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第3話 通りすがりの魔術師

 

 私達はとある辺境の街に向かっている。


「隊長。目的地まであと数百メートルです」


「ええ、わかったわ。その前に一度武具の確認と軽い食事を取りましょう」


「はい!」


 夜の森に騎士達の威勢のいい返事が響いた。その騎士を率いるのは、赤色の長い髪をボブにしている美女、その名もグレイス・クラネス。


「ここら辺にしましょう」


 私が声をかけると、一斉に荷物を下ろして、岩に座り軽食と、皆防具や剣を手入れと点検を行う。


「今日の森はやけに静かね」


「確かにそうですね」


「何も起こらないといいけど……」


 なぜ私達は辺境の街に向かっているのかというと、最近その街に魔物が迷い込むことが増えているとの報告を得て、王都から派遣されたのだ。


「よし、皆準備が整ったようだな」


「準備万全です!」


「気を引き締めて任務をこなすぞ!」


「はい!」


 私は前を向き、堂々と歩みを進める。すると真っ暗だった森の木々の隙間に街の小さな明かりが少し見えてきた。


 街中に降りると、人気はない。当然だ。もう真夜中なのだから。


 住民の迷惑にならないように、足音を最小限にして、拠点予定の場所めがけて静寂の大通りを歩き出す。 


「――ッ!」


 が、その大通りを歩いていると、横の小道に人影が。


 ――私達はみてしまった。


 最初はただの住民だと私たちは疑った。でもそれは完全に自我がなく、皮膚が腐り、目は血迷い焦点があっていない。まるで魔物だ。


「なんだッ」


「しッ――」


 あれに気づかれてはいけない。本能で理解していた。それほどまでに異質なのだ。


「絶対に音を立てないで」


 私はあの怪物に気づかれないように小声で皆に命令する。


「逃げるわよ」


 そう言って建物の隅や、死角をなるべく歩くようにした。


 拠点まで、あと数百メートルの地点。


「カッ、ドン!」


 団員一名が石に気づかず転んでしまった。


 騎士が身につけている鎧は頑丈で重い。転んでしまったら絶対に気づかれてしまう。そのため私達は走り安全な場所まで行こうと足を踏み出した瞬間。


 後ろから不規則に鳴る足音が聞こえてくる。やはり気づかれてしまったか。ただこの先は住宅地ばかりだ。住民に何かあれば私は。


「ッ!仕方ないか」


 こちらめがけて走ってきている怪物を見据えた。私達は恐怖で今にも腰を抜かしそうな中覚悟を決め、勇敢にも剣を握り立ち向かう。


 ――異常だ。


 大量の魔力が一気に放出されている。あのままじゃ自滅するのは目に見えていた。


「ブァァァァア!」


 人の皮を被った怪物は狂ったように奇声を上げている。


「いくぞ!皆!剣をとれ!」


「……ッ、はい!」


 今すぐに逃げ出したいが恐怖をグッと我慢し、私達はその怪物めがけ全力の一振りを。が、斬り落とせない。傷は入るが、深く入らない。


「怪物がッ」


 すると、怪物は一歩二歩と後退する。攻撃に驚いたのだろう。


「グァァァア!」


 ただ下手に傷つけたせいで怒らせてしまった。怪物は口が裂けるほど大きく開け、腕をありえない方向に振り回している。


「ッ!いや、たとえ切り落とせなくても何度も斬るだけだ!」


 私は怪物に何度も何度も剣を振るうが、やはり傷程度。


 すると騎士団の中でも優秀なメガネをかけた団員が驚いた顔をし声を震わせて言った。


「……まさかッ、魔力中毒!」


 魔力中毒、聞いたことがある。それは器が壊れて魔力に飲み込まれることだと。一度起こってしまえば、一日で命を落とす危険な症状。


 でも自然には起こらないとも聞いた。――なら何者かの手によって。いやいまはそんなことはいい。この怪物をどうにかしなければ。


「でもどうすればッ」


 団員の1人が、怪物に噛みつかれ、怪我をした。また1人また1人と怪物によって負傷していく。このままでは全員……。


 仕方ないか。


 ――最終手段。私は普段抑えている魔力を全解放し、剣に込める。


「アアアァァァァア!」


 私は力いっぱいにレンガが敷き詰められた道をバキバキに壊すほど踏み込み、剣を怪物の首めがけてザシュッ!という音をたて全力で振った。剣からは赤い魔力が、パチパチと鳴っている。


「パシャッ、ピュー」


 怪物の首は飛び、血飛沫が道を真っ赤に染める。


「さすがです!隊長!」


 これでも私は王都でそこそこ有名な騎士だ。実力には自信があった。それでもこの魔力中毒になった人、怪物には手こずってしまう。


 ――まだまだ鍛錬が足りないな。


「さて行きましょうか」


「はい!」


 ささっと死体を部下達が片付けて歩き出す。


 すると後ろからゆっくりとした足音と、剣をひきずる鈍い音が聞こえる。


「まさかまだッ」


 振り向くと、さっきよりも外見が腐り果て、人では完全になくなってしまった怪物がいた。それは魔力中毒の最終段階だ。


「――ッ!」


 その怪物以外にさらに2人が路地から現れた。1人は元30代前後の男性。もう1人は元20代前後の男性。どちらもまだ人の姿を保っている。初期段階のようだ。


 ただ3人ともなると私達では――。


「皆!逃げッ」


 後ろを見ると、まだ入ってきたばかりの新人達が腰を抜かして動けなくなっている。


「クソッ。どうすれば」


 もう私には使える魔力が残っていない。もともと私は生まれつき魔力が少ない。だから普段あえて抑えて、いざという時に一気に使うことでこれまで敵を倒してきた。


 ――けど、もうこれ以上は。


「うわぁぁぁぁあ」


 腰を抜かしている新人めがけて怪物は襲いかかる。すぐに近くの団員がカバーするが、その団員達は怪物に飛ばされて意識を失ってしまった。


「隊長助け、て」


 部下の団員の声が変に耳に残る。


 私は混乱していた。団員達が必死になって戦っているのに、私は――。


 誰か……誰か助けて……。


 そう願った瞬間、突如として風が頬を撫でた。


 次の瞬間、怪物達の首がはね血が飛び、大気が震え、窓ガラスが割れ破片が空中に舞う。


 月光がガラスの破片に反射し幻想的な空間と一瞬で変貌した。


 そして、私達の目の前には、黒いスーツに羽織、そして黒い仮面をつけた男が立っている。


 その男の剣には血が垂れていた。


 怪物達を瞬きをする瞬間で首をはねたというのか?そんなの人のなせる所業じゃない。


 その黒スーツの男、男の子?はコツコツと革靴の足音を立てながら去ろうとした。


「待って!あなた何者?!」


「僕か?ただの通りすがりの魔術師さ」

 

「魔術師?一体なぜ私たちを……」


「いずれわかるだろう。その時まで足掻き続けよ」


 そう言い残して彼は飛び去ってしまった。魔術師なのに剣を使うのね……。珍しいけれど、その腕前は至高の領域だ。


「その時……か」


 私はその言葉の意味がわからなかった。ただいずれ理解できることを信じて進もう。


 私が目指すべき頂は――。


 あの一瞬の剣技、残酷なまでの死をもたらす美しき一筋の月光。あれこそ、私の頂だ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「いい感じだったな」


 完全に決まっただろう。まさにかっこいいの極地だ。


 諦めないことも時には大事なのだ。加減によっては執念とかし僕みたいに狂う。そうなってしまっては普通の人達は社会を生きれないだろう。


 僕は空を飛びながら優越感と思考に浸っていた。ポケットに手を入れ、片足を少し曲げてポーズをきめる。そして月を見上げた。


「月が綺麗だ。――ただ僕には少し眩しすぎる」


 僕は手で月を隠した。


「……いか……ないで……と……戻し……て」


 何か聞こえたような気がしたけどまぁ気のせいだろう。

第三話もありがとうございました。

ブックマークと評価も気が向けばよろしくお願いします。

話を溜めているので割と毎日投稿できます

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