西大陸編 第1話】 『ここはどこだ? ― そしてカバンに託す声』
魔女ミルヴィアの転移魔法に巻き込まれ、
ジージー、セルグレン、リゲロ、ミナの“3人+幽霊”は見知らぬ大地へ放り出された。
ここはどこなのか。
ガレスはどこへ連れ去られたのか。
そして——この大陸では、“ヒトと魔族の関係”が、湖畔公国とはまるで違っていて……。
未知の西方大陸での、最初の一日。
では本編です。
◆1 嵐の後の静けさ
――砂。
――潮の匂い。
――風が刺すように冷たい。
「……ここ、どこだ?」
ジージーは砂浜に両手を突き、ゆっくりと体を起こした。
すぐ横にはセルグレンが意識を戻しながら起き上がり、
少し離れてリゲロが砂を吐き出していた。
「おぇっ……しょっぱ……っ! なんだこれ、海か……?」
「いや……川じゃないな。潮の匂いが濃い」
セルグレンの声は冷静だが、目はまだ状況を捉えきれていない。
ふわりと、頭上にかすかな光――
「……みんな、無事ね。よかった」
「ミナ!」
幽霊の少女ミナが、砂浜の上でふよふよと浮かんでいる。
透き通る姿でも、その表情には安堵がはっきり見えた。
「ごめん……完全に防げなかった。あの魔女の魔法、強すぎ……」
「仕方ない。あれは、誰がどう抗っても止まらなかったさ」
セルグレンが短く言い切る。
その言葉にミナは小さく息を吸い、こくりと頷いた。
(ガレスたちは……?)
ジージーは立ち上がった瞬間、胸の奥に鋭い不安が走った。
仲間が足りない。
「あの瞬間、確かにガレスは俺たちのすぐ近くにいた……」
「だが姿が見えねぇな。
あっちの魔女が、別々に吹き飛ばしたか……」
リゲロが遠くの海を睨む。
波音が大きくなるほど、不安も膨らんでいった。
◆2 名も知らぬ大陸
周りを見渡すと、荒れ果てた海岸線。
背後には風に削られた岩山が連なる。
森らしい森も見えず、村らしき建物すらない。
ただ――
「……船だ」
ジージーが指差した先。
小さな木造船が一隻、浜に打ち上げられている。
帆は破れ、船底にはヒビ。
「もしかしたら、生存者が……」
「いたとしても危険だ。警戒して近づくぞ」
セルグレンを先頭に、三人と一体は歩み寄る。
船影に近づくと――
甲板の影で、人影がぐったりと倒れていた。
「生きてる! リゲロ、脈!」
「……ある! だいぶ弱ってるけどな」
青年のようだ。
短い黒髪、日焼けした肌。
衣装は見慣れない、海風の匂いが染みついた服。
「お、水……」
かすれた声。
ジージーは水筒を口元へ。
「少しずつ飲め。焦るな」
青年は数口飲むと、息を整え、はっきりと目を開いた。
「……ここは、サイ=ラハじゃ……?
君ら……どこから来た?」
(サイ=ラハ? 聞いたことない国名……)
セルグレンもリゲロも首を振る。
「西の……大陸だよ、ここは……
灰港シャルナまで……遠い……」
「西……の……?」
ジージーの心臓が一瞬止まったように感じた。
湖畔公国から見て――
宙海連邦よりさらに、西。
海を越えた先の、未知の土地。
(……飛ばされたんだ。とんでもなく遠くへ)
青年は苦痛の表情で続ける。
「魔物が……増えて……
海路も閉ざされ始めた……
みんな……逃げて……」
そこで力尽きて、再び眠りに落ちた。
「ジージー。治療は後に回すぞ。
まずは水と安全な寝床だ」
「わかってる」
三人は、青年を船の影へ運び、
応急処置と火起こしに取りかかった。
◆3 手紙を…出すんだ
陽が傾き、薄紫の空が広がる。
ようやく一息つけた頃、
「ジージー、今のうちに……」
ミナが、ひとつの提案を囁いた。
「カバンのこと。
あの子たちに、知らせなきゃ」
「……だよな。きっと心配してる」
背負っていた “共有収納鞄” を抱え、
深く息を吸う。
(届いてくれ。
無事だってこと。
まだ帰れるってこと)
ジージーは短く書いた。
――
マリーヌさん
テドラ
ルーシーへ
突然でごめんなさい。
今、僕たちは知らない西の大陸にいます。
けど全員生きてます。ミナも一緒です。
ガレスさんも近くにいるはずだから、必ず見つけます。
だから、どうか心配しすぎないでください。
今は、みんなが街を支えてくれたら助かります。
これが届くか、試したかったんだ。
また書きます。
ジージー
――
結びを軽く押し、
手紙をそっと鞄へ滑り込ませる。
次の瞬間――
ふっと、紙が掻き消えた。
「……届いた、のか?」
「きっと」
ミナが小さく笑った。
安心が少しだけ胸に落ちた。
◆4 遠い場所で
――同じ夜。
レーヌ湖畔公国、領主館の一室。
分厚いカバンが不意に揺れた。
「ん? どうしたの、これ……?」
ルーシーが蓋を開けると、
「て、手紙!!」
小さな紙束がぽとりと落ちる。
「えっ……? これって……!」
テドラが駆け寄る。
マリーヌが息を呑みながら広げた。
読み進めるたび――
三人の目に涙がにじむ。
「みんな……生きてる……無事……!」
マリーヌはぎゅっと目を閉じ、深呼吸した。
「――なら。
私たちにできることを、胸を張ってやるだけですわ」
「うん!!」
「任せて!!」
涙はすぐに笑顔へ変わった。
夜の窓の外、湖に灯りが揺れる。
その光はまるで――
遠く離れた海の上にいるジージーたちへ向けて
送られる灯台のようだった。
◆5 夜風の約束
砂浜。
焚き火がぱちぱちと弾け、
星々が冷たく光る。
「……知らない土地。
海の向こう。
ガレスはどこかにいる。
魔王軍も近い」
ジージーは短杖を横に置き、拳を握る。
「でも、俺たちは――
ここで終わるわけにはいかない」
「そうだな」
「死ぬにはまだ早ぇし、な」
セルグレンとリゲロが、当たり前のように笑った。
風が、少しだけ暖かく感じた。
「さあ、休め。明日から本格的に動くぞ」
「了解!」
ミナの声が静かに響く。
「……カバンは、ちゃんと繋がってた。
だから、大丈夫。
私たちは、ちゃんと帰れる」
「うん。絶対に帰る」
夜が静かに更けていく。
――遠く離れていても、
繋がっている。
それはまだ小さな絆だけれど、
これから先の長い旅を支える
確かな灯火だった。
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後書き(読者向け)
•魔女の転移魔法 → 大陸跨ぎの強制放逐
•共有収納鞄=“心の帰れる場所”
•新章開始の不安と期待のブレンド回
でした。
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次は:
■西大陸編 第2話
『最果ての漁村サイ=ラハと、見えない前線』




