旅路の章 ― ゴブリン大襲撃編その1 ―ゴブリン巣の“周辺調査”
【前書き】
今回は“調査依頼”。
配達ではなく、ギルドからの正式依頼だ。
ジージーたちFランクにとっては初めての“外仕事らしい外仕事”。
だが、森の奥で待っていたのは――
想像を超える“兆候”だった。
【本編】
森は、やけに静かだった。
レーヌ湖畔公国の北側に広がる深い森――
「ヘヴンフォレスト」。
人の手がほとんど入らない原生林で、
ゴブリンの巣がいくつも存在することで知られていた。
「……空気が重いな」
セルグレンが呟く。
「うん。さっきから鳥の声もしない」
ジージーは杖を握りしめた。
ミナは半透明のままジージーの肩にふわりと浮かんでいる。
「ゴブリンって、これほど“気配消す”生き物だっけ?」
リゲロが眉をひそめる。
「ふつうはガサガサ、キィキィ……とにかくうるさいよ。
まるで……こっちが油断するのを待ってるみたいだ」
ミナが顔をしかめた。
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■ 1:依頼の内容
今回の依頼はこうだ。
「ゴブリン巣の周辺調査」
・巣の位置
・ゴブリンの数、おおまかな動き
・危険な兆候があれば報告のみ
・戦闘は“避けることが推奨”
依頼主:ギルド
最低ランク:F
想定所要:半日
軽い仕事――
のはずだった。
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■ 2:異変
進むにつれ、森の奥に腐臭が漂い始めた。
「……血の匂いも混ざってる」
リゲロの表情が引き締まる。
ジージーも感じた。
まるで乾いた鉄のような、生暖かい匂い。
「あっち、光が動いた!」
ミナが指さす。
森の奥、少し開けた場所。
誰かが灯した“光の魔法”が揺れている。
「……冒険者だ。誰かいる」
セルグレンが素早く草むらに身をかがめた。
3人も続く。
木々の隙間から覗くと――
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■ 3:別パーティの交戦現場
「っだあああああッ!!」
若い斧使いがゴブリンを薙ぎ倒す。
片方の肩から血が流れ、呼吸は荒い。
「退がれっ!隊列を崩すな!!」
リーダーらしき男が後ろで叫ぶ。
だが周囲には、すでに死体が転がっていた。
「ゴブリン、多すぎる! この数はおかしい!」
「なんで巣からこんなに!?」
大人の背丈ほどあるホブゴブリンが二体、
さらに奥から現れようとしている。
(……数が違う)
ジージーの背中を冷たい汗が伝う。
普通のゴブリンの巣なら、
せいぜい10~20匹。
ホブが2体というのも滅多にない。
だが――
(……30? いや、もっと……?)
気配が、あまりにも多い。
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■ 4:状況判断
「――撤退だ」
セルグレンの声は静かだった。
「戦うのは無謀。
あのパーティを助けるにしても、
俺たちが巻き込まれて全滅する」
「っ……でも!」
ジージーは噛みしめた。
あのパーティの斧使いは、必死に仲間を守ろうとしている。
(助けたい……助けたいけど……
相手は数十。
セルグレンさんの言うとおり、
ここで戦ったら、誰も戻れない)
リゲロが横で唇を噛む。
「あのパーティ、Dか……Cの下かもしれないな。
オレらじゃ、正面から助けても焼け石に水だ」
「ミナ」
セルグレンが静かに呼ぶ。
「一番後ろのやつだけ、“出口の方へ誘導”できるか?」
「うん。幽霊だからね。
視線をこっちに向けさせるくらいなら簡単だよ」
ミナはふわりと移動し、一番後方の若い弓使いの目の前へ。
「こっちだよ。
生きたいなら、走って!」
弓使いの少年だけが、はっとして森の奥へ走り抜ける。
その一瞬――
背後でホブゴブリンの棍棒が地面を叩きつけた。
ドゴォッ!!
「今だ!」
セルグレンが叫び、
3人は即座に後退した。
「ミナ、戻って!!」
「もう戻ってる!!」
ミナがふわっとジージーの横へ戻ってくる。
「他の子は……?」
ジージーが聞くと、ミナは悲しい目をした。
「……囲まれた。
あれは……助けられない」
(…………)
胸の奥が握りつぶされるように痛む。
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■ 5:撤退戦
全員、全力で森を駆けた。
背後では叫び声と怒号が混じり、
やがて断末魔さえ聞こえなくなった。
代わりに聞こえてきたのは――
「グルルル……!」
「ギッ……ギャァァァ!」
ゴブリンたちの咆哮。
(追ってきてる!?)
ジージーの脚が自然と速まる。
ミナが周囲を見張りながら飛ぶ。
「左から3匹!」
「右も2!」
セルグレンが短剣を投げ、
追いすがるゴブリンの膝を打ち抜く。
「走れ!」
リゲロがジージーの腕を掴む。
5分。
10分。
15分――
ようやく、森を抜けた。
丘の上で全員が倒れ込む。
「……はぁ……はぁ……」
ジージーは胸を押さえながら空を見た。
リゲロも汗だくで、
セルグレンは肩で息をしていた。
ミナだけは、心配そうに3人を見下ろす。
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■ 6:そして――報告へ
「……戻ろう」
セルグレンが言った。
「この情報は、ギルドに必ず伝えないといけない。
通常の数を越えてる。
このままだと街に被害が来る」
ジージーは頷いた。
(あたしたちが逃げた。
助けたのは……たった一人だけ)
胸の奥に残る、重いもの。
でも、ミナが柔らかく微笑んだ。
「でも、ひとり救えたよ。
名前……聞けなかったけど」
「……うん。助けられた」
ジージーはつぶやいた。
立ち上がり、杖を握る。
(次は必ず――
守れる力を手に入れたい)
3人と1人(?)は、
森を背にして歩き始めた。
【後書き】
・ゴブリンの異常増殖
・他パーティの全滅級危機
・撤退判断
・1人だけ救出
・次の“本格討伐依頼”の伏線
が今回のポイント。
後編では――
•ギルドでの報告
•冒険者たちの動揺
•ゴブリン討伐の本隊編成
•そしてジージーたちFランクがどう絡むか
を描いていきます。




