砂の街シワジ・イルモザ ― 値切りと密命と
◆1 砂漠の市へ!
シワジ・イルモザの街並みは、
まるで砂の海に浮かぶ色とりどりの宝石だった。
屋根まで布で覆われた商店群。
大きな壺、整然と積まれた絨毯、香辛料の匂い。
遠くには海――
だが潮の気配はほとんどなく、熱い風が砂粒を運んでくる。
「おいおい……これはすげぇ場所に来たな」
リゲロが目を輝かせる。
「知らない武器、知らない食材、知らない酒……天国か?」
「油断しない。
こっちは文化も相場も違う」
セルグレンは盾を背中へ回し、周囲を警戒したままだ。
「異国って感じだね……!」
ジージーは、この見たことのない景色に胸が高鳴るのを抑えきれなかった。
「へへっ。じゃ、とっておきの店にご案内しやしょう」
ラシードが案内するのは――
縄のれんとランプが掲げられた、ちょっと怪しい雰囲気の店だった。
「“鉄鳴りのヤフマ”といって、鉱山の道具やら加工した武具やらが揃ってるんで。
死人石の価値、分かる店ですぜ」
「よし、行ってみよう」
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◆2 死人石の“価値”
「いらっしゃい……」
奥から出てきたのは、
太い眉と油染みた作業服の巨大な店主――ヤフマ。
「死人石か。手間のかかるモン持ってきやがって」
「買い取れるか?」
「状態を見てからだ」
ヤフマは布をめくり、拳大の結晶を持ち上げる。
その瞬間、店内のランプが一つ――フッ、と小さく明滅した。
「……」
「どうだ?」
「純度は高い。
だが扱いを間違えりゃ、指ごと吹き飛ぶ代物だ。
若造には似合わん」
「商人ってのは話長いな」
リゲロがぼそっと呟く。
ヤフマの眉がピクリと動いた。
「言ったな?じゃ倍にする」
「ちょ、ま――!」
「言ったな?」
ヤフマの圧がすごい。
セルグレンが肩を押さえる。
「リゲロ。口をつぐめ」
「へい」
「で、いくらだ?」
「一つ銀貨120枚。
まとめて3つなら――380」
ラシードが目をむく。
「こりゃ破格でさぁ!」
「信用はしてないが、品はいい。
その代わり、今後も持ってこい。
量が増えりゃ、もっと払う」
ジージーは頷き、
「必要な時は、また寄らせてもらうよ」
死人石は一部だけ売り、
残りはレーヌ湖畔へ共有鞄で送ることにした。
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◆3 ガチ値切りタイム
次にラシードが連れていったのは――
食器、壺、保存瓶が所狭しと積まれた雑貨店。
「こっちは値切れ」
「へ?」
「ここに来たからには、値切らねば損でさぁ」
ジージーは店主の前に立ち、喉を鳴らす。
「これ、干し魚入れる用の“密封瓶”だよね?」
「そうだ。銀貨4枚」
「3枚」
「4枚」
(強い……!)
セルグレンが小声で耳打ちする。
「“若いけど、頼れる仲間がいて”感を演出しろ」
「りょ、了解……?」
「あと、『これで仲間が助かる』って言え」
「あ、それは本当だから言える!」
ジージーは一歩前へ。
「これで仲間が助かる。
4枚なんて出せない」
店主が少し黙った。
「……3枚と銅貨5枚」
「3枚ちょうど」
「銅貨2枚」
「3枚」
「……わかった」
ラシードが親指を立てた。
「お見事!
“ジージー値切り術”、伝説の幕開けでさぁ!」
「そ、そんな大げさな……」
ミナが笑う。
「きっと向こうの補給部隊も喜びそうね。
これで干し魚、送れるでしょ?」
「うん!マリーヌたち、びっくりするだろうな」
その瞬間――
共有鞄がぽこん、と膨らんだ気がした。
(あ、手紙来たかも)
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◆4 湖畔より愛を込めて
路地の陰に移動して開くと――
中から、3人の文字が飛び出した。
『魚、待ってる!!(ルーシー)』
『塩も忘れないでね!(テドラ)』
『隊名の看板を作りましたわ!!(マリーヌ)』
「こ……看板!?」
ミナが肩を震わせながら笑う。
「向こうも楽しんでるね」
「うん。
離れてても――一緒に戦ってるって感じがする」
ジージーは胸の奥がじんと温かくなるのを感じた。
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◆5 密命と、影
その時だった。
「おい、あれ……」
リゲロが通りの先を指差す。
黒い外套をまとった人物が、
ヤフマの店へと急ぎ足で入っていった。
その腰には――
黒鉄の角飾り。
「……魔族の紋章だ」
セルグレンが無意識に短剣へ手を伸ばす。
「ここにも……魔王軍の手が?」
ミナの声が震える。
ラシードが小声になる。
「最近、怪しい連中が鉱石を買い占めてて……
死人石は、魔導兵器の“核”になるって噂でさぁ」
「つまり――」
「どこかで大規模な戦いが起きる。
その準備が、もう始まってるってこと」
ジージーの喉が、ごくりと鳴る。
(戦争は、遠くじゃない)
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◆6 そして次の目的地へ
「リゲロ。尾行できる?」
「任せとけ」
「セルグレンは周囲の警戒」
「了解」
「ミナ、上から」
「分かった」
ジージーは短杖を握り直した。
(補給部隊がいてくれるから、
どれだけ遠くに来ても前を向ける)
「……行こう。
この先で何が起きようと――止めるために」
砂の街の風が、
熱いようで、冷たく吹き抜けた。
その風が告げていた。
戦争は準備を終え、
あとは“火種”を待っているだけだ――と。
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【次回予告】
・敵勢力の鉱石買い占めの裏には“誰が”いるのか
・航路封鎖の情報
・峡谷×魔女×渦潮 → 次の目的地へ
・ジージーたちを呼ぶ“影の声”




