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葬鐘の国で、わたしは死神に拾われた  作者: わがままな饅頭


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19/21

第19話 わたしたちの旅は続く

 翌月、聖庁の調査委員会からわたしたちに知らせが届いた。


 カインへの審問が始まったこと、各地の選定は全面的に停止されたこと、封印の術式の独立した調査が開始されたこと。そして、贄の選定によって命を失った者の記録が、公式に作成されることになったこと。


 二百四十七人の名前が、公式の文書に残される。記録が作られる。


 完全な決着には、まだ程遠い。カインが最終的にどんな裁きを受けるかも、まだ分からない。灰の聖庁という巨大な組織そのものが変わるには、長い時間がかかるだろう。各地の村で根付いた恐怖や不信は、一夜で消えるものではない。


 けれど、確かに何かが変わり始めていた。


「これで、一区切りですか」


「そうだな」とロウは言った。「ただし、一区切りに過ぎない」


「分かってます」


 わたしたちは、小高い丘の上に立っていた。晴れた日で、遠くまで見渡せた。


「次はどこへ行く?」


「カインの行方を、引き続き追います。聖庁が管轄している他の地域にも、同じような問題が残っているはずだから、そこへも行きたい。フィオが、内部の改革に動いているから、連携したい。オルドのところにも、また話を聞きに行きたい。それと……」


「それと?」


「二百四十七人の名前、全部の背景を調べたいと思っています。名前だけじゃなくて、その人がどんな人だったか。ちゃんと残したい」


「時間がかかるな」


「かかります。でも、やります」


「相変わらず、欲張りだな」


「死神に拾われた身ですから。多少図々しいくらいが、ちょうどいいんです」


 ロウは、声を立てて笑った。最初に出会った夜の、酷薄な笑い方とは、もう違う種類の笑い方だった。


 足元で、ミミが鳴いた。旅の途中からついてきた黒猫は、今は丸々と太って、相変わらずロウの足元から離れない。


「ミミ、今日は機嫌がいいですね」


「天気がいいと機嫌がいい。単純な奴だ」


「ロウも、今日は機嫌がいいですよね」


「気のせいだ」


「嘘つかないでください」


 ロウは、何も言わなかった。ただ、空を見上げて、少しだけ目を細めた。その横顔に、千年分の疲れと、千年分の何かが、透けて見えた気がした。


「ロウ。一つ聞いていいですか」


「何だ」


「わたしは今後、どのくらい生きられますか。境界人として」


「そればかりは分からない。セルトは五十年生きた。もっと長い者もいれば、短い者もいる。お前次第だ」


「死んだとき、ロウが迎えに来てくれますか」


 ロウは、わずかに間を置いてから、言った。


「それが私の仕事だ」


「仕事じゃなくて、来てくれますか」


 今度は、もう少し長い間があった。


「……来る」


「約束ですよ」


「死神の約束は、破られない」


 わたしは満足して、丘の先に目を向けた。


 遠くに、次の村が見えている。


「行きましょう」


「ああ」


 わたしは、一歩を踏み出した。


 復讐は、まだ終わっていない。でも、それだけが目的でもなくなっている。


 エルのことを忘れない。ガラのことを忘れない。二百四十七人の名前を、一人ずつ、記録に残す。それが、今のわたしの仕事だ。


 誰かの駒ではなく、自分自身の意志で歩く、一人の境界人として。


 口の悪い相棒と、蜂蜜と、ミミを連れて、わたしたちの旅はまだ続く。


 丘の向こうから、鐘の音が聞こえた。わたしたちの旅はまだ続く。


 次の村へ向かう道の途中、ロウが言った。


 「ミラ」


 「何ですか」


 「お前は、いい境界人だ」


 「さっき、褒めてないって言いましたよね」


 「それとこれとは別だ」


 わたしは、足を止めて、ロウを振り返った。ロウは、わたしを見ていた。真顔で、いつもの紫の瞳で。


 「……ありがとうございます」


 「礼はいい。歩け」


 「はい」


 わたしは、また歩き出した。


 何百年か後に、ロウがまた誰かを拾うときのことを、ふと考えた。そのときの境界人も、今のわたしと同じように、最初は死神の蜂蜜に驚いて、猫の世話焼きに笑うのだろうか。


 そしてロウは、またその誰かと一緒に、世界のどこかを歩くのだろう。


 「ロウ」


 「まだ何かあるのか」


 「ずっと歩き続けることが、ロウの生き方なんですね」


 「そうだな」


 「……一人じゃなくてよかったです。わたしで、よかったなら」


 ロウは、少しの間黙ってから、言った。


 「よかった」


 短い言葉だったが、千年分の重さがあった気がした。


 丘の向こうから、鐘の音が聞こえた。


 今度は、弔いの鐘じゃない。


 どこかの村で、誰かの一日が始まる音だ。


 その音を届けに行くのが、今のわたしたちの仕事だ。


 わたしが死んだ日、村の鐘は三度鳴った。


 けれど今日、その鐘は、まったく違う意味で鳴っている。


(完・第一部)

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