第16話 証拠の行方
まず動いたのは、フィオではなく、ガラの村の老婆だった。
老婆は、近くの領主の屋敷まで一人で歩いて行き、「孫の死について話を聞いてほしい」と門番に頼み込んだ。領主は最初、会うつもりがなかったという。だが、老婆は三日間、門前で待ち続けた。四日目に、領主は老婆を招き入れた。
その話が伝わったとき、わたしは胸が熱くなった。
「おばあさん、すごい」
「人は、動くときに動く」とロウは言った。
それから一週間で、状況は急激に動いた。
フィオが届けた証拠と、オルドの二百四十七人の記録は、聖庁の本部内の改革派の手に渡り、そこから各地の有力領主へと広まった。聖庁の内部では、カインを支持していた派閥と、これを機に体制を変えようとする派閥が真っ向からぶつかり合い、毎日のように集会が開かれているという話だった。
わたしとロウは、その間も各地を回り続けた。直接証言できる人間を探し、記録を補い、各地の村に現状を知らせる。地味な作業の繰り返しだったが、行く先々で、変化を感じることができた。
ガラの村の老婆から、手紙が届いた。「村の若いもんが、長老に意見を言い始めた」と書いてあった。
オルドから連絡が来た。「聖庁の若い書記たちが、他の改ざん記録を自主的に調べ始めた」とのことだった。
フィオからは「カインの出頭後、執務室が封鎖され、全ての書類が調査対象になった」という知らせが来た。
「動き始めましたね」
「始まっただけだ。終わるまでには、まだ長くかかる」
「分かってます。でも、始まったことが大事で」
ロウは、地図の上に各地の情報を書き込みながら、頷いた。
「カインへの裁きは、聖庁本部の調査委員会が担当することになった。証拠の量から、無罪放免にはならないだろうが……どの程度の処罰になるかは、まだ分からない」
「わたしに、もっとできることはありますか」
「当事者として証言できる。お前が直接体験した選定の経緯を、調査委員会の前で話すことを求められるかもしれない」
「やります」
「それと……各地の村で、これから先の選定をどう扱うかを決める必要がある。封印が贄を必要としないことを、広く知らせることが必要だ。そのために、術式の専門家の証言を添えた文書を作る必要がある」
「それも、やります」
「お前、やりますやりますとよく言うな」
「やれることは全部やります」
「少しは休め」
「ロウ、わたしに言いますか、それ」
ロウは、少しの間沈黙してから、「言う立場ではなかったな」と呟いた。
わたしは吹き出した。千年働き続けてきた死神に、休めと言われるとは思わなかった。
「ロウは、これが終わったら何をしますか」
「仕事に戻る。死神の本来の仕事に」
「それって、死を運ぶことですか」
「そうだ」
「ロウにとっての、普通の日常」
「そうだな」
「……わたしが死んだときも、迎えに来てくれるんですよね」
「それが私の仕事だ」
「仕事じゃなくて」
「……来る」
わたしは満足して、次の地図を広げた。




