超新星ノウ・ザ……
コン、コン、コンと足音が広い空洞に響く。
「誰かね?」
暗闇から現れたのは、黒いスーツに羽織りのようなロングコートを着た男だった。
「我の名は日月。太陽と月の王にして、闇を統べる者」
「戯言をいう。闇を統べる者だと?闇はお前が思っているより遥かに深く不条理なのだ」
その男は笑った。
「何がおかしい」
「哀れ。闇が深い?不条理?そんなことは弱者の言い訳でしかない」
「言い訳だと?闇も知らない奴がほざくなよ」
「真に闇を統べる者はその全てを飲み込み糧とする」
「お前に何が出来る」
「何が出来るではなく、何をするかだ」
「そうか……。だが一体どうやって此処を見つけた。道は無いはずだ」
「我にわからぬ事はない」
「お前は何が目的だ」
「我は闇に生まれ闇を統べる者。ただそれだけだ」
「それしか言わぬつもりか」
ゼイガルニクの顔はまさに『激怒』と言った感じだ。
「何も言わないか。だがいい。私はここでお前を倒し、ゾディアックになる糧としてやろう」
ゾディアック?なんだそれ。
「貴様に出来るというのなら、答えてやろう」
そう言った瞬間、ゼイガルニクは己の魔力を収縮し体全体の筋力を上げ、踏み込んだ。
その剣は実力者でもなかなか見極めるのが難しいと思えるほどだ。
が、男に止められた。
「運がいい奴め」
ゼイガルニクは幾度も踏み込んでは剣を振るった。
だが、その全てをその男に防がれてしまう。確かなスピードと技があった。それでも防がれることにゼイガルニクは楽しさすら覚えている。
「訂正しよう。お前は強い。だが、私には勝てぬ!」
「それはどうかな」
ゼイガルニクの動きはさらに速度と精度を上げ、空間が切れると錯覚するほどの剣技を繰り出す。
圧倒的なまでの魔力。一つ一つの攻撃は、人が1人で出している重さでは到底ない。
だが、その男は片手にもった漆黒の刀でいとも簡単に受けこなす。
「これほどまでとは……すこしみくびっていたようだ」
すると、ゼイガルニクの体の魔力が一箇所に集まり密度が高まっていく。まさに超人のなせる技。
次の瞬間。ゼイガルニクは踏み込んだ。地面は割れ、風が遅れる。
小細工などせず、真正面から男を叩きのめす様だった。
「ッ、何!?」
だが、それすらも止められてしまう。何よりゼイガルニクが恐怖を覚えたのは、男は一歩も動いていないことだった。ただ男のコートが美しく舞うだけ。
最初からこの男はゼイガルニクを見てすらいないかの如く、何処か他人事だった。
「……流石だな。ここまで力を出しても手も足も出ないとは。それほどの剣技を、技を何処で手に入れた」
「ただ目指したそれだけだ」
「そうか。敬意をしめそう。だが、私も長年積み上げてきたのだ。そう簡単には負けるつもりはない。私の持てる全てを使ってお前を叩きのめそう。だから私の全てを受け止めてみせよ」
「――存分に抗うことを認めよう」
ゼイガルニクはほんの少し笑った。
すると、ゼイガルニクは瓶を取り出した。
「龍の血か」
「卑怯か?」
「いや。それもいいだろう」
「そうか」
ゼイガルニクは龍の血を口に放り込む。噛んだ瞬間、魔力が圧倒的な『密度』『量』で鳥の如く体を駆け上がり、大気を震わせる。筋肉は膨張し、目は血走っていた。
「フッフッハッハッハッハッ。気分がいいな。今なら全てを手に入れられそうだ。今の私はまさに最強と呼ぶのに相応しい。力が溢れる、若返る。素晴らしい!本当にすばらしいぃ!!」
触れただけで体が弾け飛びそうなほどの威圧感を放つゼイガルニクの肉体は、まさに化け物と化していた。
「さぁ行くぞ!」
一歩。その一歩を踏み出すと、今までのスピードを遥かに超え、攻撃を繰り出す。その剣は美しくそして残酷だ。
その男は剣を受け止める。が、ゼイガルニクがさらに力を入れ『一歩』男を動かすことに成功した。
「ハッハッハッハッ、これが力だ!これが私の持てる最強であり頂きだ!」
ゼイガルニクは卓越した剣技を幾度も圧倒的なパワーでその男に振るう。その度、男はよろめく。だが最小限で受け止めているようにも見える。
「面白い」
男は冷静でこの荒々しい場にふさわしくない不気味な声で言った。
「フッ、この状況でも冷静とは大したものだ。だがいいのか?私に押されるばかりでお前は攻撃を仕掛けない。侮辱か、敬意か。どちらにせよ、本気を出していないのだろう?」
「本気か。そうかもしれないな」
「認めるか。ならばお前も来い!」
「それはできないな」
「なに?」
「貴様が我を唸らせるほどの実力があるならば我も答えよう。だが、貴様に出来るというのか?」
「――ならばお前が試してみるといい」
ゼイガルニクは剣に魔力を込めた。剣からは魔力による質量で光を発している。
一振り。その一振りは美しかった。ただ届かない。少し残念だ。
「ッ手で!?どういうことだ。この私の一振りをなぜ手で止められる。私の力は今、頂きに達した。それなのに――」
「頂きか。その程度で頂きと言うなど冒涜であり、浅薄の極みだ」
男は一歩また一歩とゼイガルニクに近づく。
そして剣を振り上げた。
「まっ」
ゼイガルニクの片腕が斬り落とされ、大量の血がダラダラと垂れ流れている。
一瞬のことでゼイガルニクが理解するのに数秒のタイムラグがあった。
あまりにも綺麗に斬られた切り口は『痛み』という言葉では当てはめれないほどの感覚を覚える。
「あぁぁあああああああ!」
男はそのゼイガルニクの悲鳴に表情一つ変えず冷たい目でただ見据えていた。
「何故そんな顔をする。何故だ」
「何故だろうな」
「は?馬鹿にしているのか?」
「違うな。もういい」
「どういうことだ」
僕はかつて力を追い求めた。
憧れであり、僕を成す根源であった。ただ、いくら努力を重ねようと、いくら嘆こうと届かない頂に僕の『夢』『憧れ』『欲望』の答えがあった。
あらゆる災害、兵器、例え隕石が降り掛かろうとも、星が爆発しようとも敗れない。圧倒的であり絶対的な神様のような力。
ただ、それを得るのは夢物語ですらない。絶対的な不可能として僕に振り掛かる。
それを覆し、神を体現するにはどうしたらいいか。
魔力を持って生まれた今ならわかる。
「追い求めた先、それを掴む時が来た。――終わりにしようか」
「何を――」
その瞬間、男の髪の色は抜け白髪へと変わる。おそらく膨大すぎる魔力量により髪の色素が抜けたのだろう。
男がつけていた仮面が割れ落ちる。男の赤く光るように見える瞳はゼイガルニクをしっかりと捉えていた。
ゼイガルニクは体が固まっていた。理由はわからない、恐怖なのか、見惚れているのか。
傷を自身の体につけ、無理矢理体の緊張を解いた。そしてすぐに体勢を立て直し、男に剣を振るう。が、通らない。
「何故ッ」
男は剣を掲げた。
その瞬間。純白の魔力が細く、幾何学的模様を描き、龍の如く男の周りを力強く囲う。
「何だこれは……こんなこと、こんなことが人に――」
その圧倒的なまでの実力、技術に、ゼイガルニクはただ美しいと思うしかなかった。
「我の身を持って、この世に新たな神格を宿そう。そして魂に刻め――」
「お前は……お前は何なんだ!」
「……超神星『ノウ・ザ・ゴット』」
その言葉が響くと、純白の魔力の線は男の剣に集まり神々しく輝いた。そして男はゼイガルニクを見据え、ゆっくりと美しく振り下ろす。
その瞬間。その空間は真っ白に染められ、音すら消える。
『圧倒的』そして『残酷的』『絶対的』な、まさに神の成せる技。
その光は天空から地下深くまで伸び、神々しい光の柱ができていた。
『あれはッ』
『一体何が』
『あぁぁあ、神がお怒りじゃ』
『神々しすぎる。何なのだ』
『神が現れた』
『神様……』
街の人以外にもその光は大陸中から目撃された。
光が止むと、そこには巨大な穴が空いていた。
当然ゼイガルニクの姿はない。
「あぁ。綺麗だった。何と美しいのだろう」
やっと。やっと、辿り着いた。
僕の目指す頂の答え。
僕の欲望。
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