灰港シャルナ ― 渦潮の向こうにいる敵
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◆1 海の始まりは灰色の港で
砂漠を抜けて二日後――
ジージーたちは 灰港シャルナ に到着した。
潮の風。
鉄と魚と燃えた油の匂い。
海のはずなのに、
どこか灰色で、静かで、重たい。
「……船の声がしない」
ミナがつぶやく。
港は広いのに――
停泊している船の数が妙に少ない。
「航路の封鎖か」
セルグレンが空を仰ぐ。
「そうとしか思えねぇな」
リゲロの目は警戒で細くなる。
(宙海へ出られなければ、
遠回りを強いられることになる……)
「とりあえず、船を探そう。
誰か、話の分かる船乗りを」
「うしっ!任せてくだせぇ」
ラシードが先行して港の酒場へと消えた。
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◆2 “船が失われる海域”の噂
「……聞いたぜ」
戻ってきたラシードは肩をすくめ、
「この街から“翡青列島”への航路が、
完全に止まっちまってる」
「なぜ?」
「渦潮の魔物が現れるそうで。
航路に近づくと、船ごと引きずり込まれるって話でさぁ」
「最近、何があった?」
「行方不明になった交易船が2隻。
しかも夜に限って現れるらしくて……
‘海の魔女’の仕業だって噂が」
ミナの霊体が震えた。
「魔女……
あの時、私たちを飛ばした……?」
「関連あるかは分からんが……
魔王軍側の何者かが海を封じてるとしたら」
「世界を分断しているってこと」
ジージーが呟く。
知らず知らず――
大きな戦争に巻き込まれているのだと。
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◆3 船を出す男
「お前らが翡青へ渡りたい奴らか」
声がした方を見ると、
年季の入ったジャケットを羽織り、
片目に眼帯の男が立っていた。
「アダス・グレイル船長
灰港シャルナで、まだ海を憎まない馬鹿の一人さ」
無精ひげに、豪胆な笑み。
「渡れるのか?」
「渡るんじゃねぇ。
渦を越えるんだ」
彼の背後には
古いが骨太な帆船が停泊していた。
「《 ロック・アーミナ 》号。
魔物から守られた……少なくとも“昔は”な」
「……今でも?」
「試してみる気はある。
ただし――
お前らにも戦ってもらうけどな」
セルグレンが一歩前へ。
「乗る」
リゲロも、ジージーも頷く。
「勇気があるのは結構。
でも、一つ言っとく」
アダス船長は
港の果て、暗い波間を睨む。
「この海を荒らしてるのは“魔女”じゃねぇ。
もっと厄介な“連中”だ」
「魔王軍……?」
「……名前を知ってるか。
なら話が早い」
潮風が、急に冷たくなった。
「今日の夜明けに出る。
準備をしておけ」
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◆4 離れていても
船員たちへ挨拶を済ませ、
港の裏手――石の階段に座り込む。
(宙海には、まだ何があるか分からない)
共有鞄に手を伸ばすと――
ぽん、と何かが落ちてきた。
「……魚だ!!?」
ミナが吹き出す。
「本当に送ってきた!」
紙に走り書きがある。
『大漁でした!!!(ルーシー)
塩漬けにしてあります!
ケガしたらすぐ使ってね!!(テドラ)
レーヌ湖畔勇気供給、出動ですわ!!(マリーヌ)』
「あはは……ありがとう。
すごく元気出た」
胸の奥があたたかくなり、
海風の冷たさが気にならなくなる。
「……行こう」
ジージーは短杖を握りしめる。
「今度は海で――止める」
セルグレンが頷き、リゲロが笑う。
「潮の迷宮、ってやつか。
面白ぇじゃねぇか」
ミナが波の上に浮かびながら呟く。
「きっと向こうで――
また“何か”が待ってる」
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◆つづく
『翡青列島へ ― 渦潮と霧の迷宮』
潮が、牙を立てる。




