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Staff Hero ― 支える勇者 ―  作者: 和泉發仙


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巡察の朝 ― 呼ばれた名前と、呼ばれなかった名前前編

【前書き】


いよいよ前編です。

・巡察教士の「実地査定」

・街の不穏

・“名前が呼ばれる瞬間”

・ミーヤ弟リオンの瀬戸際

・タリサとベルツの決断

・ジージーの“選択”が動き始める


これらを描きます。


――――――――――――――――――――


【本編】


朝日が昇りきる前から、街はざわざわと騒めいていた。


リルモアの中央広場――

巡察教士たちがそこに陣取る、と噂が流れていたからだ。


「……今日、呼ばれるんだって」


「外来者枠は二人分」「東区から五人だとよ」


「ミーヤの弟……大丈夫かね」


ささやき声が、あちこちから聞こえる。


ジージーは、その中心の施薬院の前で深呼吸をした。


(今日…… “数字が” 決まる日だ)


その横で、ミーヤは弟リオンを抱きしめて震えていた。


「ジージーさん……怖いよ……」


「大丈夫。絶対、誰も触れさせない」


言葉に、ほんの少しだけ自分の声が震えた。


(でも……本当は、怖いのはあたしのほうだ)



巡察教士たちは、広場中央の高台に立った。


白い外套。

分厚い帳簿。

ルーデンス聖教国の紋章。


その周りを、帝国の兵と理事会の役人が囲う。


ジージーとセルグレンは施薬院の影に隠れて見ていた。


「来たな……」


セルグレンは低く呟く。


「ジージー、いいか。

 “呼ばれた名前”には絶対に触れるな。

 助けられるのは、いまの段階では“名簿の外側”にいる者だけだ」


「名簿の外側……?」


「帳簿に書かれなかった者だ。

 数字の外は、まだ砂で守れる」


ジージーは、拳を握った。


(数字の外……

 でも、ミーヤ弟は……)



やがて――。


「これより、巡察の一次査定を開始する!」


巡察教士の声が響く。


白外套の男が、帳簿の束を掲げた。


読み上げられる。


ひとり。

ひとり。

またひとり。


呼ばれた瞬間、

その家族が泣き崩れ、

兵の手が伸びる。


それら全部が、

ただの“行番号”で進んでいく。


(いやだ……

 こんなの……)


ジージーの喉が熱くなる。



「――外来者枠、二名」


読上げが始まった。


ミーヤが息を呑む。


ジージーも胸の奥が締め付けられた。


巡察教士が帳簿をめくる。


「外来者・一名――」


沈黙。


(リオンじゃない……!!

 よかった……!)


だが同時に、

別の数字が読み上げられた。


「――外来者・二名目……

 “タリサ”」


ジージーの視界が一瞬揺れた。


「……タリサ……?」


広場の反対側で、

小さな少女が膝から崩れ落ちた。


(なんで……!?

 タリサが……?

 昨日まで、“候補”ではなかったのに……)


その瞬間、横でセルグレンが低く唸った。


「紙が差し替えられたな……」


「差し替え……?」


「昨日ジージーが見た書類だ。

 あれを“採用されなかった案”にして、

 もう一枚、別の誰かが作ったんだ……!」



兵士が、泣き叫ぶタリサを引きずっていく。


周囲は誰も助けようとしない。

助けられない。

“数字に触れた者”に逆らえば、自分が危険になるからだ。


ジージーは一歩踏み出した。


「……やめてください……!」


セルグレンが腕を掴む。


「駄目だジージー!

 “呼ばれた名前”は砂では覆せん!」


「でも……!

 タリサは……あの子は……!!」


「動いたら、お前が“穴埋め枠”だ!」


その言葉で、足が止まった。


(そうだ……

 外来者枠は“変動枠”……

 あたしが動けば、代わりにあたしが行く……

 そういう仕組み……!)


タリサが遠ざかっていく。

声が聞こえる。


《ジージーさぁん……!》


耳に焼き付く。



その時――。


「やめて!!」


ベルツ事務官が兵士の前に立った。


「その子は……っ

 その子は――

 “今日の選定基準”にそぐわない!!」


広場がざわめいた。


巡察教士が冷たい目で振り返る。


「事務官。

 あなたの権限で“名簿”を覆す気か?」


ベルツは震えていた。

でも、退かなかった。


「そ……その子は、

 昨日まで外来者候補では――!」


巡察教士は帳簿をめくり、

鼻で笑った。


「“昨日の帳簿”が正しいとは限らない」

「数字は常に変化する。

 我らが決めれば、それが“正”だ」


その瞬間――

兵士の手が、再びタリサに伸びた。


(もう……だめだ……!

 このままだとタリサが……!)


ジージーは、心の奥に“熱”を感じた。


(数字が……

 彼女を飲み込む……

 あたしは……

 あたしは……!!)



「……あたしは……!」


口が動いた。


全身が震える。


「タリサの代わりに……

 “あたし”が行きます……!!」


広場の空気が止まった。


ミーヤの叫び。

セルグレンの怒号。

ベルツの絶望。


全部を貫いて、

ジージーの言葉だけが響いた。


「――あたしは、外来者。

 あたしのほうが……

 数字として“都合がいい”でしょう……?」


巡察教士がゆっくりこちらを向いた。


静かな、

しかし残酷な笑みだった。


「その通りだ」


帳簿が閉じられる。


「では――

 外来者“タリサ”を除外し、

 “ジージー”を追加とする」


広場に、重い鐘の音が響き渡った。


ゴォォン……!!


(これで……

 タリサは……助かった……

 あたしは……)


膝が震えた。


(……数字になった……)



次の瞬間。


「ジージー!!」


セルグレンが彼女を抱え込んで後方へ飛び退いた。


兵士の手が届く直前――

砂の煙が舞った。


「走れ!!」


セルグレンの叫び。


「お前は“砂の子ども”だ!

 連れていかせてたまるか!!」


周囲で、

“砂の仲間”が一斉に動いた。


タリサが泣きながら手を伸ばす。


ミーヤが弟を抱いたまま叫ぶ。


ベルツが帳簿を抱えて走る。


そしてジージーは――

生まれて初めて、

“数字に逆らって”走り出した。



広場は混乱した。

兵が追う。

巡察教士が怒号を上げる。


その中で、

ジージーの胸には一つだけ、

強く確かな思いがあった。


(もう……誰も数字に飲まれさせない……!)


石畳を蹴る。

外套が翻る。

砂が舞う。


彼女は、走った。


「セルグレンさん……!」


「逃がすぞ!!

 ジージー、“砂の外”に出るまで走れ!!」


生まれて初めて感じる“追われる恐怖”。

でもそれ以上に――

“誰かを守れた”という実感。


それが、

胸の奥で確かに光っていた。


――リルモア市編、残り1話。


――――――――――――――――――――


【後書き】


ここまで読んでくださりありがとうございます!


今回は

ジージーが初めて“自分の意志で数字を動かし”、

 自分自身が“数字にされる”回

でした。


この章で描きたかったテーマ:

•「名前」が「数字」に変わる瞬間の残酷さ

•“外来者枠”の構造

•タリサの救済

•ベルツの決断

•セルグレン&砂の仲間たちの連携

•ジージーの“覚悟の形成”


すべてをここに詰め込みました。


次回いよいよ――

リルモア市編・最終話(第34話)

『砂の外へ ― ジージーの逃走と誓い』

に入ります。


読者の心に残る“転生勇者の第1転機”になります。


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