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Staff Hero ― 支える勇者 ―  作者: 和泉發仙


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(後編) 「テドラとミーロを追って ― 北への影道(かげみち) ―」

【前書き】


偽荷馬車ダミーを突破したジージーたちは、

“本物を運ぶルート”をミナの力で突き止めた。


北へ――

それは、連行された者が二度と帰らない道と噂される境界地帯。


テドラとミーロを取り戻すため、

三人と一体は闇の密林へと踏み込んでいく。


では、本編へ。


***

◆1◆ 北への影道


 夜の森は、昼とはまるで別の姿を見せていた。


 満月の光が木々の合間から細く差し込み、

 霧のような冷気が足元を這う。


「ここよ」


 ミナが前へ浮かびながら指をさす。

 そこには、人一人がようやく通れるほどの細い道が、木の根のあいだから覗いていた。


「さっきの荷馬車の轍……途中で消えてたのは、

 “こういう道”があるから」


 ジージーは驚きに目を見開く。


「こんな狭い道、馬車なんて通れないんじゃ……?」


「だから“影道”なのよ。

 荷を降ろして、担いで歩くの。

 木の根は……ほら、少し切られて動かされてるわ」


 セルがしゃがみ込み、根元を触る。


「……なるほどな。

 何度も使われてきた道だ。枝を戻して隠しているが、切り口は新しい」


 リゲロが鼻をひくつかせる。


「……人と獣人の匂いが混じってる。

 やっぱり“獣人傭兵ビーストマーセナリー”が動いてやがる」


 ジージーの喉がごくりと鳴る。


「獣人の、傭兵……?」


「金さえ払えば、子どもでも平気で担いでいく連中だ」

 セルの声が低くなる。


「だからこそ、北方奴隷競売ルートは厄介なんだ。

 “人攫い専門”の連中がいるわけじゃない。

 仕事として引き受ける傭兵が、いる」


 ミナは森の奥を見つめ、はっきりと言った。


「でも、まだ間に合う。

 テドラもミーロも、まだ“動いてる空気”を残してる」


 ジージーは深く頷いた。


(絶対に追いつく。絶対に、連れ戻す)


 三人と一体は、影道の奥へと駆けていった。


 


◆2◆ 沈黙の野営地


 どれくらい走っただろうか。

 やがて、木々の向こうに焚き火の赤い光が揺れ始めた。


 セルが手を挙げ、静かに合図を送る。


「止まれ。……敵の気配がある」


 耳を澄ますと、かすかな笑い声と、酒瓶のこすれる音。

 眠気と油断の混ざった空気だ。


 ミナが目を閉じ、数瞬ののちに口を開いた。


「五人。

 火のそばに二人。荷馬車の近くに三人。

 そのうち二人は獣人ね」


 リゲロが剣を握る。


「数は悪くねぇ。奇襲で潰しゃいける」


 だが、セルは首を振った。


「子どもが馬車の中にいる以上、無茶はできん。

 “音を立てずに落とす”。ジージー、お前の出番だ」


「えっ、あたし!?」


「お前の“静音足ステップ”なら、気づかれずに横を取れる。

 俺とリゲロが前から注意を引く。その間に馬車へ」


 心臓が、ドクン、と強く打つ。


 怖い。

 けれど、それ以上に――テドラとミーロの泣きそうな顔が脳裏に浮かんだ。


「……やります」


 ジージーの答えに、セルは口元だけで笑った。


「よし、行くぞ」


 


◆3◆ 奇襲


 セルが堂々と焚き火の前に姿を現した瞬間――


「だ、誰だテメェ!」


「おう、ちょうどいい。

 道に迷ったんだ、食い物でも恵んでくれや」


 わざとらしく頭をかきながら、セルは火の明かりの中に入っていく。

 その目は、獲物の間合いを正確に測る狩人のそれだ。


「ふざけんな! ここは――」


 怒鳴り声が飛んだ次の瞬間。


 ザッ。


 背後の闇から、リゲロが音もなく走り込み、剣を振る。


「“注意ひき”は任せな!」


 金属音。

 獣人の片腕から剣がはじかれ、手の甲に浅い傷が走る。


「グルアァ!」


 怒りの咆哮。

 焚き火の赤が、戦いの色に変わる。


 その隙に、ジージーは草陰から素早く走り出た。


(見つかるな……音出すな……!)


 地面に足を置くたびに、靴の裏に魔力を流し込む。

 音を吸い込むような、独特の“静けさ”。


 馬車の影に滑り込み、布をそっとめくる。


「……ミーロ!」


「ジージー姉さん……!」


 涙でぐしゃぐしゃの顔。

 隣にはテドラも縛られたまま、小刻みに震えている。


「大丈夫、今助けるから」


 縄をほどき、二人の背中を抱き寄せた瞬間――


 ズドン!!


 焚き火の脇から、巨大な影が飛び出した。


 獣人傭兵。

 筋骨隆々の体躯、ジージーの倍以上の体格。

 目には、金色の光と、冷えた計算。


「子ども……返せよ」


 重い声が落ちてくる。


 ジージーは震える足で身構えた。


(怖い……! でも、後ろには二人がいる……!)


「任せな!」


 リゲロが飛び込む。

 だが相手の膂力は規格外で、剣と剣がぶつかった瞬間、わずかに押し負けた。


「ちっ……!」


「リゲロ、下がれ!」


 セルが横合いから踏み込み、獣人の足を狙って斬り込む。

 獣人は唸りながらも後退し、ジージーたちから距離を取った。


 ミナが高く舞い上がり、叫ぶ。


「ジージー、右! あの木の陰から抜けて!」


「ミーロ、テドラ、手を離さないで!」


 ジージーは二人の手を握りしめ、森の奥へと駆け出した。


 背後では、金属がぶつかる音と、獣人の唸り声が混じり合う。


(セルさん、リゲロさん……絶対死なないで!)


 


◆4◆ 最後の道


 どれくらい走ったか、息が上がり始めたころ。


「姉さん……あっち……!」


 ミーロが弱い声で指差す先。

 森の奥、月明かりに浮かぶ影――一台の荷車。


 新しい轍。

 その横には、黒いマントの男が一人立っていた。


「……まだ“本隊”がいたってことか」


 ミナの声が低くなる。


「今の野営地は、あくまで“途中の渡し”。

 本当に北まで運ぶのは……あいつ」


 男はゆっくりとこちらへ振り返り、わずかに笑った。


「探す手間が省けたな」


 背中には細長い木箱。

 その木箱には、見慣れない刻印――


 北方帝国の紋章。


 ジージーの背筋がぞっと冷えた。


「子どもを渡してもらおうか。

 “我らの北”は、良い素材を求めている」


(北……!

 やっぱり、ここにも黒幕の手が……!)


 そこへ、セルとリゲロが追いついてくる。


「……間に合ったか」


「テドラとミーロは?」


「ここにいる!」


 ジージーが振り返り、二人を守るように一歩前へ出る。


 ミナが、男をじっと睨みつけた。


「こいつ……ただの人間じゃない」


 男の目が、不自然なほど赤く光る。


「……混血魔族ハーフデモンか」


 リゲロが歯噛みする。


「奴隷ルートに魔族まで絡んでるってのかよ……!」


 男は肩をすくめ、口元に微笑を浮かべた。


「君たちを殺す必要はない。

 子どもだけ置いていけ。それで見逃してやる」


 ジージーは、喉の奥から湧き上がる怒りを、そのまま言葉に変えた。


「絶対に渡さない!!」


 杖を構える。

 足は震えているが、それでも一歩前へ。


「テドラとミーロは、この街の“明日”だよ。

 貨物になんて、絶対させない!」


 瞬間――セルとリゲロが同時に斬りかかった。


 


◆5◆ 連携と“小さな覚醒”


 戦いは短くも激しかった。


 ハーフデモンの男は、身体能力こそ人間を超えていたが、

 数と連携で上回る三人と一体に、じわじわと押されていく。


 ミナの霊術が、男の視界を曇らせ、

 セルの剣が足運びを封じ、

 リゲロの一撃が徐々に体力を削る。


「ジージー!」


 セルの声。

 男の体勢が一瞬崩れた。


「今だ、“一歩”踏み込め!」


 ジージーは、テドラとミーロから手を離し、前に飛び出した。


(怖い。怖いけど――逃げない)


 杖に魔力を込める。

 足元から静けさが広がる感覚。

 世界の音が、すっと薄くなった。


「“静音足ステップ一歩ワンビート”!」


 地を蹴る。

 瞬間、ジージーの姿がぶれるように前へ滑った。


「なっ――」


 男の驚きが遅れる。


 ジージーの杖が、男の膝裏を正確に打ち抜いた。

 鈍い音。身体が崩れ、同時にセルとリゲロの剣が両腕を押さえ込む。


「動くな。

 命までは取らないが――二度と、この道を歩けないと思え」


 セルの冷たい声に、男は歯ぎしりをした。


「……っ、くそ……

 北は……必ず、手を伸ばす……」


 ミナが前に出て、男の額に指先を触れる。


「あなたの“ルート”は、ここで一度止まる。

 “影道”も、空気も、一からやり直しね」


 淡い光が、男の意識を深い眠りへと沈めていく。


「殺さないのか?」

 リゲロが尋ねる。


「“どこから来たか”を話してもらわないとね。

 この人は、まだ“情報”って意味で生きてる」


 ミナが淡々と言う。


 ジージーは膝をつき、テドラとミーロをしっかりと抱きしめた。


「もう大丈夫。

 怖かったね……でも、もう終わったよ」


 二人の小さな手が、ジージーの服をぎゅっと掴む。


「うん……帰りたい……」


「ワタリのとこ、帰る……!」


「うん、一緒に帰ろう」


 ジージーの胸の奥で、何か小さなものがカチリと鳴った気がした。


(あたしも、守れる。

 杖一本でも、“誰かの明日”くらいは)


 


◆6◆ 帰還と、北の影


 戦いが終わるころには、東の空がわずかに白み始めていた。


 セルは肩で息をしながらも、ジージーの頭を軽くこづく。


「よくやった。

 あの“静音足”、ちゃんと武器になってるじゃねえか」


「へっ、ガキの頃から度胸だけは一丁前だな!」

 リゲロが笑う。


 ミナは、テドラとミーロの頭上をふわふわ漂いながら、安堵の息を吐いた。


「二人とも無事だった……ほんとに良かった……」


 ジージーは二人の手を握り、立ち上がる。


「帰ろう。ワタリも、みんなも待ってる」


 四人と二人は、森を抜け、街へと戻っていった。


 その背後――密林のずっと奥。

 誰もいない場所で、黒い影が一つ、静かに森の中へ消えていく。


「……北へ“報告”せねばな」


 かすかな声が、朝靄に溶けて消えた。


 



【後書き】


テドラ&ミーロ救出編、前後編でした。


今回のポイントは――

•北方帝国へ続く“子ども拉致ルート(影道)”

•仕事として動く獣人傭兵たち

•背後で糸を引く混血魔族ハーフデモン

•ミナの索敵と、空気を読む力

•そしてジージーの「静音足」の“小さな覚醒”


子どもたちは無事に帰還。

けれど、“北”から伸びる手はまだ完全には断ち切れていない。


次は、街へ戻ってからの「報告」と「招待」。

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