第二話 演出は大事なのだよ
僕は今、空を飛んでいた。
「風が気持ちいい」
空からの眺めは素晴らしく、屋敷の周りの森や街を一望できる。
それにしても魔術はすごい。
今みたいに空も飛べるし、火や水とか、魔力を変化させ、生み出すことができる。なんと素晴らしい技術なのだろう。
けれどただ僕は弱い。魔力という力、魔術という技術を得たはいいものの、まだ到底本物の魔術師には敵わないだろう。魔力制御も魔術式構築も伸び代ばかりだ。
そんな僕の今の目標は、子供のうちに魔力量を高めさらに密度も高くすることと、剣や魔術の技術を基礎から一歩一歩大切に磨くことだ。
そのため毎日の息を飲むほど厳しい魔力を高める修行、そして技を磨く鬼訓練をしている。確かに辛いが、前世とは違い、今は力がある。着実にレベルが高まってきてるのを実感できるのが僕にとっては最高に嬉しかった。
ちなみにこの世界は魔術が発展した代わり、技がそこまで洗練されていない。
この世界の一般剣士の技は無駄が多い。みんな魔術に頼りすぎているんだ。前世で僕が全財産を叩いて学んだ洗練された武道なら、魔術なしでも彼らの隙を突ける。
ただ技は未熟でも、魔術という分野ではとても洗練されている。
魔術は、日々いろんな環境に合わせて術者が新しく作ったり、応用したりして、今では数え切れないほどの魔術が存在している。まさに無限の可能性を秘めている。
たくさんの魔術があるといいことばかりではなく、一つの魔術が洗練されないというデメリットがでるが、この世界では実用的な魔術が、偉大な魔術師達によって、選ばれ研究され改善を繰り返し最高品となって魔術書や学校で教えられる。ありがたい事この上ない。
また、基礎から見直され、魔術はとてもスタイリッシュなのだ。
だからこそ魔術はこの世界でとても重要で、難しいものでもある。
というわけで、今日もいつもの僕が修行している練習場に着いた。
僕はフワッと地上に降り立つ。
そこは森の中で、近くには激しく水が落ちる滝がある。何でこんな場所にしたのかは、とにかく景色がいいし、滝行もできるし、人目もないからだ。
そしていつもは魔力を8割くらい抑えているのを、修行をするときはほぼ魔力ゼロレベルまで抑える。何故かはそうした方が鍛えられる。ただそれだけ。
その状態で、僕は魔力を最大密度で練り続けた。
すごくシンプルな修行だ。最初はキツく一つ一つの変化や制御が面白い。が、慣れてきてしまうと同じことの繰り返しでつまらない。
だから飽きてしまうのだが、そこで滝だ。
僕は服を着替え、滝に打たれながら魔力を練った。
僕の体は最初はプルプルと震えていたが、慣れてくると仏のような顔して、鬼畜な魔力制御をこなすことができるようになる。
それを終えると、次は魔力を剣や肉体に練り、強化する。
強化は通常の人の力を何倍にもできるのだ。
僕は、魔術で分身を作った。肌や筋肉、骨、内臓まで再現しそこにエネルギー操作で、戦闘に特化させた、回路を作り、剣を握らせる。
そう、僕は僕の分身と剣を交え、剣技のレベルを上げている。
僕が強くなれば、分身も作り直すたび当然強くなる。
つまり半永久的に修行できるということだ。
そして僕は今日も淡々と修行をこなした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、誰もいないな……。
夜10時頃、コソコソと足音を立てず夜の澄んだ空気に包まれる静寂な廊下を歩いていた。
僕は時折、リンドウ家の屋敷を抜け出し、夜に街の方へ何かイベントが起こらないかと散歩しにいっている。
街はリンドウ家が統治する5キロ程度に広がる小さい街だ。
僕は点々とある魔石のランプを頼りにもう誰もいないどこか不気味な街中を歩く。
しばらく散歩していると、前から明るい光がこちらへ近づいてきた。
――警備員だ。
僕は咄嗟に姿を魔術で隠した。
ん?
何やら警備員の様子がおかしい。目が血迷い、口からは唾液が垂れでている。歩き方もだらんとした、酔っぱらいのような足取りだ。
あれは……。
僕は警備員の魔力を見てみると、赤黒く、そして大量の魔力が一気に放出され、ゆらゆらと空気中に溶けていく。
――器が壊れている。
人は普通、魔力を器にいれ、そこから必要な分を取り出して、魔術を行う。だがその器が壊れると一気に放出され、いずれ魔力がつき命に関わる。
ただおかしいのはそれは極めて珍しい現象で、自然に起こることはまずあり得ない。
考えられるのは意図的に誰かの手によって引き起こされたということ。
魔力の制御を失った者は、己の力に飲み込まれ凶暴化して魔力中毒となってしまう。だから早く対処しないといけない。
が、僕は他人が死のうが生きようが正直どうでもいい。ただこれは何かのイベントなはずだ。
このまま警備員を倒してしまうのは勿体無い気がする。
――見逃すか。
僕はまだイベントの引き金が完全に引かれていないと踏み、とりあえずこの街全体を見渡せる高い時計台にかっこよく座り、月をバックにして不敵な笑みを浮かべる。
「僕を楽しませろ」
特に意味はない。けれどかっこいいから呟く。厨二病ならば、かっこいい呟きをするべしなのだ。ただ呟けばいいわけじゃない、しっかりと背景、時間帯、雰囲気、その演出を大切にするのだ。それが僕の美学。
しばらく僕が時計台から街を見下ろしていると、複数の人影が見えた。盗賊か?街に忍び込んだのか。
その盗賊たちは、住民達に気づかれないように息を潜めて、慎重に歩いている。
すると魔力中毒の警備員が、その盗賊達の方向へフラフラとしながら歩いていく。ほう、魔力を追っているな。僕は普段から魔力を極限まで抑えてるから気づかれなかったのか。
「ッ!まだ起きてやがったか」
盗賊達は警備員の持つ明かりに気づき、狭い路地裏へ忍び込む。
が、しかし警備員は当然のように盗賊に気づき、息を荒らげ、走りとも呼べないような奇妙な動きで近づいていく。
盗賊達は見た目の割に意外にも剣を握り、勇敢に立ち向かっていく。
すまない盗賊達よ。僕は君達を甘くみていたよ……。
と、僕が関心したのも束の間、警備員の異様な形相に、その盗賊の頭以外のチンピラが弱音を吐いて逃げ出した。
「やっぱり無理だ」
「おいらは死にたくはねぇ逃げさせてもらう」
「あっ!おい!お前ら!」
……逃げた。見損なったぞ。盗賊さん達。僕の関心を返してくれ。せっかくすこしはやる盗賊かと思ったのに、一瞬で裏切られた。これだから人は。
その場には盗賊の頭さんだけが取り残されている。
あの盗賊の頭さんは可哀想に。いや失礼だな。哀れみの目で見るのはやめよう。
盗賊の頭のひと、よく耐えたな。君を尊敬するよ。
盗賊の頭は剣を警備員に向け、恐怖で体が震えながらも踏み込み大きな半円を描いて剣を振り下ろす。が、剣が通らない。
惜しい。ただこのままじゃ……。
――盗賊の頭さんは勇敢ではあったものの、魔力中毒でリミットを外していた警備員には負けそうだ。
後で死体は埋葬してあげよう。
――あれから数時間経った頃だろう。
なぜか魔力中毒になっている人が、数人増えている。
ただ増えただけで襲われたのはあのヘタレの盗賊達とその頭だけで、被害は増えていない。僕的には増えてて欲しかったのだがね。
その盗賊の頭さんはと言うと、警備員に殺され無事息を引き取った。――ご愁傷様。
その後、僕は魔力中毒の奴らに気づかれないように、コソコソと盗賊の頭の死体を拾い、少し離れた場所で燃やして埋葬してあげた。
岩を魔術で削り『勇敢なる盗賊の頭』と刻んで墓を建ててあげたよ。
「南無阿弥陀仏〜」
静かな山に不気味なほど響いた。
「あぁ、天国でグッドサインをしてくれてるのが浮かぶ」
喜んでくれただろう。
にしても、ただ魔力中毒が増えるだけのイベントなんておかしい、それの被害を受けたのは盗賊だけで、それを倒す主人公的存在がいない。
このまま何も起きないならあの警備員たちに住民達を皆殺しさせてもいいけど、親が統治してる街だもんな。後々めんどくさくなる。
何か起こってくれ……。
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