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Staff Hero ― 支える勇者 ―  作者: 和泉發仙


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旅路の章 ― ゴブリン大襲撃編その2 ― 湖畔の防衛戦 ― ゴブリンの大群、来襲

【前書き】


前回:

・ジージー&セルグレン&リゲロ&幽霊ミナ

・ゴブリンの巣の周辺調査依頼

・想像以上のゴブリン数+他パーティと遭遇 → 協力してなんとか離脱

・「これは正面から戦ったら全滅する」と判断し、一度ギルドへ報告に戻る


……その直後から、今回の話が始まります。

レーヌ湖畔公国の小さな城塞都市を舞台にした、**初めての「町の防衛戦」**です。


―――――――――――――――――――

【本編】


 ギルドの扉を押し開けると、中はもうざわついていた。


 ジージーは息を切らしながらカウンターへ駆け寄る。

 背中では、セルグレンとリゲロがまだ泥だらけのブーツのままついてきていた。

 その後ろに、誰にも見えない幽霊――ミナがふわりと浮かんでいる。


「ただいま戻りました! 外周林の調査です!

 ゴブリンの巣の周辺、想定以上の数でした!」


 カウンターの向こうで、受付のアリーナが顔を上げる。

 深い栗色の髪をポニーテールにまとめた彼女の眉が、ぴくりと跳ねた。


「想定以上……って、どれくらい?」


「ざっと見ただけでも百は超えてました。

 巣が一つじゃありません。三つ以上。

 しかも、他の冒険者パーティと交戦状態で……」


 ジージーは一気にまくしたてる。

 アリーナの表情から血の気が引いていくのが、はっきり分かった。


「……分かったわ。詳しい位置と数はあとでいい。

 今は――」


 その時だった。


 ギルドの扉が乱暴に開かれた。


「みんな大変だ!!」


 肩で息をしている男が飛び込んでくる。

 革鎧は破れ、腕から血が流れている。

 ギルドの扉が、勢いよく開いた。


「みんな大変だ!! とんでもねぇ数の魔物がっ!」


 血相を変えた若い冒険者が、カウンター前まで転がり込んでくる。

 服は泥と血で汚れ、肩には浅いが生々しい傷。


 ジージーは思わず振り向いた。


(さっきまで、一緒にゴブリンの巣の近くにいた人だ……!)


 調査依頼を終え、

「数が多すぎる、いったん引こう」と判断して戻ってきた直後だった。


「落ち着け。どこで、どれだけだ」


 低い声がギルドの奥から響く。


 カウンター横の扉から出てきたのは、ギルドマスターのダイアーだ。

 分厚い革鎧の上から羽織ったコートは古びているが、目だけは鋭い。


「北の丘の向こうの谷間っす……!

 さっきの調査部隊が退いたあと、すぐに“増えて”いきやがって……

 もう、黒いじゅうたんみたいに……!」


「じゅうたん、だと……?」


 ダイアーの隣から、副長エーリッヒが顔を出す。

 細身の剣士で、眼鏡の奥の目が不穏に揺れた。


「数は?」


「わ、わかんねぇっす!

 百……いや、二百、三百……それ以上かも……!」


 ギルド内のざわめきが、一瞬で凍りついた。


(百……二百……)


 ジージーは喉がひゅっと鳴るのを感じた。


 さっき見た巣の周辺だけでも、既に“嫌な気配”は十分だった。

 それがさらに膨れあがったというのか。


「……来るな」


 セルグレンが、ぽつりと言う。


「巣の周りにだけ溜まるならまだしも、

 “じゅうたん”になったなら、動き出す。

 食い物を求めてな」


 ギルドの窓の向こう――

 湖畔の町の北側に広がる森が、夕陽に赤く染まりつつある。


「方向は?」


「南です……この町のほうに向かってきてます……!」


「ちっ」


 ダイアーが舌打ちした。


「エーリッヒ。鐘楼に走れ。

 防衛警鐘を“二回”鳴らせ。“門を閉じ、戦時準備”だ」


「了解」


 副長は迷いなく駆け出していく。


 ほどなくして――

 街の高台から、重い鐘の音が鳴り響いた。


 ゴォォン……ゴォォン……。


 人々のどよめきが、すぐに悲鳴と怒号に変わる。



「全員、静かにしろ!」


 ダイアーの一喝が、ギルドのざわめきを切り裂いた。


「今から冒険者ギルドとして“防衛戦”に入る。

 Bランク以上は北門前に集結、CとDは指示があるまでギルド内待機だ!」


「マスター!」


 奥のテーブルから、筋骨たくましい男が立ち上がった。

 背には大きなタワーシールド、腰には長剣。


「俺が前線指揮、預かっていいか?」


「ああ、頼む。

 《鋼盾》ダリオ、前線隊長として任命する」


 ジージーは、その名を聞いたことがあった。


(この町で一番のBランク冒険者……

 実質、ギルドの“戦の矛”って噂の人だ)


「Cランク三組、それからDランク四人組をダリオに預ける。

 外への迎撃部隊はそのメンツを中心に組む」


 エーリッヒが戻ってきて、手早く名簿をめくった。


「Cランク、《風切り(ウィンドカッツ)》、

 《荒鷲ワイルドホーク》、

 《草笛グラスホイッスル》」


 それぞれのテーブルから、冒険者たちが立ち上がる。


 弓を背負った女エルフ、短剣二本を腰に差した軽戦士、

 槍を抱えた獣人戦士、杖を持つ若い魔術師……。


「Dランク、《小鹿のドーンズ》の四人も前線の補助だ。

 補給と負傷者の搬送を任せる」


「はいっ!」


 まだ若い四人組が、少し強張った声で返事をする。


(みんな……怖いはずなのに、ちゃんと動いてる……)


 ジージーの手のひらに、汗が滲んだ。


「マスター」


 セルグレンが前に出る。


「俺たちも出ます」


「お前さんたちは、まだFランク相当だろう?」


「北側の地形は一度見ています。

 さっきの調査で」


 セルグレンは静かに言う。


「どの辺りに谷があり、どこが狭く、どこが開けているか。

 “じゅうたん”を少しでも細い道に押し込めれば、

 数の差を減らせるかもしれない」


 ダイアーの目が細くなる。


「……案内役ってわけか」


「はい。それと――」


 セルグレンは、ジージーの肩を軽く叩いた。


「こいつの“杖”も、そろそろ実戦を知るべきです」


「えっ……?」


 ジージーは思わず声を上げた。


「お前自身が決めたことだろう、ジージー」


 セルグレンは低く続ける。


「“名前のある人間を守りたい”って」


 あの日、帳簿の前で見てしまった、

 数字と名前のあいだの冷たさ。


(……そうだ)


 ミーヤ。

 タリサ。

 グレン。

 リオン。

 あの街で出会った人たち。


(ここでも誰かの名前が、数字の中で消えるかもしれない)


 それを、ただ見ているだけは嫌だった。


「行かせてください、マスター」


 ジージーは一歩前に出た。


「もちろん、指揮をとるわけじゃありません。

 補助でも、端っこのほうでもいい。

 でも……この町の人たちを守る戦いから、逃げたくないんです」


 ダイアーはしばらくじっとジージーを見つめていた。


 やがて、ふっと口端を上げる。


「……目は悪くねぇな」


「え?」


「怖がってる。

 でも、逃げない目をしている」


 ダイアーはセルグレンに向き直った。


「いいだろう。ただし条件がある」


「条件?」


「ダリオの指示には絶対に従うこと。

 勝手な真似をした瞬間、その場で撤退命令を出す」


「了解しました」


「それから――」


 ダイアーは、ジージーの背後をちらりと見た。


 そこには、リゲロが立っている。

 軽装の剣士。

 かつて仲間に毒を盛られ、死にかけていた男。


「お前も行くんだろう? リゲロ」


「……まぁな」


 リゲロは、にやりと笑う。


「借りは返す主義なんでね。

 毒消しの代金、高くつくぜ?」


「生きて帰ってきてから払いに来い」


 ダイアーは笑い、最後にひとこと付け足した。


「俺とエーリッヒは、街の中の方を見ておく。

 子どもと老人の避難、南門の封鎖、連絡の策。

 “戦場に出ないから楽”ってわけじゃねぇさ」


 そう言って、手を叩いた。


「前線隊長ダリオ! すぐ北門へ集合しろ!

 ここから先はお前の戦場だ!」



 北門の外に出ると、

 湖畔の風が冷たく吹き抜けた。


 夕陽はすでに傾き、

 森の向こうは薄暗くなりつつある。


 ダリオは大盾を地面に突き立て、周囲を見渡した。


「よし、聞け!」


 低く太い声が辺りに響く。


「ゴブリンの数は“多い”。

 だが、奴らは隊列もろくに組めねぇ雑兵の群れだ」


 周囲の冒険者たちが、息を呑んで耳を傾ける。


「谷間の手前で、いったん“首”を絞る。

 地形を利用して奴らを細長く伸ばし、

 こちらは盾と槍で列を組んで迎え撃つ」


 ダリオは地面に棒で線を引いた。


「ここが谷の入り口だ。

 セルグレン、ジージー。お前たちは先導して、

 途中にある倒木と岩場の位置を俺に教えろ」


「了解」


「Cランクは前線中央に布陣。

 《風切り》は左翼、《荒鷲》は右翼、《草笛》は後列から魔術と治癒で支援だ」


「はい!」


「DランクとF相当の連中――」


 ダリオの視線が、ジージーたちを含む数名に向く。


「お前たちは後方から“崩れた列の穴埋め”と、

 逃げ遅れた奴の救出だ。

 英雄気取りで飛び出すな。いいな?」


 ジージーはごくりと喉を鳴らし、頷いた。


(穴を埋める……

 倒れた人を、拾う役……)


 胸の中に、砂漠の夜がよぎる。


 エイリアスが言っていた言葉。


――生きる気のねぇ奴から死ぬんだ。


(ここでは、“守る気のねぇ奴”から消えていく……

 そんなの、嫌だ)


 ジージーは杖を握りしめた。


 その肩のあたりで、ひゅるっと風が渦を巻いた。


「ふふん。随分と賑やかになってきたじゃない」


 ミナの声だ。


 幽霊の少女は、ジージーの周りをくるくると回りながら、

 北の森の方向を見つめている。


「ミナ、見える?」


「見えるわよ。

 黒い小さいのが、いっぱい」


「数は?」


「数える気にならないくらい」


 軽い調子だが、声の奥に冷えたものが混じっている。


「“変なの”もいるわ。

 でっかいのが三つ。

 角みたいなのが生えてるのと、

 棍棒を振り回してるのと――」


 ミナは小さく首を傾げた。


「一番奥に、“王様ごっこ”してるやつ」


「王様ごっこ?」


「椅子みたいなのに座って、

 他のゴブリンに命令してるのよ。

 頭の上、変な飾りがついてる」


 セルグレンが眉をひそめた。


「……ゴブリンキング、か」


「キング……!」


 ジージーはぞくりとした。


「この数の群れを動かすには、

 それくらいの“頭”がいてもおかしくねぇ」


 セルグレンは空を見上げた。


「ここで数を減らせなきゃ、

 町までそのまま雪崩れ込んでくる」



 谷の入り口は、

 まるで口を開けた獣のようだった。


 両側を切り立った岩場に挟まれ、

 その向こうに暗い森の影が見える。


「ここだ」


 セルグレンが指さす。


「右側の岩場の上には、倒れた古木が一本。

 左は狭いが登れる。

 “上”から魔術や矢を撃ち込める」


「いい地形だ」


 ダリオは満足げに頷いた。


「ここで“首”を絞る。

 盾持ちは前へ!」


 Bランクのダリオを先頭に、盾を持った冒険者たちが前列に並ぶ。


 槍が、その後ろから突き出される。

 さらにその後ろに、Cランク組が位置取った。


「ジージー」


 セルグレンが呼ぶ。


「お前とリゲロは、この後列のさらに後ろ。

 ここから出た奴らを“叩け”。

 ミナは上から動きを見て、危ないところがあったら知らせろ」


「了解っ」


 リゲロが剣を抜く。


「やれやれ、また死にかけるのかね、俺は」


「死なせませんよ」


 ジージーは、緊張で乾く喉を無理やり動かしながら言った。


「だって、毒消し代、まだ払ってもらってませんから」


 リゲロが少しだけ笑う。


「そういうの、嫌いじゃないぜ」



 風が、止まった。


 森の向こうから、ざわざわとした音が押し寄せてくる。


 足音。

 武器のぶつかる音。

 甲高い笑い声。


 ミナが、谷の上をすーっと飛んでいく。


「来るわよ……!」


 次の瞬間――

 暗がりの向こうから、緑色の影があふれ出した。


 ゴブリンだ。


 小柄な体に粗末な革鎧。

 錆びた短剣や棍棒を振り回しながら、

 黄色い目を爛々と光らせて突進してくる。


「前列、構え!」


 ダリオの声が響く。


 大盾が一斉に前に出され、

 槍の穂先がわずかに前に突き出された。


 最初の群れが、盾と槍にぶつかる。


 ガンッ、ガキンッ!


 甲高い音が、谷間に反響した。


「押し返せえっ!」


 ダリオが吠える。


 大盾がぐっと押し出され、

 前列のゴブリンたちが弾き飛ばされた。


 その瞬間、後列から矢と火球が飛ぶ。


「《フレイム・スパイク》!」


 魔術師の青年が詠唱を終え、

 炎の槍が数体のゴブリンを貫いた。


 ジージーは、目を逸らしかけた。


(……燃えてる)


 ゴブリンたちの悲鳴が、耳に刺さる。


(人じゃない。

 でも、“声”がある)


 握った杖に、力がこもる。


「ジージー!」


 セルグレンの声。


「今は迷うな! “向こう側”のことは後で考えろ!」


「っ……!」


 ジージーは、強く頷いた。


 今ここで迷ったら、

 前列の誰かが死ぬ。


 そこに名前がある人間が、消える。


(止める……!)


 杖の先端に、かすかな光が灯る。


「《フォース・パルス》!」


 詠唱は簡素なもの。

 ジージーの掌底打ちと合わせて、

 半月状の衝撃波が前に走る。


 盾列の隙間を抜けて、

 押し寄せるゴブリンたちの足元に直撃した。


 ドンッ!


 衝撃とともに、何匹かのゴブリンが吹き飛ぶ。

 岩に叩きつけられ、動かなくなった。


「……!」


 自分の放った衝撃で倒れたゴブリンたちを見て、

 ジージーの背筋に冷たいものが走る。


(あたしは今……)


「ジージー!」


 リゲロの声が割り込んだ。


「今は“数を減らす”しかねぇ!

 あいつらがこのまま街に行きゃ、

 子どもだって老人だって、あっという間に喰われる!」


 リゲロはダリオの後ろから飛び出し、

 盾が弾いた隙を縫ってゴブリンの首筋に剣を走らせた。


 血が噴き出す。

 ゴブリンが、奇妙な音を立てて崩れた。


(……そうだ)


 リルモアで見た、

 “送り先”の帳簿。


 そこに載るはずだった名前。


(数字で消されるより、

 ここであたしが“止める”ほうがまだ――)


 ジージーは息を吸い込み、杖を握り直す。


「《フォース・パルス》!」


 先ほどよりも強く、

 今度は狙いを低く、

 足と武器を狙って放つ。


 衝撃を受けたゴブリンたちが、

 足を砕かれ、武器を手放して倒れた。


 その上から、槍と剣が降る。


 数が、削れていく。



「ミナ!」


 セルグレンが叫ぶ。


「“変なの”の位置はどうだ!」


「右側の森の奥に、“でかいの”が二匹!

 角付きと棍棒!

 群れをまとめてる感じ!」


「ホブゴブリンだな」


「一番奥の“王様”は、まだ動かない。

 あいつはきっと、数が減ってから出てくるつもりよ」


 ミナの声が、風と一緒に降ってくる。


「それから――」


 彼女の声が、わずかに震えた。


「一部のゴブリンが、谷を回り込もうとしてる。

 右の斜面を登って、上から回ってくるわ!」


「ダリオ!」


 セルグレンが叫ぶ。


「右側の斜面、敵が回り込みにかかってる!

 “上”を押さえないと、盾列の後ろを取られる!」


「チッ、やっぱり頭がいる群れか!」


 ダリオは短く舌打ちした。


「《風切り》! お前ら、右の斜面を押さえろ!

 弓と短剣で“登ってくるやつ”を落とせ!」


「任せなさい!」


 エルフの弓使いが駆け出す。

 その後ろを、軽戦士が追いかける。


「《草笛》は左側の岩場を登れ!

 遠距離から支援しろ!

 《荒鷲》は中央の盾列と槍列のフォローだ!」


「了解!」


 指示が飛び、冒険者たちが動く。


 ゴブリンたちの群れも、

 じりじりと前後左右に広がり始めていた。


「ミナ!」


 ジージーが叫ぶ。


「右側の様子を見てきて!」


「うん!」


 幽霊の少女は、風に溶けるように谷の上に消えていった。



 戦いは、次第に“押し合い”から“削り合い”へと変わっていく。


 最初の勢いで突っ込んできたゴブリンたちは、

 盾と槍、魔術と矢に削られ続けて数を減らした。


 だが――

 後続が、途切れない。


 次から次へと湧いてくる。


「……くそっ、きりがねぇ!」


 短剣の軽戦士が、息を荒げながら叫ぶ。


「前列、持つか!?」


「持たせろ! ここで下がれば、そのまま町まで雪崩れ込むぞ!」


 ダリオが盾の後ろから吠えた。


 大盾に、棍棒や斧が叩きつけられる。

 ガンッ、ギギッ、と鈍い音が続く。


 ジージーは、

 息を整えながら《フォース・パルス》を撃ち続けた。


 足。

 武器。

 時々、胴。


 倒れたゴブリンの中には、二度と動かない者もいる。


(……これが、戦争なんだ)


 胸の中に、

 砂漠の夜と、リルモアの帳簿が重なる。


(数字だけを見てたら、

 こんな現場なんて、想像もしないだろう)


 汗が頬を流れる。

 腕が重くなってきた。


「ジージー!」


 セルグレンが肩を支える。


「無理をするな。

 まだ“本番”はきていない」


「本番……?」


「キングが動いていない。

 あいつが出てきたときが、今日の“山場”だ」


 そう言った瞬間――

 ミナが谷の上から飛び込んできた。


「セル! ジージー! まずい!」


「どうした!」


「右の斜面、《風切り》の子たち、

 ホブゴブリンに狙われてる!」


「ホブが動いたか……!」


 セルグレンの顔が険しくなる。


「谷の上を取られたら、

 槍列の後ろを横から叩かれる……!」


 ダリオも顔を上げた。


「“右上”が崩れたら、

 ここが一気に押し込まれる!」


 決断は、一瞬だった。


「セルグレン! リゲロ! ジージー!」


 ダリオが叫ぶ。


「お前たち、“右上”に回れ!

 《風切り》の応援だ!」


「俺たちが、ですか!」


「お前たちはさっき、あの斜面を登っている!

 足場の悪いところも知ってるはずだ!」


 セルグレンは迷わず頷いた。


「行くぞ!」


「ジージー!」


 リゲロが手を差し出す。


「“穴埋め”どころか、今度は“火消し”だ。

 怖いなら、目をつぶって俺の後ろを走れ!」


「……嫌です!」


 ジージーは、にっと笑った。


「目は開けて走ります!

 怖いけど、そのほうが“止める場所”を見つけやすいから!」


 ミナが嬉しそうに笑う。


「そうこなくちゃ!」


 三人と一人の幽霊は、

 谷の右側へと駆け出した。


 そこにはすでに、

 怒号と悲鳴と、ホブゴブリンの雄叫びが待っている。


 湖畔の町をめぐる戦いは、

 まだ、始まったばかりだった。


―――つづく―――


【後書き】


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


今回は、「湖畔の町防衛戦」の 布陣&第一撃 の回でした。

•ゴブリン“じゅうたん”の襲来

•Bランク冒険者《鋼盾》ダリオ登場

•Cランクパーティ《風切り》《荒鷲》《草笛》

•Dランク《小鹿の角》

•ダイアー&エーリッヒは街側の防衛・避難担当

•ジージーが“本格的な殺しの戦場”を初めて目の当たりにする

•ミナの索敵で、ホブゴブリン&ゴブリンキングの存在が確定


……というところまでを描きました。


次回(中編)は、

•右斜面の救援戦

•ホブゴブリンとの初交戦

•《風切り》たちの危機と、ジージーの“一歩踏み込み”

•戦況が町側にまで波及し始める兆し


あたりを描いて、

ラストの後編で ゴブリンキングとの決着&防衛戦の終結 まで持っていくイメージです。

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