第11話 封印の真実
旅を始めて十五日目、わたしたちは大聖堂に向かう前に、一度立ち寄りたい場所があった。
かつて、千年前の術師たちが封印の儀式を行ったとされる、廃寺だった。ロウが知っている場所で、一般の人間には存在も知られていない。
「なぜ今、ここに寄るんですか」
「お前に、実際の封印の状態を見せたかった。証拠として持っていけるわけではないが、自分の目で確かめれば、戦い方が変わる」
廃寺の地下へと続く石段は、ロウが影を使わなければ辿り着けない場所にあった。地下に下りると、空気が変わった。重く、冷たく、古い。そして、かすかに光っている。
中央に、巨大な石板があった。そこに刻まれた術式の紋様が、今でも青白く輝いている。
「これが、封印の術式です」
「そうだ。見てみろ。何を感じる」
わたしは、胸の紋様に意識を向けながら、石板に近づいた。感じる。確かに、ここに大きな何かがある。封じられた、巨大な圧力。だが、それは安定している。揺れていない。暴れていない。ただ、静かに、千年間ここにあり続けている。
「……静かです。落ち着いています。怒っていない」
「そうだろう。三百年前に私が確認したときと変わらない。封印は完全に安定している。贄など、今は一人も必要ない」
「これを、誰かに証明することはできますか」
「術師を連れてくれば、調べられる。実際、私が接触した聖庁内の若い聖職者の中に、術式の専門家が一人いる。カインに反感を持っている者だ」
「その人に証言してもらえますか」
「すでに話はしてある。お前たちが大聖堂に向かうなら、合流するよう伝えてある」
わたしは、石板の前に立って、しばらくじっと眺めた。
「ここに封じられているものが、わたしの胸の中にも少し入っているんですね」
「その通りだ。だが、お前の意志と融合しているから、暴れない。大災厄は、意志のある器に入ると、その意志に従う性質がある」
「じゃあ、わたしが復讐だけを考えていたら、この力も復讐のためだけになる?」
「そうだ」
「でも、わたしは今、復讐よりも大きなことを考えています」
「知っている」とロウは言った。「だから、力の質が変わってきている。最初に比べると、だいぶ安定してきた」
わたしは、石板にそっと手を置いた。
千年前にここに眠らされた何かが、わたしの手を通して、ゆっくりと脈を打つのを感じた。
これは怖いものじゃない、と今は思う。ただ、途方もなく長い時間を生きてきた、何かの意志の残りかすだ。怒りでも悲しみでもなく、ただ静かに、終わりを待っていた。
「ロウ」とわたしは言った。「千年前の術師たちは、この術式を作るとき、どんな気持ちだったんでしょう」
「分からない。だが、本気で世界を救おうとしていたのは確かだ。自分たちが作った仕組みが、後にこんな使われ方をするとは、思っていなかっただろう」
「良いものを作っても、使う人間が変わればこうなる」
「人間に限らず、ものごとはそういうものだ。仕組みを作ることと、使い続けることは、別の問題だ」
「だから、ちゃんと記録して、ちゃんと監視し続けることが大事なんですね」
「そうだな。お前は、今回の経験から、それを体で学んだ」
「学びましたけど、嫌な学び方でした」
「否定はしない」
「この封印、いつかは解けるんですか」
「大災厄そのものは、千年かけて、すでにほとんど消えかかっている。あと百年もすれば、自然に消滅するだろう。その頃には、封印の必要そのものがなくなる」
「……聖庁は、その事実も知っているんですか」
「知っている、だろうな。だから余計に、今のうちに権力を強化しておきたいのだろう」
あと百年。その間に、どれだけの命が使われていくのか。
「もう、一人も増やさせません」




