北風の痕跡 ― 夜営の焚き火
馬車が停まり、
御者台から声が飛んだ。
「ここらで火を起こす!
前の隊列と合流するまで、森の外れで張るぞ!」
セルグレンが荷台から飛び降りた。
「よし、俺たちは焚き木を頼まれた。
ジージー、リゲロ、周囲の警戒も忘れるな」
「了解」
「へいへい」
ジージーは周囲を見渡す。
鬱蒼とした針葉樹の森。
暗くなるのが早い。
(……なんか、静かすぎる)
ミナがジージーの肩に寄り添うように浮いた。
「小さな魔物の気配はあるけど……
森が、息を潜めてるみたい」
(魔物すら、何かから隠れてる……?)
背筋が冷える。
⸻
◆焚き火を囲んで
火が上がり、簡易の鍋が吊られた。
それぞれが乾いた旅糧を口に運びながら、
静かに夜が降りてくる。
ノーラが恐る恐る声を上げた。
「あ、あの……
先に出ていたガレスさんたち、まだ戻ってこないんですね」
エルナが腕を組む。
「予定じゃ、もう戻っているはずだった。
間に遅れた連絡……嫌な感じね」
ドナートが拳を握る。
「ま、まさか……」
セルグレンは冷静な声で遮った。
「決めつけるな。
夜間の索敵や負傷者の搬送に時間がかかることもある」
だが、緊張を隠す声色だった。
リゲロが煙を吐きながら小声で。
「いやな夜だ……
ひっかかることばかりだぜ」
ジージーは火を見つめる。
(ガレスたち……
無事でいてくれよ)
そのとき。
ミナがピクリと震えた。
「っ……!」
ジージー
「ミナ?どうした?」
ミナ
「……血の匂い。
それも“人間の”。
近い……!」
セルグレン
「全員、武器を構えろ!」
焚き火の明かりの外——
黒い影が、ゆらりと現れた。
布が破れ、血で濡れ、
肩で息をする男。
──ユルクだった。
「た、助け……て……っ!」
ジージーが駆け寄る。
「ユルク!何があった!?」
「前衛……っ、壊滅……
ガレスさんが……っ
“連れていかれ”……た……!」
血の泡が口から溢れる。
セルグレン
「落ち着け。誰が相手だ」
ユルク
「黒い鎧……
見たことのない、魔族……
“剣を、奪われる怖さ”……はじめて……」
リゲロ
「ちっ……!」
エルナの拳が震える。
「ガレス……やられた……?」
ノーラは蒼白になりながら
ユルクの傷に回復魔法を当て続ける。
「あ、あの……!
誰か、神官を呼んできてくださいっ!!」
ミナが囁く。
「……まずい。
本当に“来てる”」
ジージー
「何が?」
ミナ
「魔王軍の本格的な尖兵。
“戦争の足音”」
ジージーの手が汗ばむ。
(きたのか……
本当に……)
ユルクが震えながら囁いた。
「逃げろ……
あいつら、“転移魔法”で……
離した仲間を、一人ずつ……」
そこで糸が切れたように
ユルクは気を失った。
ノーラ
「だ、誰か!手当てを!」
セルグレン
「リゲロ、護衛を呼んで来い!」
リゲロ
「わかった!」
ジージーが短杖を握り直す。
(ガレスたち……
まだ戦ってる)
ミナの声は震えていた。
「ジージー……
“こっち”に向かってきてる……」
胸の奥が、怒りで熱くなる。
「――止める」
セルグレンが横に立つ。
「生き残れ。
それが、俺たちの戦い方だ」
リゲロが戻って叫ぶ。
「来るぞ!!
全員、構えろ!!」
焚き火の向こう
暗闇が裂ける。
その目は、赤く光る。
魔王軍の影が
初めてはっきりと現れた瞬間だった。
⸻
【次回予告】
『囚われのBランク ― 魔族の転移陣』
・魔族との初戦闘
・ガレス救出へ向けて
・転移魔法発動のカウントダウン




