第17話 村への帰還
証拠を届けてから三週間後、わたしたちはもう一度、あの村に戻った。
最後にやり残したことがあったからだ。
村の広場に、人が集まっていた。聖庁の調査委員会から派遣された役人が、長老ガレオンを取り囲んでいる。村人たちが、その周囲に立って、それを見ていた。
長老は、年老いたように見えた。三週間前に隙間から見た、あの几帳面な顔が、今は乾いてしぼんでいる。
「ガレオン。あなたに、言いたいことがあります」
わたしが声をかけると、広場がしんと静まり返った。役人たちが振り返る。村人たちが、ざわめく。
「ミラ……ノクスの、娘?」
「はい。三週間前に死んで、戻ってきました」
長老は、わたしの瞳を見て、驚いたように一歩退いた。境界人の目は、生者のものとは少し違う。
「あなたが、わたしの名前を選定リストに書いた。そのことは、今更責めません。あなたも、カインに脅されていたのは知っています。でも、一つだけ言わせてください」
「……何だ」
「エルのことを、覚えていますか。三年前に死んだ、十三歳の子のことを」
長老の顔が、かすかに歪んだ。
「あの子は、あなたたちの選定で死んだ。わたしも、同じように死にました。でも、わたしには戻ってくる手段があった。エルには、なかった。その差を、覚えておいてください。エルは今も、この村の墓地にいます。名前は、エルです。覚えてください」
広場は、静寂に包まれていた。
「これから先、この村がどうなるかは、あなたたちが決めることです。でも、もう二度と、誰かの命を取引に使わないでほしいと、それだけ言いたかった」
わたしはそう言って、広場を後にした。
ロウが、隣を歩きながら言った。
「よく言えたな」
「怒鳴るかと思ってたんですけど、なんか違いました。責めるより、伝える方が、自分には合っていた気がして」
「そうだな」
「ロウは、わたしが怒鳴ると思ってましたか」
「五分五分だった」
「正直だ」
村はずれで、思いがけない人物が待っていた。父だった。
「……ミラ」
「お父さん」
「広場の、お前の話を……遠くから、聞いていた」
父の顔は、三週間前より少しだけましになっていた。まだ目は落ちくぼんでいるが、立っている。
「エルの名前、覚えていますか」
「……覚えている」
「ありがとうございます」
それだけ言って、わたしは歩き出した。振り返らなかった。振り返れなかったのではなく、振り返る必要がもうないと思えたから。




