第6話 女は怖い
「久しぶりですな〜」
「そうね、元気だったかしら?」
「元気元気」
会場には贅沢な服装をした貴族たちが楽しく団欒していた。テーブルには普段食べれないような、色とりどりの料理が並べられている。
ペルソナは命令で貴族のパーティーに来ていた。
隅でひっそりと佇むペルソナの後ろから声がかかる。
「よぉ、ペルソナ。いや、今はライナだっけか?」
そこにいたのは白髪で髭を生やした、赤い服の軍人のような姿の男だった。
「口を滑らせないでくれないかな。『隠密結界』張ってなかったらどうしていたんだ」
「すまん」
「ところで君がいるなんて珍しいじゃないかミュンヒ・ハウゼン」
「久しぶりに会っておこうと思ってな」
「なんだ?君らしくないじゃないか」
「失礼だな。冗談はさておいて……『仏之神』の一柱が解き放たれた」
「まさかッ」
『仏之神』それは教団の中の王達であり、一柱で一国を殲滅する化け物だ。
ミョンヒが真剣な趣で言った。
「本当だ」
「一体なぜ、まだ復活までは時間がかかると言っていたではないか」
「本来ならそうだった。けど、裏切り者が出た」
その言葉を聞いてペルソナは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに冷静な思考に戻した。
「裏切り者?それは一体。いやそんなことは今はいい。仏之神は今どこに」
「王都だ」
王都か、下手すればその王国を乗っ取ってしまう可能性もあるな。
「そうか……だがいい、帰ってきてくれたのだから。これからは我々の時代だ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――ここが会場か。すごく賑やかだ。僕はパーティー会場に到着した。
……あれは12万、あれは80万ッ、まさかあの輝きは154万ゼニーッ。
僕は貴族たちの身につけているアクセサリーを見ていた。
けしからん、僕は服を買うのすら1ヶ月の節約をしないと買えないというのに。このご時世の貴族は自分達だけこうも贅沢してるとは許せない。
だから僕が救ってやろう。
身につけている、5万ゼニーくらいの指輪や宝石のアクセサリーに僕は目をつけた。魔術で生成した糸は強固でしなやかにそして素早く動く。その糸を伸ばし、誰にも気づかれない速さでアクセサリー達を盗んだ。
ふふっ、これからは僕のお金として生きるのだアクセサリー達よ。
――20万ゼニーGET!
僕はニヤニヤしながら歩いていた。会場の窓際に強者の気配を感じ取った。意識を向けるとそこには2人の男がいた。どうやら隠密結界を入っている。
ちなみに僕は生前の修行の成果で、直感が良くなった。そのおかげで隠密とか気配とか魔術で隠そうがわかるようになっている。直感がこっちの世界でこうも役立つとは思ってもみなかった。
みると1人は腕を組んで壁に腰掛けている。もう1人はその男に向かって真剣な顔で何かを話している。
あれは間違いなく、『重要人物』そして話してる内容は『超極秘情報』だろう。
凄く格好良い、僕もいつかやってみたいと思う。ただ今はそれをやる相手がいない。ここでぼっち、いや孤高を生きる僕のデメリットが出てしまった。
僕は会話の内容が気になったので、こっそりと聞き耳立てると。
「……仏之神の……復活ま……」
という声が、かすかに聞こえた。仏之神、復活、これは何やらとんでもないイベントが起こりそうな予感。
「フッフッフッ」
楽しみだ。
僕は歩き出し、テーブルに並べられた豪華な料理を、皿に乗せていく。一つ、また一つと乗せていくたび、僕の食欲が掻き立てられる。
……美味い。美味すぎる!こんな美味しいものは久しぶりだ。
僕は涙を流していた。なにせ、前世もそうだが、今世でも修行のため最小限にしていたんだ。
あぁ、思い出す。死ぬ一歩前まで断食して胃をならしたあとの商店街の唐揚げの味は今でも鮮明に覚えている。
なんて過去と今に浸っていると、会場が騒がしいことに気づく。
会場の隅の方で、沢山の女性が集まって、何かの取り合いをしているのか目が血走っている。
なんだ?あれ。
「たす……けて」
兄の声がした気がする。すると歩いてきた父が言った。
「……やっぱりか」
「ん?父さん?どうかしたの?」
「馬車で言った話覚えてるよな」
「……あぁ、あれね!あれだよね!」
「そうだ」
なんだっけ。美味しいもの食べてたら忘れてしまった。いやそれ以前に僕は基本興味を惹かないと忘れてしまう性質があるからだろう。
「困ったもんだ。グリルよなんとか耐えてくれ」
グリル……もしかしてあれ兄か?すごくモテてるな。いやまぁ確かに、金髪金眼のイケメンだけど。
「あそこまでグリル兄様ってモテましたっけ」
「あぁ、ジンは家でしかみないだろうからわからないだろうが、魔術学校の生徒から私にグリル宛に連絡が入るほどにはモテている」
「そうなんですね」
「あぁ、だから今日のパーティーは特に気をつけて欲しかったのだ」
「でも父としては誇らしいのでは」
僕は感情のこもらない『棒読み』で言った。モテることなど誇りになるわけないね。
「あぁ、とても誇らしいよ」
と、同じく父も『棒読み』で言った。
そしてしばらくその様子を眺めていると女性に囲まれている兄が僕と父に助けて欲しそうな目で見つめてきた。
すかさず僕と父は知らんぷりして視線を逸らした。こう言うのは関わらないそれが一番。
「ねぇねぇ、グリル様!」
「私と!婚約ッ」
「いや私と!」
「私の方が魅力的!だから私を!」
もはや恐怖すら覚えるその様子を見てグリルは『今日で私はあの世に。あぁ、おじい様、私もそっちにいきます』と天を仰いでいた。
――その時。
「そこまでにしなさい!」
1人の肩まで伸びる茶髪をミディアムボブにした女性の声が響いた。
「あなた達、令嬢の自覚があるんですの?恥かいてるのになぜ気づかないのです」
「ラーシャ……」
ラーシャ、それはグリルのクラスメイトだった。彼女は魔術学校でもよくグリルに襲い掛かる女性たちから守ってあげている少しツンデレな少女だ。
「はぁ?なにあなた。私たちに口突っ込まないでよ!」
「そうよ。あなたには関係ない!」
「もしかしてあなたグリルを独り占めしたいだけでしょ!」
「違うわ!私は礼儀のなってない令嬢にイラついただけ!」
「そう言って本当は」
「もういい!グリル行くわよ」
そう言ってグリルの袖を引っ張ってその場から連れ出した。
「グリルもちゃんと言わなきゃダメよ」
「わかってるよ。ありがとう、ラーシャ」
グリルがそう言うとラーシャは少し顔を赤くした。
「ッあ!」
すると焦ったのかラーシャが転んでしまった。
「大丈夫?」
グリルが手を差し伸べる。
「大丈夫よ」
その手に捕まり照れながらもツンとした態度で起き上がる。
「怪我してない?」
「だから大丈夫よ。ちょっと転んでしまっただけなんだから」
するとグリルはしゃがんでラーシャの足を見た。
「少し擦りむいてるじゃないか」
「そんな擦り傷くらい大丈夫よ」
「大丈夫じゃない。君は女の子なんだよ?ちゃんと体を大事にして。何より僕の大切な人だ。怪我なんてしてほしくない」
「……もうグリルの馬鹿。大馬鹿」
「失礼な」
……なるほどね。つまり兄は女たらしということか。それに『大馬鹿』なんてそんな場面で言うのラブコメでしか見たことないぞ。
……やっぱ青春か。兄は青春を謳歌しているんだな。
まぁ僕には関係ないからいいんだけどね。さて、まだまだ食べ足りない。次は何を食べようか。
「あっ、これも美味しそう。これも食べようかな」
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