眠れなかった。害がないと分かっていても、怖いものは怖い。


 翌朝、ロウに「眠れたか」と訊かれて、「少しだけ」と答えた。ロウは何も言わなかったが、その日の歩くペースが普段より少し遅かった気がする。


■ 三日間の大雨


 旅の途中で、三日間の大雨に降り込められた。


 小さな街道沿いの宿屋で立ち往生することになって、わたしたちは珍しく、何もしない時間を過ごした。


 一日目は、証言書の整理をした。名前の確認、地域ごとの分類、聖庁との繋がりの記録。几帳面なロウが手伝ってくれて、思ったより早く終わった。


 「ロウ、字が綺麗ですね」


 「千年書いていれば、上手くなる」


 「わたしも千年練習すれば、上手くなりますか」


 「そこまで生きればな」


 「生きたいです」


 「そうだな」


 二日目は、やることがなくなった。


 わたしは窓の外を眺めながら、ぼんやりと考え事をした。雨が屋根を叩く音が、単調で心地よかった。


 「ロウ、千年間で一番印象に残った景色って、何ですか」


 ロウは、椅子に逆さまに座ったまま、少し考えた。


 「海だ」


 「海?」


 「お前はまだ見たことがないか。この国の西の果てに、果てしなく続く水がある。人が作ったものでも、山でも川でもない、ただの水の広がり。一度見ると、しばらく忘れられない」


 「ロウは、何回見ましたか」


 「五十回以上は見ている」


 「五十回見ても、印象に残るんですか」


 「残る。見るたびに、少し違う」


 「死神も、飽きないものがあるんですね」


 「飽きない、というより……見るたびに、何か考えさせられる」


 「何を考えるんですか」


 ロウは少しの間黙ってから、「大きさ、だな」と言った。


 「大きさ?」


 「私が千年かけてきたことも、世界の大きさから見れば、砂粒ほどの話かもしれない。でも、その砂粒の中で、確かに誰かが生きて、死んでいった。それが、海を見るたびに分かる気がする」


 わたしは、その言葉を噛みしめた。


 「わたしも、いつか海を見てみたいです」


 「旅が続けば、見られるだろう」


 「ロウも一緒に見てください」


 「……そのつもりだ」


 三日目は、ミミがとうとう窓から外に出ようとして、わたしに止められた。


 「ミミ、濡れますよ」


 「猫は好きにさせればいい」とロウが言った。


 「でも、ずぶ濡れになったら、乾かすのが大変です」


 「……そうか」


 ロウはミミを抱き上げて、窓から離れた場所に置いた。ミミは不満そうに鳴いたが、しばらくするとロウの膝の上に戻ってきた。


 「ミミ、ロウのこと好きですよね」


 「猫は、安心できる場所に行く」


 「だから、ロウのところに行くんですね」


 「……うるさい」


 三日間の大雨が上がった朝、街道は泥だらけだったが、空は一段と青かった。


■ 小さな親切


 ある村を通りかかったとき、六、七歳くらいの子供が、泣きながら道端に座っていた。


 「どうしたの」


 わたしは思わず声をかけた。


 「迷子に……なった」


 「家はどこ?」


 「あっちの方……だと思うんだけど」


 ロウが「また寄り道か」と言ったが、今回はわたしも意に介さなかった。


 わたしは、子供の手を引いて、言われた方向へ歩き始めた。死の気配を感じる力は、今は人を探すのにも使える。どこかに、この子と繋がった生の気配がないか、探してみた。


 「……あっちです」


 五分ほど歩くと、母親らしき女性が泣き顔で走ってきた。


 「ライ! よかった、どこへ行ったかと思って……」


 女性は子供を抱きしめて、それからわたしを見て、少し驚いた顔をした。境界人の目に気づいたのだろう。でも、すぐに深々と頭を下げた。


 「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」


 「いいえ」


 「あなたが……」女性は少し迷ってから、続けた。「死神に拾われた方ですか。聖庁のやっていることを暴いてまわっているという噂を聞きました」


 「噂になっているんですか」


 「この辺りでは。もし本当なら……ありがとうございます。うちの子も、もしかしたら、と思ったことが何度もあったので」


 わたしは、女性の顔を見た。恐怖と感謝が混ざった顔だった。


 「もう、選定は止まっています。今後、誰もあなたの子を贄に取られることはないはずです」


 「本当ですか」


 「必ず、そうします」


 女性は、また深々と頭を下げた。子供が、わたしを見上げて、「お姉ちゃん、ありがとう」と言った。


 歩き出してから、ロウが言った。


 「噂が広まっているな」


 「そうみたいですね」


 「それはいいことでもあり、悪いことでもある。カインの耳にも届くだろう」


 「届いてもいいです。もう、証拠は世界に出ているから」


 「……そうだな」


 ロウは、珍しく同意するように頷いた。


■ 名前のない標柱


 廃寺の前を通ったとき、わたしは一度立ち止まった。


 千年前、最初に贄になった人の標柱。名前も残っていない、その人の前に、わたしはもう一度しゃがんだ。


 「あなたのことを、記録に残せないのが、申し訳ないです」


 返事はない。


 「でも、名前がなくても、ここにいたことは分かります。この術式が今でも残っているのが、証拠です。あなたがここにいたから、千年間、多くの人が生きられた。少なくとも最初は、本当に必要なことだったはずだから」


 わたしは立ち上がった。


 「名前は分からないけど、覚えています」


 ロウが隣で言った。「私も覚えている。千年間、ずっと」


 「……知ってたんですか」


 「知っていた。だが、記録に残す方法がなかった」


 「記録に残しましょう。名前はなくても、千年前にここに誰かがいたという事実は、残せます」


 「……そうだな」


 わたしは、証言書の一番最後のページに、書いた。


 「千年前、大災厄の封印のために命を捧げた人。名前不明。場所は廃寺の地下。その人がいたから、始まりがあった」


 それだけ書いて、証言書を閉じた。


■ ある夜の夢


 旅の途中で、夢を見た。


 珍しいことだった。境界人になってから、眠りが浅くなって、夢を見ることが少なくなっていた。


 夢の中で、わたしはあの村の井戸の前にいた。夜で、誰もいなくて、鐘の音だけが遠くで聞こえていた。


 「ミラ」


 声がした。


 振り向くと、エルがいた。幽霊の姿ではなく、生きているときの姿で。


 「エル?」


 「うん。夢の中だから、会える」


 エルは、十三歳の少女そのままだった。ふわっとした髪の毛と、少し大きめの目。生前のエルを、わたしは知らないのに、夢の中ではちゃんと分かった。


 「约束、守ってくれてありがとう」


 「まだ終わってないけど」


 「うん。でも、ちゃんと動いてるって、分かるから」


 エルは笑った。


 「ミラ、怖くなかった?」


 「怖かったです」


 「そうよね。死んだのに、また動き出して。しんどくなかった?」


 「しんどかったです」


 「でも、続けたんだね」


 「続けました」


 エルは、頷いた。


 「よかった。……ロウって人、変わってるね」


 「見てたんですか」


 「少しだけ。蜂蜜が好きなの、知ってる」


 「知ってます」


 「いい人だね」


 「変わってますけど、いい人です」


 エルが笑った。それから、少しだけ遠くを見るような目になった。


 「わたし、もう少ししたら、ちゃんと行けそう」


 「行く、っていうのは」


 「お姉ちゃんには分かると思う。死神の半身だから」


 「……分かります」


 「だから、もう大丈夫。ミラは、自分のために動いていいよ」


 「自分のために?」


 「復讐とか、わたしたちのためとか、そういうことだけじゃなくて。ミラ自身が、何か好きなことを見つけて、そのために歩いていって」


 わたしは、少しの間黙った。


 「まだ、何が好きか、分かってないです」


 「旅が好きでしょ」


 「……好きかもしれないです」


 「ロウと旅するのが、好きでしょ」


 「……そうかもしれないです」


 エルは、満足そうに頷いた。


 「それでいいよ。それを続けて」


 目が覚めたとき、夜明け前だった。


 ロウが外で空を見ていた。


 「夢を見たか」とロウが言った。


 「見ました。エルに会いました」


 ロウは振り向かずに「そうか」と言った。


 「エルが、もうすぐちゃんと行けそうって言っていました」


 「それは、よかったな」


 わたしは、空を見た。まだ暗いが、東の空がほんの少しだけ白んでいる。


 「ロウ、ありがとうございます」


 「また礼か。何の礼だ」


 「一緒に旅してくれていることの礼です。それだけで、十分です」


 ロウは、しばらく黙ってから、「どういたしまして」と言った。


 死神が「どういたしまして」と言ったのは、千年で初めてかもしれない。そんな気がした。


■ フィオからの最後の手紙


 旅が終わりに近づいた頃、フィオから一通の手紙が届いた。


 「ミラ様へ。カイン様への審問が、いよいよ最終段階に入りました。証拠の量と質から、処罰は免れないと思われます。また、封印の術式の独立調査の結果が発表されました。贄は三百年前からすでに不要だったことが、公式に確認されました。各地の村に通知が行われています。一点だけ、報告があります。カイン様は、審問の場で、こう言ったそうです。『私は間違いを犯したとは思わない。だが、もし間違いだったとしても、誰かがやらなければならないことだった』と。その言葉を聞いて、審問官の一人が言いました。『では、なぜあなたが選んだ人たちは、弱い立場の者ばかりなのか』と。カイン様は、その問いに答えられなかったそうです。ミラ様が言っていたこと、正しかったと思います。仕組みが問題なのだと。私はこれからも、聖庁の内部から変えていく仕事を続けます。いつかまた、どこかで」


 わたしは、その手紙を何度も読んだ。


 なぜ弱い立場の者ばかりなのか。


 カインはその問いに答えられなかった。答えは、もちろんある。弱い立場の者には、抵抗する力がないから。声を上げることができないから。消えても、誰も大きな声では騒がないから。


 「ロウ、カインが答えられなかった問いがあるって」


 「聞いた」


 「良かった、と思いますか」


 「……一つの進歩だ。答えられなかったことが、問いの正しさを示している」


 「そうですね」


 わたしは、フィオの手紙を大切に、証言書の最後に挟んだ。


 フィオ。ロウ。オルド。ガラの村の老婆。エルのお母さん。父。母。


 全員が、この旅の一部だった。


■ エルの夢 続き


 夢の続きを見たのは、また別の夜だった。


 今度は、エルではなく、見知らぬ少年が夢の中にいた。


 茶色の髪、どこかで見たような目。わたしには分からなかったが、少年が「ガラです」と言った。


 「ガラ……」


 「はい。おばあちゃんが、ここまで声を届けてくれました」


 夢の中で、わたしは草の上に座っていた。ガラが隣に腰を下ろした。


 「ガラ、草花が好きだって、おばあさんから聞きました」


 「好きです。死んだとき、手に花を持っていたんですよね、きっと」


 「そうだと聞きました。おばあさんが、亡骸を引き上げたとき、握っていたって」


 ガラは、少し照れたように笑った。


 「恥ずかしいですね。でも、嬉しかったです。誰かが入れてくれたのかな、って思ってたから」


 「誰が入れてくれたか、分かりますか」


 「分からないです。でも……誰かが、いてくれたんですよね」


 わたしは頷いた。


 「わたしの名前、覚えてくれてますか」とガラが言った。


 「覚えています。ガラ。十五歳。草花が好きな子」


 「それだけで、十分です」


 ガラは立ち上がって、どこかへ歩き始めた。


 「ガラ」


 「はい」


 「もし、またどこかで会えたら、一緒に花を見ましょう」


 ガラは振り向いて、笑った。それから消えた。


 目が覚めると、朝だった。


 起き上がって、窓を開けると、野の花が風に揺れているのが見えた。


 「ロウ、今日は花を摘んでいいですか」


 「何に使う」


 「ガラの墓に届けたいです。少し遠いけど、誰かに頼んで」


 「この村の農家に頼めば、次の市で届けてくれるだろう」


 「頼んでみます」


 わたしは花を摘んで、農家のおじさんに頼んだ。おじさんは快く引き受けてくれた。


 小さなことかもしれない。でも、できることをする。それが今のわたしにできることだった。


■ ロウの百年


 「ロウは、百年の間に何をしていましたか。セルトが死んでから、わたしが現れるまでの」


 「仕事をしていた」


 「普通の仕事?」


 「普通の仕事だ。死を運ぶ、それだけ。特別なことは何もしていない」


 「退屈じゃなかったですか」


 「退屈だった」


 ロウは、珍しく即座に答えた。わたしは少し驚いた。


 「正直に言うんですね」


 「正直に言わない理由がない」


 「百年、退屈だった?」


 「……退屈ではあったが、待っていた」


 「わたしが来るのを?」


 「誰かが来るのを。セルトの分を引き継げる誰かが」


 「百年、待ったんですね」


 「死神には、時間がある」


 「百年待って、来たのがわたしでよかったですか」


 ロウは少し間を置いた。


 「よかった」


 「どうして?」


 「お前は、目の前で困っている人を放っておけない。それは……セルトとは違う強みだ。セルトは怒りで走った。お前は、怒りの他に、別のものを持っている」


 「別のもの」


 「まだ名前がついていないものだ。でも、それがある限り、折れない」


 わたしは、その言葉を胸の中に置いた。


 名前がついていないもの。でも、確かにある何か。それが、わたしをここまで連れてきた。


■ ミミへのお礼


 ある朝、ミミが珍しく早起きして、入り口の前で何かを持ってきていた。


 近づいてみると、野ネズミだった。


 「……ミミ」


 ミミは、どこか誇らしげに尻尾を立てていた。


 「おみやげ、ですか」


 「猫の気持ち表現だ」とロウが言った。


 「受け取り方は?」


 「一応、ありがとうと言っておけ」


 「ありがとう、ミミ。でも、できれば食べ物じゃない方が嬉しいです」


 ミミは「ニャ」と一声鳴いて、ネズミを口にくわえてどこかへ行ってしまった。


 「……複雑ですね」


 「猫なりの誠意だ」


 「受け取り方が難しい」


 「それが猫というものだ」


 わたしとロウは、顔を見合わせて、同時に笑った。声を合わせて笑うのは、初めてだった気がした。


■ 二人の共通点


 ある日、ロウが言った。


 「お前と私は、似ているところがある」


 「どんなところですか」


 「どちらも、世界の理不尽を放っておけない」


 「ロウの場合は、千年ですね」


 「そうだ。ただ、私は動くことができなかった。お前は動ける」


 「ロウが動けなかった分、わたしが動く、ということですか」


 「そういう考え方もできる」


 「じゃあ、わたしたちは補い合っているんですね」


 「そう言えるかもしれない」


 「……それって、いいコンビということですよね」


 「うるさい」


 「いいコンビです。絶対に」


 「うるさいと言った」


 でも、ロウの口の端が、少し上がっていた気がした。


■ 最後の訓練


 大聖堂に行く前日、ロウが言った。


 「最後の訓練をする」


 「どんな訓練ですか」


 「自分の力を、意図的に大きくする練習だ。戦いの中で、力を制御できなくなると危険だが……使い切れるようになっておいた方がいい」


 「具体的には」


 「胸の紋様から、炎を出す。それを、できるだけ大きくしてから、できるだけ小さく収める。繰り返す」


 「難しそうですね」


 「最初は難しい。だが、お前の感覚なら、すぐにできるようになる」


 「……セルトさんも、同じ訓練をしましたか」


 「した」


 「うまくできましたか」


 「最初は失敗して、廃屋の壁を焦がした」


 「それは……」


 「お前も気をつけろ。何かがあったとき、大事なものを守れるよう、制御を覚えろ」


 わたしは頷いて、胸の紋様に意識を向けた。炎が生まれる。大きくする。収める。大きくする。収める。


 三回目で、少しコツが分かった気がした。


 「……できてきました」


 「上出来だ。明日は、それを使う必要がないことを祈る」


 「でも、使っても大丈夫なように、ということですね」


 「そうだ」


 わたしは、もう一度、炎を出した。青白い光が手のひらの上に揺れて、すぐに消えた。


 これが、わたしの力だ。


 怖くない。ちゃんと、自分のものだ。

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