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葬鐘の国で、わたしは死神に拾われた  作者: わがままな饅頭


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12/21

第12話 大聖堂の前夜

 聖庁の地方拠点である古い大聖堂が見えてきたのは、旅を始めてから十七日目の夕方だった。


 石造りの巨大な建物は、遠くから見ると荘厳で、清廉な宗教機関にしか見えない。白い壁に、高い尖塔。夕陽を受けて輝く窓ガラス。


 けれど今、わたしにはそれが別のものに見えた。各地の村で聞いた声が、あの壁の中に塗り込められているような気がして。


「明日、入ります」


「ああ」


「……怖くないと言えば嘘になります」


「正直でいい」


 その夜、わたしたちは大聖堂から離れた森に野営した。ロウが器用に火を起こし、ミミがロウの膝の上でくつろいでいる。


「ロウ。あの猫、ちゃんと明日もついてきますかね」


「猫に聞いてくれ」


「ミミ、明日も一緒にいてくれる?」


 ミミは、目を細めて、ゴロゴロと鳴いた。


「一緒に来るそうです」


「猫語が分かるのか、お前は」


「感覚的に、なんとなく」


「……境界人の力は、そういう使い方もするのか」


「どうですかね。ただの気のせいかもしれないですけど」


 しばらく、火を眺めながら黙っていた。


「ロウ。一つ確認したいんですが」


「何だ」


「明日、カインに証拠を突きつけて、聖庁本部への公開を宣言する。でも、カインが拒否した場合は?」


「証拠は既に、別ルートで各地の領主と、聖庁本部内の改革派に送り届けてある。フィオが運んでくれた」


「え、いつの間に」


「昨日の夜、フィオと連絡を取った。彼女が信頼できる人間に頼んでくれた。術式の専門家も、明日合流する」


「じゃあ、明日わたしたちがカインと対峙するのは」


「最後の確認と、本人の目を見て突きつけるためだ。証拠を届けるだけなら、お前が危険を冒す必要はない。だが、お前にはそれ以上のものがあるだろう」


 わたしは、少しの間考えてから、頷いた。


「あります。カインに、直接言いたいことがあります。エルのことも、ガラのことも、二百四十七人のことも。直接、顔を見て言いたい」


「なら、行く意味がある」


 火が、静かに燃えていた。


「ロウ。千年分、ありがとうございます」


「何の話だ」


「見続けてきたこと。記録してきたこと。動けない中で、できることをしてきたこと。わたしが出てくるまで待っていてくれたこと。セルトさんが渡した証拠を、百三十年守っていてくれたこと。全部」


 ロウは、しばらく黙っていた。ミミの背中を、ゆっくりと撫でながら。


「……礼は、終わってから言え」


「はい」

 しばらく、火が燃えるのを二人で眺めた。


 「ロウ、明日のことで一つ確認です」


 「何だ」


 「カインが私兵を用意している場合、どのくらい対応できますか」


 「十五人以下なら問題ない。それ以上になると、時間がかかる」


 「もし時間がかかっている間に、わたしに何かできることはありますか」


 「証拠を持って逃げろ」


 「戦う方向で考えていたんですが」


 「証拠が世界に出れば、お前たちが負けても意味がある。逆に、証拠を失えば、どれだけ戦に勝っても意味がない。分かるか」


 「……分かりました。でも、逃げ切れなかった場合は?」


 「そのときは、私が何とかする」


 「どうやって」


 「死神には死神の手段がある。詳細は聞くな」


 「聞きたいですけど」


 「聞くな」


 わたしは諦めて、ミミの背中を撫でた。ミミは目を細めてゴロゴロと鳴いた。


 「ミミ、明日もついてきますか」


 「猫は戦場に連れて行くな」


 「分かってます。でも、無事でいてほしくて」


 「……廃屋に置いていく。帰ったら拾う」


 「絶対に拾ってください」


 「分かった」

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