騎士として
「あれ、だな」
ブレソルは遠くを歩く人影を指さして言った。
サムライは刀を引き摺りながら右往左往している。
「ついに、ついにサムライと...!よし、行くぞフレア!」
ブレソルはわかりやすく興奮しながら走り出した。急な海岸の坂を勢いよく走り抜け、あっという間にブレソルは港のすぐそばまで着いてしまった。
「え、え!?」
フレアも遅れて「飛翔<フワリル>」で後を追った。
「遅いぞフレア。やつはもう目の前だ。しかし、この壁はどうしたものか」
港をぐるりと覆うように空立つ壁が二人の行先を塞ぐ。フレアは魔法を使えばなんてことないことだったがブレソルはそうともいかない。顎の下に手を当ててブレソルは少し悩んでいた。
「ふむ...フレア、私は解決方法をいくつ思いついたが君はどうだ?」
「私は...全くです。ちなみにどんな解決方法が?」
ブレソルはフレアの言葉に応えるかのように剣を抜き縦を地面に突き刺した。
「こうだ」
ブレソルは高々と掲げた剣を壁に向けて勢い良く振り下ろした。とんでもない轟音と共に壁が崩れる。
「どうだ?完璧な解決だ」
「...そう、ですね...」
これが異端総会だ。フレアは今一度自分がいる組織の存在を理解しなおした。
「今のであいつも勘づいたはずだ。急ぎ探すぞ」
「は、はい!」
着いていけないほどの切り替え速度にフレアは吃ったが気を取り直して探知魔法を展開する。
「探知の魔法<ノーチス>」
周囲の空間を把握、生物の有無などをざっと見でフレアは確認した。
「人は、本当に一人みたいですね」
フレアは港に入った直後から異様な静けさに嫌な予感がしていた。まさか本当に、そのまさかだった。
「奴はどこだ?」
「...!こっちに近づいてきています!」
一つしかない人間の反応は驚くほどの速度でこちらに向かってきている。
「どっちからだ!?」
「ええ、えと、十二時の方向で...!」
その瞬間フレアの目に映ったのは刃こぼれし切った鈍い光を放つ刀身だった。
ガキン、耳を突く金属音と共にフレアは地面に飛ばされる。
「フレア!しっかりしろ!」
盾で受け止めた刀を振り払いブレソルはフレアの側に駆け寄る。ブレソルは横座りのまま固まっていたフレアの体を探り始めた。
「斬られてはいないな。戦えそうか?無理にとは言わん」
「不意を突かれただけです。戦います」
そのいきだ、ブレソルはそう言うとサムライに剣を向ける。隅々まで丁寧に手入れされた直剣は空の光を反射して輝く。
「私は深き海ブレソル。貴公、名はなんという?」
「?てっだんな」
異国の言葉はフレアたちにもサムライにも理解できなかった。
「翻訳<デプル>」
フレアが魔術を唱えるとサムライの言葉が普段聞き慣れた言葉のように聞こえた。
「ったく、ここの奴らは何言ってるかさっぱり解りゃしねえ。そんでもって血気盛んときた」
「む、言葉がわかる...ならもう一度。私は深き海ブレソル。貴公、名はなんと言う?」
「あ?お前、うちの言葉話せるのかよ。名だって?教える義理はねえな」
サムライはそう言うと刀の刃先をブレソルに向ける。二人の会話の間にフレアは体勢を立て直した。
「俺の攻撃にお前は剣を抜いた。つまりもう勝負は始まってんだよ。とっとと構えやがれ」
「サムライは名を名乗るのではないのか...?まあいい!深き海ブレソル、参る!」
二人は同時に踏み込み、剣を交える。盾で塞いだ時とはまた違った激しい金属音が響き渡った。
鍔迫り合いをしたと思えばサムライはすぐにブレソルを蹴り飛ばし距離を離す。
「悪くねえ太刀筋じゃあねえか。だが...」
サムライはほとんどの予備動作を見せずにブレソルの懐に入り込む。
「ちっと遅えな」
サムライが下段の構えで下から一気に斬り上げる。ブレソルには防ぎようがなかった。
「退避<レセラ>!」
ブレソルの体をフレアの側までテレポートさせる。刀が空を切ったサムライは少し困惑した様子だった。
「流石サムライ、数瞬遅れていれば私の腕はなかっただろうな。助かったぞフレア」
「いえ、これくらいは。私もここからはしっかり参加させてもらいます」
頼もしいな、ブレソルはそう言うと盾を地面に突き刺し、両手でがっしりと剣を握る。
「...面白え。幻術ってやつか?次はガキ、お前だ」
サムライはそう言うとまたもや低い構えからの俊足、フレアの目の前まで迫った。
「近接魔剣斬撃<リ・レルザス>!」
下からの抉るような斬撃をフレアは青白い大剣で受け止める。
「脇が甘い」
魔大剣を振り払おうと杖を上げたフレアの腹部に隙ができる。そこにすかさずサムライは掌底を放った。鈍く何かが砕けた音がフレアの体の中に響く。
「っは!」
フレアは杖を落とし地面に伏す。息をすれば激痛が走る。胸を抑え浅い息をした。
「こっちだサムライ!」
鋭い一撃がサムライの帽子を掠める。サッと避けたサムライはブレソルに斬り掛かった。
「まだやるのか?仲間は死に体だぞ?」
「"だから"だ!」
ぐっと踏み込みブレソルはサムライに乱撃を仕掛ける。縦横の蓮撃は素早さよりも一撃の重さを重視した筋力による攻撃だ。
(はやい、と言うか勘で避けているのか?当たる気配がない...)
一度も当たらない攻撃にブレソルは違和感を覚えた。全ての攻撃はかなりの余裕を持って避けられる。
(これが経験の差なのか...)
両者は剣を下ろして距離を取る。睨み合う二人の空気は痺れるように鋭かった。
「どうした鉄塊。俺はまだまだ余裕だぜ?」
「正直に言おう。俺はお前に勝てる気がしない。だがな...」
下げた剣をアーメットに合わせるよう掲げる。顔の半分を隠すように聳える剣は眩く《まばゆ》光を跳ね返した。
「騎士として、誇らしい死を迎えてやる...!」




