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第一話 転生の果て


 僕はただ力を追い求めた。みんなが言う正しさも、幸せも家族も友情も青春も、その全てを捨ててでも、僕はただ力が欲しかった。


 現実を自分の好きなように変化させ、自分の思い込みを超えた現象を起こせる。そんな神様みたいな力に僕は憧れていた。


 いつから僕はおかしくなったのだろう。


 最初はただの厨二病だと自分自身思っていた。けれど、その欲は収まるどころか日に日に強まっていく。


 その力を得るために毎日出来ることはやった。体を極限まで鍛え、技や術を何度も学び習得した。


 でも、いくら肉体や、技を極めようが、僕が求める圧倒的な力には届かない。


 そんな僕が次に目をつけたのは、宗教やオカルトだ。


 この科学で超人的な力はないとほぼ否定されている世界で唯一、物理を超えた力として存在している。筋肉や技では超えられない先に行けるかもしれない可能性があるのだ。


 だから僕は、神仏に祈り、瞑想、断食、滝行などの修行をし、自分をさらに極めた。心霊スポットや呪物と言った霊的に危険なものも。力に触れられるならとなんでも手を出した。


 それでも、得られない、そんなことをしてもせいぜい直感が良くなったかも……程度しか身につかない。


 なぜ……どうして……何も得られない。


 そんな思いが怒りが僕の心を支配する。結局のところいくら青春の裏で自分を鍛え、極めようと、僕には才能がなかった、環境を掴み取れなかった。限界は越えられない。ただの凡人止まり。


 いつしか世界を、僕を、憎むようになった。


 僕が嫌いだ。


 そんな自己嫌悪でさらに僕は絶望へと叩き落とされた。いや自分で叩き落としたのだろう。


 そんな絶望で、何も失うものが残ってない僕だったのに、それでもこの強欲すぎる欲望は収まる気配がなかった。

 

 そんな絶望に明け暮れながらも、いつものように修行をしていたある日のこと。


 僕は、地方の神社仏閣を周り参拝をしてから、霊山を5往復して疲れ切った体で滝にうたれ、ただ森の中で一歩も動かず、手足も視線も動かさずに、自然そのものとして、存在する修行もした。


 それはあまりに退屈で、しかし今までの、乱れた心、怒りで制御できないエネルギーは、自然に収まり、心が静かになる。


 これは退屈で苦痛だけど、意外と効果があることがわかった。「瞑想とか断食とかしても何も変わらなかったくせに」と思ったが、今更そんなことはどうでもいい。


 力というものは得られてないんだから。


 そして、修行を終え澄んだ空気の中、山を足早に下りた。


「今日も得られなかった」


 と、ため息を重くつきながら帰路につく。


 時刻は21時をすぎたあたり。周りはもう暗く、車のヘッドライトが街中を照らす。


 ゆっくりと、一歩一歩丁寧に歩みを進めていると、突然ポツポツと、雨が降ってきた。


 一、二分もしないうちに大雨となり、濡れた服で体が重くなり、髪から水が垂れ流れ寒さで体が震える。


 何故か心地良かった。この雨が僕を包み込んで、この絶望を綺麗に整えてくれるようで、落ち着いた。


 そんな1人夢に近づけない僕は孤独感を抱いた。でもそれを美しいと、感じた。


 本当にもう普通とはかけ離れた、狂った存在だろう。それを再認識させられた。


 夜空を見上げると、満面の笑みを浮かべる三日月が僕を嘲笑っている。


「あぁ、まるで僕そのものだ」


 僕はそう思った。やはり僕はおかしい。


 どうかしてしまった。けれど力に近づけているような実感が僕を惑わせる。


「……いか……ないで」


 何か聞こえたような気がしたけどきっとハイになっているからだろう。


 そんな、おかしな、いや、至って普通の僕は、月光に照らされ美しく光り強く抵抗する雨をかき分けるように突き進む。


 すると、何かが光っている。


 それは右から左へと次々流れていく。


 僕は目に雨水が入りその光をぼんやりと眺めることしかできない。


 慌てて目を擦り視界を確保した。


 そこには光はもうなく、闇が漂っている。


 ただ、目を凝らしてみると、何か闇より黒い人影のようなものが、揺らいでいるのが見える。


 僕はその瞬間、理解した。あれは霊だと。体の内側から震えた。魂が嘆いた。


 ついに、『何か』を目の当たりにすることができた。


「あぁ、やっと、やっとだ」


 僕は無我夢中で、その影に向かって走る。疲れ切った体も絶望も全て忘れて目の前のその闇が僕の意識を釘付ける。


 長かった、本当にずっと求めていた。初めて見えない力に触れられた。今までで味わったことのない高揚感。


 あと少し、あと数歩で、手が届きそう。そんな僕の期待を横に、鈍い金属音が静かな街中に響く。


「がはっ」

 

 僕の視界は暴力的なまでの光に包まれ、目の前の景色が、横にものすごいスピードで流れてく。


 そう思ったのも束の間。後ろから急に光と共に衝撃が伝わり、前方へ僕は飛ばされた。


 何が起こった?


 そんな疑問と、痛みだけが僕に取り残されている。


 車……?が。


 体が熱く思考がやけに澄んでいて、自分の鼓動が耳元で聞こえる。


 そんな中人影のことを思い出し、目だけを動かし影を見る。そこには僕の顔をした男が笑みを浮かべて立っていた。


 すると視界は、ゆっくりと真っ赤に染まり、ピカピカと点灯を繰り返す光がうっすら見える。やがて僕は意識をうしなった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 目覚めると、女性と男性の大きな顔が近くにあった。


 その顔をどけようと手を伸ばすと、その手は小さい。そこで僕は気づいた。


 これはもしかして、異世界転生ってやつ?


 見たかぎり、部屋の装飾は現代日本とは違い、中世ヨーロッパのような感じだった。まぁよく知ってるわけではないから中世ヨーロッパと言う表現で合ってるかは知らないが。


 まぁそんなことはどうでもいいのだ。今は異世界転生を果たしたこと。つまり、なんらかの新しい力があるかもしれないということについて胸を躍らせていた。


 魔法とかあるのかもしれない。


 試しに前世であれほど憧れた魔力などのエネルギーが僕の体に流れていないかを、修行で培った、意識の操作で体の隅々、血管、神経の一本一本まで意識を巡らせ確かめてみた。


 まさか…… 。


 あった。


 あったのだ。今まで感じたことのない、パチパチと弾く、電気のような熱いエネルギー。


 体の細胞全てに魔力は流れていた。

 

 これがなんなのかは今はまだわからないが、僕の胸の高鳴りは限界を越えようとしている。


「ねぇあなた、この子、手を伸ばしているわよ。握って欲しいんじゃない?」


「本当だな、今繋いであげるからな」


 なにやら楽しそうに微笑み、おそらく異世界語を話している。異世界の言葉がわかるとかそんなギフトとかないのは残念だが。


 まぁこれから覚えられるだろう。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 僕は10歳になった。


 そういえば、僕が生まれた家は、リンドウ伯爵という、まあまあいい家系だった。


 ちなみに今の名前はジン。


 僕含めて子供が3人いて、長男のグリル、次女のマリカ、そして僕。という兄弟姉妹関係だ。


 この10年間である程度の言葉は覚え、この世界についても理解が深まった。


 この世界には魔術という、術式を組み魔力を使い具現化させる、非常に論理的な学問として発展している。


 そしてそれを学ぶ、魔術学校があるようだ。


 日本でいう高校のイメージ。ただ珍しいのは、成績がポイント制らしい。イベントが盛りだくさんなんだろうな。


 ただ学校は15歳からだ。あと5年もある。


 そのため僕は屋敷にあった、魔術書を毎日読み漁って知識をつけた。貴族の家には大量の本があるから幸せだ。


 そして僕はいつか来るその時のために、剣の修行も怠らなかった。魔術だけじゃ格好悪いからね。


 周りからは「この歳でこんな古書をッ」とか「剣筋がすごく綺麗だ。坊ちゃんは将来優秀ですなぁ」とか言われた。確かに普通は10歳で、研究者レベルの本や、古書読んだりはしないわな。


 でもそのおかげで今では到底10歳とは思えないような動きや魔術ができる。


「魔術最高ー!!」

第一話を読んでいただきありがとうございます。

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