モブ兼ヘタレはダンジョンに行く
僕は朝6時ギルドに向かっていた。今日は待ちに待ったダンジョン!朝から僕は張り切っていた。
師匠ことリアスと話し合ってギルドに集合する事になった。僕が上級階級の寮になんて入れないし、来てもらうのもヘタレとしてのプライドがあるため、ギルドに決定した。
ギルドだと、色々な情報も手に入り、武具の提供もしてくれるらしいから集合場所としてうってつけの場所なのだ。
朝日が心地よい。この時期は6時には朝日が上りきっており朝の冷たい空気を太陽が温めてくれる。
街中は朝6時にも関わらず、人がちらほらといる。魔道馬車も何台も見かけた。みんな早起きなのだろう。
前世では寝ずに修行するか、寝すぎるかのどちらかだったから、こっちの世界にきてまともな生活を送れている。
そして店もちらほらと開き始めていた。ちなみにギルドは24時間営業だとか。ブラックだ。
それにしても時間帯が違うだけでこうも街並みが変わったように感じるのは不思議だよね。やはり雰囲気は大切と言うことを再認識させられる。
しばらくしてギルドについた。朝6時と言うのにギルドは活気づいている。ただ少しお酒くさい。道端に何人か酔い潰れているし、昨日の夜に打ち上げでもしたのだろう。
するとギルドの中から荒げた声が聞こえる。
「いいじゃねぇか。俺達とあそぼうぜ。絶対たのしいからよぉ」
男達は酔っ払っていた。数は3人。全員ムキムキマッチョの冒険者だ。
「困ります!私は何度も予定があると言っているでしょう」
そう言うのは僕の師匠、リアスだった。
「んぁ?俺の、ひっ、言う事なんだからぁ従えよなぁ」
酔っ払って意識がはっきりとしないのかリアスの腕に掴み掛かる。
「ッやめてください!」
「おとなしくしろ!」
酔っ払いは急に声を荒げた。そのせいでリアスは怯えている。
「……お願いですから、離してください」
「あぁあ!?生意気言ってんじゃねぇよ。俺達と遊ぶんだろぉ!」
「いやッ。離して!」
抵抗するリアスにイラついたのか男は拳を握る。
殴られる。リアスは覚悟した。
――今だ。僕はタイミングを見計らってギルドの扉を大きく開く。
「そこまでだッ!」
大きな声で少し噛みながらも言った。
「え?ジン今は来ちゃダメ……ッ」
男は殴り掛かろうとする拳を止め、僕を見た。ギルドにいた者達も僕を見つめる。
「なんだぁお前」
「僕の名前は、ジンッ!その子に手をだすなぁぁぁああ!」
見たか。僕の迫真の演技。これぞ醍醐味。ただ単に格好いいを目指すだけでなく、こう言う弱いものを演じるのも思ったより楽しい。
「フッ。こいつお前の女か。だが俺らがもらってくぜぇ」
「ッ!やめろォォォオオオ!」
僕は無様でだらしのない走りを見せつけながら男に殴りかかる。
「あ?なんだ」
ペチッ!男は僕の額にデコピンをした。数メートルも飛ばされ口から血を吐く。※この血は魔術で生成した偽物です。
「お前やる気あんのかぁ?」
「まだだッ。僕は僕はぁああ!」
「そこまでにしてください」
品のある、透き通った声で言ったのは、このギルドのギルド長だった。ギルド長は藍色の髪をしていて異世界式スーツを着ている。
「ギルド長か。今は黙ってろッ」
男はギルド長に殴りかかる。素人でも目に追える程度の速さだが、着目するべきはそこではない。その威力だ。マッチョなだけあって当たれば骨は砕ける威力だろう。
だが、ギルド長は片手で薙ぎ払う。洗練されたその動きは一般的な冒険者の実力を遥かに超越していた。
「女の子に手を出すなど冒険者の恥です。無事で帰れると思うなよ」
ギルド長格好いいな。結構気に入った。
するとギルド長は、地面に腰を抜かして座っている僕の元へ、革靴のコンという足音を響かせながら近づいてきた。
「君、立ち向かうのはいい事だけど無茶は良くないよ」
そう言って僕に手を差し伸べる。
「ありがとうございます」
ギルド長の手をとった。……感じる。魔力の流れ、筋肉の動き、体温、感情。触れてみて改めて思う。強者だ。
「命を大切にね。じゃあ私は行くよ」
そう言って立ち去って行った。
「ジン!大丈夫だった?」
リアスが不安そうな顔をして僕を見上げた。
「師匠が無事でよかった。僕は力になれなかったけど」
「そんなことないわ。ジンが助けようとしてくれて、私すごく嬉しかったの……ありがとう」
「……師匠は優しいね」
「えへへ……じゃなくてジン怪我は!」
「大丈夫。あの男が手加減してくれたのか軽い怪我で済んだから」
「本当?でも一応回復魔術をかけておくわね」
「ありがとう」
実際のところ怪我なんてどこにもないんだけどね。まぁ優しさは受け取っておく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕とリアスは王都から少し離れた森へ来ていた。森といってもあたりは開けていて、道が整備され宿や武具屋があったりと普通の小さな町という感じだ。というか『ゲール』という看板があったし本当に町なのかも。流石に小さすぎるけど。
そしてその町をまっすぐ進むと、巨大な岩に樹齢が何百年といってそうな巨大樹が生えている。そこの岩には大きな穴があり、木で作られた巨大な扉があった。
「ここがダンジョンか」
「ここがダンジョンです!」
「ずいぶんと神秘的だね」
「ええ、でも中は魔物でいっぱいで全然神秘的じゃないですけどね」
「へぇ〜」
「では早速中に入りましょうか」
そう言ってリアスは大きな扉に手をかざす。
『魔女よ。今こそ試練を乗り越えん』
呪文だろうか。リアスが唱えると扉は1人でに開いた。
「さぁ、行きましょう」
「あぁ」
僕達が歩き出すと、扉は閉じた。
「大丈夫ですよ。層ごとに『ゲール』に戻る転移魔術陣があるので」
「転移魔術陣って罠なんじゃないの?」
「そうですけど今では帰還するのに使われてます」
「そうなんだ」
ダンジョンの中は意外と明るく、天井に白い光を放つ植物が張り巡らされている。
「ダンジョンってよく知らないけど、どんなものなの?」
「それはですね。前話した通り魔女が作った物なの。そしてダンジョンは現在到達できているのは78階層までで、どこまであるのかは不明です。10層ごとに魔物や罠があり、最後にボス部屋があるんだけどそこは層ごとに内容が違うから気をつけないといけないわね」
「なるほど」
単なる異世界によくあるダンジョンとは違うようだ。
「そして第一層は『調べ』と呼ばれているの」
「『調べ』か」
「主に実力と試練に挑む覚悟があるかを確かめるスタートに立つための層でここは初心者パーティーでも攻略は容易いからあまり気を張らなくても大丈夫」
なるほど。面白いな。
「今日は10層まで行くんだっけ」
「ええ、まだ初めてですし10層までですね」
すると目の前の、曲がり角から一つの気配。魔物だ。
「来ましたよ!」
「わかった」
姿を現したのは『ゴブリン』と呼ばれている魔物だ。肌は腐り青緑に変色している上、耳が尖り体は痩せ細り、目が赤い。よくイメージするゴブリンとかよりもっと人に近い姿をしている。
「ジン!首を狙って!」
「了解。師匠」
剣を抜き、軌道がバレバレの単純な動きでゴブリンを攻撃した。結構手を抜いたつもりだったけどゴブリン程度では手を抜いても簡単に倒せてしまう。
「ジンよくやったわね。流石私の弟子です!さぁ魔石の回収をしましょ。ギルドに売ればお金にもなるしダンジョンを潜るにはポイントとしてカウントされるから持っておいて損はないのよ」
魔石は胸の奥深くにあった。まるで宝石。このゴブリンからはアクアマリンのような綺麗な魔石が出た。
「こんなにも綺麗なのは当たり前なの?」
「ええ、ダンジョンの魔物は魔女が生み出すもので、自然に発生しているものより見た目は綺麗だけど、価値は低いの」
そうなのか――残念。
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