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Staff Hero ― 支える勇者 ―  作者: 和泉發仙


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死人石の迷宮と、骨が目覚める音

◆1 旧鉱山ダンジョン、入口


 口を開けた断崖は、どこか巨大な獣の喉のようだった。


 黒ずんだ岩肌。

 崩れた木枠。

 錆びたレールが、口の奥へと途切れ途切れに続いている。


「……ここが、旧鉱山ダンジョン」


 ジージーは短杖を握り直した。

 背中に、じわりと汗が滲む。


「へい。昔は“死人石デッドロック”っつう鉱石が山ほど採れたんでさぁ」


 案内役のラシードが、肩をすくめる。


「が、ある日どどーんと崩落してからは、

 化け物どもが住みついちまった。

 今じゃ“死人石”じゃなく“死人出る鉱山”ですぜ」


「笑えねぇ冗談だな」


 セルグレンが低く口を挟む。


「中の構造は?」


「入口から少し行くと三差路。

 右は崩落して行き止まり、左は水が溜まってて今は使われてねえはず。

 真ん中の本坑道が、お目当ての鉱脈への道でさぁ」


「“はず”ってのが不安だな」


 リゲロが苦笑する。

 その横で、ふわり、と冷たい風がジージーの首筋を撫でた。


「……中の“気配”、だいぶ荒れてきてる」


 ミナの声だ。

 彼女は他の誰にも見えない。


「前にいた魔物たちだけじゃない。

 “何か”が増えてる。形のない悪意が、鉱石にしみこんでるみたい」


「死人石が、魔力まで吸ってるってことか」


 セルグレンが短くまとめる。

 ジージーは息を飲んだ。


(戦いだけじゃない。

 ここは“採掘場”でもある……)


「目的は二つだ」


 セルグレンが皆を見回した。


「一つ、死人石を少量サンプル採取。

 もう一つ、安全なルートの調査。深入りはしない」


「了解。

 でも、どうせだったら“それなり”に稼ぎたいよなぁ」


「リゲロ、欲張らない。

 まずは生きて帰る」


「はいはい」


 ラシードが手を挙げた。


「あっしは中では戦力外でさぁ。

 代わりに外で待って、戻ってきたら買い取り交渉、一番いいとこまで頑張りやす」


「逃げない?」


「逃げませんとも。

 もし逃げたら、“レーヌ湖畔勇気共有補給部隊”に顔向けできやせん」


 マリーヌたちの、あの大げさなチーム名を思い出し、ジージーは思わず吹き出した。


「……分かった。行ってくる」


 薄暗い坑道の口へ、一歩足を踏み出す。


 灼熱の陽光が背中から遠ざかり、代わりに岩と冷気の匂いが、肺へと流れ込んできた。


 旧鉱山ダンジョン探索が、始まった。


―――――――――――――


◆2 三差路と、最初の罠


 足元を、ジージーの「静歩」がすべるように進んでいく。


 古いレール。

 ひび割れた枕木。

 壁にはランプの跡が残り、ところどころ、黒ずんだ鉱脈が筋のように走っていた。


「……音、ないね」


 ささやくようにジージーがつぶやく。

 いつもなら、小型のコウモリや小動物の気配があるはずだが、それすら感じない。


「この静けさが、逆に嫌だな」


 リゲロは肩の力を抜いたまま、指先だけはいつでも動けるようにゆらゆらさせている。


「ミナ、何か感じる?」


「……先の方に、三つ。

 魔物の気配と、罠と……あと、“骨”」


 “骨”という単語に、ジージーは思わず身震いした。


「骨って、生き物の……?」


「ううん、“動きたがってる骨”。

 でもまだ、形になってない」


(形になってない骨ってなに……?)


 そんなことを考えている間に、道が開けた。


 三差路。

 言われた通り、右はほとんど崩落している。

 左は湿った空気が流れ込み、水の滴る音がする。

 正面は、黒い闇がただ口を開けているだけ。


「まずは真ん中だな」


 セルグレンが慎重に一歩前へ出る。


 その瞬間だった。


 パキン、と嫌な音がした。


「下がれジージー!」


 セルグレンが盾でジージーを押し返したと同時に、

 天井から、石が雨のように降ってきた。


 ガラガラガラッ!!


「うわっ!?」


 リゲロが飛び退き、ジージーも短杖を支えに後ろへ跳ぶ。


 数秒後。

 埃が薄く晴れると、目の前の床には、砕けた岩石の山ができていた。


「……天井落とし罠か」


 セルグレンの盾には、大きな傷が刻まれている。


「セルグレンさんっ!」


「かすり傷だ。問題ない」


 そう言いつつ、少しだけ額に汗が浮かんでいた。


「やっぱり罠、残ってたんだね」


 ミナがこくりと頷く。


「形だけ古くしてあるから、油断するように仕掛けられてる。

 たぶん魔物じゃなくて、“誰か”が管理してる罠」


「誰かって……人間?」


「もしくは、魔族か、魔術師か。

 でも今はまだ分からないわ」


 セルグレンが、崩れた石を慎重に踏み越えながら言う。


「……いきなり致命傷を狙ってくる罠だ。

 ここから先は、“今までの迷宮”より一段厳しいと思え」


「了解」


 ジージーは短く答えた。


(ここでは、非致死戦術とか言ってる場合じゃない。

 でも、それでも“止める”って戦い方は、忘れたくない)


 胸の奥に火種のような決意をしまい込み、

 三人と一体は、さらに坑道の奥へと進んでいった。


―――――――――――――


◆3 死人石と、気持ち悪い沈黙


 やがて、壁の色が変わり始めた。


 暗い青とも緑ともつかない光沢を持った鉱脈が、ところどころに浮かび上がっている。


「これが……死人石?」


 ジージーが指先で、そっと触れる。

 ひやりと冷たく、少しザラザラした感触。


 ミナが近づいてきて、目を細めた。


「うん。

 この石、魔力を“飲み込む”性質があるみたい。

 だから、周りの魔物たちの気配が妙に薄いんだ」


「吸われちまってるってことか」


 リゲロが小さく舌を鳴らす。


「魔法ぶっ放しても、あんまり効かないってことだよな。厄介だぜ」


「逆に言えば、これを持ち帰れば……」


 セルグレンが一つの鉱石を、慎重に短剣で削り取る。

 拳大の塊になったそれを、布に包んで袋へ。


「魔術師たちは、喜ぶだろうな。

 防御用の結界や、封印具の材料に使えるはずだ」


「レーヌ湖畔補給部隊も喜ぶかも」


 ジージーが思わず笑うと、ミナも少しだけ口元を緩めた。


「……でも、あんまり欲張って掘らない方がいいよ」


「どうして?」


「この石、飲み込んだ魔力を、いつか“吐き出す”から」


 ミナの声が、ささやきから、少しだけ低くなる。


「今は静かに眠ってるだけ。

 でも、どこかの誰かが、強い魔法で無理やり起こしたら……」


「……爆発するってことか?」


「ううん、“何か”になる。形は見えない。

 けど、この石の奥に、ずっと“歯ぎしり”みたいな音が響いてる」


 ジージーは無意識に肩をすくめた。


(この世界には、“目に見えない怖さ”が、まだたくさんあるんだ)


「必要な分だけ。

 それ以上は、触らない」


 セルグレンの声に、二人はこくりと頷いた。


 その時だった。


 坑道の先から、かすかな足音が聞こえた。


――カツ、カツ、カツ……


 人ではない。

 革靴でもない。

 むき出しの骨のような、乾いた音。


「……来る」


 ミナの声が、ぴんと張りつめる。


「前衛、構え!」


 セルグレンが盾を上げると同時に、

 闇の中から、それは姿を現した。


―――――――――――――


◆4 骨の行進


「スケルトン……!」


 人間の形。

 ただし、皮も肉もなく、白い骨だけ。

 手には錆びた鉱山用のツルハシと、折れかけのピッケル。


 それが二体。

 カツ、カツ、とぎこちない足取りで近づいてくる。


「ここの元・鉱夫ってわけかよ。

 死んでも働かされるとか、冗談キツいぜ」


 リゲロが眉をしかめる。


「ジージー、いけるか?」


「……うん」


 ジージーは短杖を構えた。


 魔力を込めるのは、半分だけ。

 まずは“止める”。


「来た!」


 スケルトンの一体が、ツルハシを振りかぶる。


 その動きは、鈍く見えて、意外と重い。

 骨が鳴るたび、死人石の鉱脈が、かすかに不気味な音を立てた。


「《静歩》……!」


 ジージーは床を滑るように前へ出る。


 ガンッ!


 短杖の腹でツルハシの柄を打ち上げる。

 刃の軌道が逸れ、岩壁に突き立った。


「――っと」


 反動でバランスを崩したスケルトンの腰骨を、

 杖の石突きで横から払う。


 パキィン!


 腰骨が弾け飛び、上半身と下半身がバラバラに。


 倒れ込んだ上半身が、なおも腕だけで這い寄ろうとしてくるが――

 セルグレンの盾が、静かにそれを押し倒した。


「……成仏してくれ」


 重みをかけて、背骨を砕き、その動きを止める。


「一体目、クリア!」


 リゲロは二体目へと走った。


 細かい骨を狙うのではなく、

 関節だけを、正確に。


 カンッ、カンッ、カンッ!


 足首、膝、股関節。

 立つために必要な部分だけを切り離す。


 スケルトンは、まるで糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。


「ふぅ……こんなもんか」


「早かったね」


 ジージーが息をつく。


 その時――


 足元で、ジャリ……と音がした。


「え?」


 さっき砕いたはずの骨片が、

 まるで磁石に引かれる砂鉄のように、じわじわと集まり始めていた。


「ミナ……!」


「分かってる。止める……!」


 ミナが手を伸ばす。

 淡い霊の光が、骨の上に覆いかぶさる。


 しかし――


 ジャリ、ジャリ、ジャリ……


 骨は止まらない。

 むしろ、ミナの冷気を“餌”にするように、集まる速度を増していく。


「だめ……!

 この骨たち、“呼ばれてる”!」


「呼ばれてる?」


「“下”から。もっと深いところから。

 “起きろ、起きろ”って……!」


 声が震える。

 ジージーの背筋に、冷たい汗が流れた。


 集まった骨が、ひとつの山を作る。

 その中心――死人石の小片が、青白く脈打った。


「ジージー、下がれ!」


 セルグレンが叫ぶ。


 だが、その瞬間だった。


 ミナの胸の奥から、何かが“はじけた”。


―――――――――――――


◆5 ミナの「仲間を呼ぶ」Lv2


 耳鳴りがした。


 風でもない、水でもない。

 “たくさんの声”が、一斉にささやき始める。


(――呼ぶ?

 私を?

 それとも、私が?)


 ミナは、無意識に両手を広げた。


「……やめなさい」


 ささやきに、別の声で重ねる。

 それは、ジージーと一緒に旅をしてきた時間が、生んだ“意志”の声だった。


「“引きずり込むため”に呼ぶのは、やめなさい。

 ――“守るため”に呼びなさい」


 死人石の光が、一瞬だけ弱まる。


 骨の山が、動きを止めた。


 ジージーは思わず息を呑む。


「ミナ……?」


「ジージー。

 ……ちょっと、怖いけど……やってみる」


 ミナの体が、淡い光を増した。


「スキル――《仲間を呼ぶ》、レベル……2」


 ささやきが収束していく。

 墓場のような静けさの中で、ただ一つ、はっきりとした呼び声だけが響いた。


『――来て。

 “守る方”に、来て』


 ジャリ……ジャリ、ジャリ……


 骨の山が、形を変え始める。


 無秩序だった骨片が、ゆっくりと、

 “一体分の人型”へと組み上がっていく。


 脛、膝、太もも、腰骨、背骨。

 肋骨が胸を形作り、片腕、もう片腕。

 最後に、頭蓋骨が、カチリと乗った。


 空洞の目の奥に、青白い“火”が灯る。


「スケルトン……?」


 セルグレンが身構える。


 だが、その骨の戦士は、彼らに向かって武器を構えることはしなかった。


 代わりに。


 ギギ……と軋みながら、

 ゆっくりと膝をつき、ミナの方へ頭を垂れた。


「……従う、ってこと?」


 リゲロが目を丸くする。


 ミナは少しだけ震えながら、近づいた。


「あなた……“向こう側”から呼ばれてた。

 でも、嫌だったんでしょう?

 だから、こっちに来てくれる?」


 スケルトンは、かすかに頷くように、頭骨を上下に動かした。


 ジージーの胸に、奇妙な感情が浮かぶ。


(怖い。

 でも、どこか、哀しい)


 ミナがこちらを振り返る。


「ジージー。

 この子、きっと昔ここで働いてた人。

 “まだ守りたいものがあって、眠れない”みたい」


 ジージーは短杖を少し下げた。


「……なら、一緒に守ってもらおうよ。

 私たちの背中と、ここを」


「うん」


 ミナの手が、骨の戦士の肩にそっと触れる。

 青い火が、少しだけ強くなった。


「じゃあ今日から――

 スケルトン兵“ボーン”…いや、名前つけた方がいい?」


「そういうのは帰ってから考えようぜ」


 リゲロが苦笑する。


「今はまず、こいつが味方だってことを信じられるかどうか、だ」


 セルグレンは、じっとスケルトンを見つめた。

 そして、ゆっくりと頷く。


「……目がいい」


「目?」


「死人に目はない。だが、“光”はある。

 こいつの光は、“狂ってない”。

 ミナの意志を映している光だ」


 ジージーは、安堵の息を吐いた。


「じゃあ――」


 ジージーは、骨の戦士に向かって手を伸ばす。


「よろしく。

 私たちを、守る方で」


 スケルトンは、ぎこちない動きで、

 その手を……撫でるように軽く触れた。


 ひやりと冷たく、少しザラザラした感触。

 でも、そこには確かに、“敵意のない温度”があった。


―――――――――――――


◆6 死人石の間と、骨が目覚める音


「スケルトン一体、召喚……というより“再配置”か」


 セルグレンがぼそりと呟く。


「ミナのスキル、がっつりランクアップしたな。

 索敵だけじゃなく、前衛補強にもなる」


「でもね」


 ミナは、少しだけ曇った表情をした。


「この子たちは、“私の魔力”だけで動いてるわけじゃないの。

 この場所の“残り物の力”も、半分借りてる」


「つまり?」


「長くは持たない。

 ここを離れれば、いずれ“眠る”」


 ジージーは瞬きをした。


(永続じゃないんだ……

 でも、それってむしろ――)


「なら、なおさら今は頼らせてもらおうか」


 セルグレンが、静かに言った。


「こいつが眠る時は、“守りたいものを守り終えた時”だ。

 それまでは、一緒に戦ってもらう」


「うん」


 スケルトンが、ぎしりと立ち上がる。

 さっきまで敵だったツルハシを、今度は“味方の武器”として握り直して。


「よし、それじゃ先に進もう」


 リゲロが先を促す。


 ボーン……とまだ呼び名のない骨の戦士を連れ、

 四人と一体+一体は、さらに奥へ。


 やがて、坑道が大きな空洞へと開けた。


 天井は高く、黒い柱が幾本も立っている。

 壁一面に、死人石の鉱脈が走り、不気味な青緑の光を放っていた。


「ここが……採掘の中心だった場所か」


 セルグレンの声が、低く沈む。


 床には、使い捨てられたツルハシ。

 潰れたヘルメット。

 そして――無数の骨。


「……」


 ジージーは、無意識にミナの方へ近づいた。


「ミナ、大丈夫?」


「……うん。

 ただ、すこし……胸がぎゅってなる」


 ミナの周りを、静かに風が渦巻く。


 床の骨たちが、一斉にカタカタと震えた。


「おっと、ちょっと待った」


 リゲロが短剣を構える。


「一斉に起き上がられたら、さすがに洒落になんねぇぞ」


「大丈夫」


 ミナはゆっくり首を振る。


「呼ばない。

 この子たちは、もう十分働いたから」


 彼女は、空洞の中央に歩み出た。


「……お疲れさま」


 小さく、ただそれだけを口にした。


 死人石の光が、わずかに揺れる。


 骨たちのカタカタという震えが、

 やがて収まっていった。


「眠っていいよ。

 代わりに、今は私たちが歩くから」


 ジージーは、その様子を黙って見守った。


(ミナは“死んだ人たち”と、ちゃんと話してるんだ)


 それは、ジージーがどれだけ棍術や魔力を鍛えても

 真似できない領域だ。


「よし」


 セルグレンが、空洞の一角に目を向けた。


「死人石、濃いな。

 ここから少量だけもらっていく」


「ボーン……」


 名も無き骨の戦士が、静かに側に立つ。

 ツルハシを振りかぶり、丁寧に、鉱脈の側面を削り始めた。


 カン、カン、カン……。


 その音は、どこか“仕事”の音に近かった。


「器用だな」


 リゲロが感心する。


「きっと、生きてた頃も、ここで働いてたんでしょうね」


 ミナがふっと笑う。


「“最後の一仕事”って感じ」


 十分ほどかけて、

 拳大の死人石をいくつか採取することができた。


「これ以上は欲張らない」


 セルグレンが採れた石をすべて布に包み、袋へしまう。


「ジージー、例の鞄に……」


「了解」


 ジージーは、不思議な共有鞄を開け、

 包みごと死人石を中へ入れた。


(今頃、レーヌ湖畔補給部隊の鞄にも、

 同じ包みが“ぽんっ”て出てるのかな)


 その想像に、自然と笑みがこぼれる。


「よし、引き返すぞ。

 これ以上長居すると、別のお客様が来る」


 セルグレンの合図で、四人と一体+骨兵は踵を返した。


 帰り道。

 不思議なことに、往路で感じた“重い悪意”は、少しだけ薄まっているように感じられた。


 たぶん気のせいだ。

 でも。


(“誰かの仕事を引き継ぐ”って、

 こういう感じなのかもしれない)


 ジージーは杖を軽く回した。


―――――――――――――


◆7 別れと、レベルの話


 坑道の入口が見えてきた頃。


 ふと、背後でカタン、と乾いた音がした。


「……!」


 振り返ると、骨の戦士が立ち止まっていた。


 青白い火が、少し弱くなっている。


「ここまで、ってことか」


 セルグレンが静かに言う。


 ミナが近づく。


「無理させちゃった?」


 スケルトンは首を横に振る。

 ギギ、と、ぎこちない動きで。


 そして――

 ジージー達の背中を、ゆっくりと指差した。


 まるで、

 “もう大丈夫だ”とでも言うように。


「……そっか」


 ジージーは短杖を抱えたまま、頭を下げた。


「ありがと。

 あなたのおかげで、助かったよ」


 リゲロも指先をひらひらと振る。


「またどっかで会ったら、その時も頼むぜ」


 セルグレンは敬礼のように右手を額へ当てた。


「安らかに眠れ。

 次は、仕事じゃない場所で会おう」


 ミナは、最後にそっと抱きしめるような仕草をした。

 霊体の腕が骨を通り抜け、青い火が静かに揺れる。


 そして、骨の戦士は――

 すうっと光の粒にほどけていった。


 床には、きれいに組み上がったままの骨だけが残り、

 やがてそれも、ゆっくりと砂のように崩れていく。


「……ミナ」


「うん」


 ミナは目を閉じた。


「《仲間を呼ぶ》スキル、レベル2。

 たぶんこれから、ああいう“形”を取ることが増える」


「骨だけじゃないの?」


「分からない。

 でも、今回みたいに、“こっちに来たがってる誰か”の手を取る形になると思う」


 ジージーは頷いた。


「その時は、また一緒に考えよう。

 誰を呼ぶか、どう呼ぶか」


「うん。

 “使い捨ての駒”には、絶対しない」


 ミナの声は、小さいけれど、芯が通っていた。


「それが、私とジージーたちの“戦い方”だから」


―――――――――――――


◆8 砂の街へ、そして鞄の向こう


 坑道を出ると、

 夕方の陽が、砂色の街をオレンジに染めていた。


「おー!生きて戻ってきやしたね!」


 ラシードが、両手を広げて迎える。


「死人石、少量だけだが、取ってきた」


「へいへい、拝見……っと」


 布をめくったラシードの目が、まん丸になる。


「こりゃまた見事な結晶じゃねぇですか!

 これだけでも、王都の魔術師どもが小躍りしますぜ」


「売るのは一部だけ。

 残りは、“向こう”で使う」


「向こう?」


 ラシードが首をかしげたが、

 ジージーたちは、ただ意味ありげに微笑むだけだった。


 少し離れた岩陰で、ジージーは共有鞄を開いた。


 中を探ると、紙の感触が指先に触れる。


「あ、手紙……!」


 封を開けると、見慣れた丸っこい文字が飛び込んできた。


『ジージーお姉ちゃんへ!

 こっちは三人でポーションづくりの練習をしてるよ!

 あと、湖のお魚を干したり、瓶詰めにしたりしてるの!

 今度そっちにも送ってみるね!!(ルーシー)』


『砂の国にも、ちゃんとご飯ある?

 お肉ばっかりじゃなくて、野菜も食べてね!(テドラ)』


『“レーヌ湖畔 勇気共有補給部隊”は、

 あなた達がどこにいても、ぜったい支えますわ!!(マリーヌ)』


 ジージーの頬が、自然とゆるむ。


「……ふふっ」


「なんて?」


 リゲロが覗き込もうとして、セルグレンに止められる。


「女の子の手紙を覗くな」


「ケチ」


 ミナがジージーの肩のそばでくすくす笑う。


「こっちも、ちゃんと生きてるって送ろうよ」


「そうだね」


 ジージーは、鞄の中から小さな紙片と炭筆を取り出した。


『こっちは砂だらけのところ。

 でも、いいガイドさんもいるし、ミナの力も強くなった。

 死人石っていう、不思議な石も見つけたよ。

 ポーション、楽しみにしてる。

 そっちも、ちゃんとご飯食べて、夜更かししないこと。(ジージー)』


「よし」


 紙を畳み、死人石の小さな欠片ひとかけらと一緒に、

 共有鞄の奥へと滑り込ませる。


(遠くても、繋がってる)


 砂の国の風が吹き抜ける中で、

 レーヌ湖畔の水面のきらめきが、

 ふと脳裏に浮かんだ。


「さーてと!」


 ラシードが両手を擦り合わせる。


「今日は“死人石お披露目”で、

 シワジ・イルモザの店って店を値切り尽くす日でさぁ!」


「ディスカウント回って奴か」


 リゲロが苦笑する。


「ジージー、行くぞ。

 こっちでしか買えないもん、山ほどあるらしい」


「うん!」


 ミナが嬉しそうに跳ねる。


「新しい壺とか、瓶とか、道具とか、

 ポーションづくりにも役立つもの、探そうね」


「レーヌ商会(仮)の未来のためにもな」


 セルグレンの冗談に、ジージーは声を立てて笑った。


 砂と交易の街。

 死人石の迷宮。

 骨が目覚め、また眠る場所。


 その全てが、

 これから先の旅路に繋がっている――そんな気がした。

旧鉱山ダンジョン編でした。


◆今回のポイント

・死人石(魔力吸収型の特殊鉱石)の初登場

・罠付き鉱山ダンジョン → “誰かが管理している”匂い

・ミナの《仲間を呼ぶ》がLv2に進化

 → 一時的なスケルトン仲間(でも駒扱いはしない)

・“最後の一仕事”を終えて眠る骨兵

・共有鞄での死人石サンプル送付&手紙のやり取り


次回は――

シワジ・イルモザでのディスカウント街歩き回+買い付け、

そしてその先の海や峡谷ルートへの布石に入っていきましょう

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