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Staff Hero ― 支える勇者 ―  作者: 和泉發仙


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“帳が閉じる音” ― リルモア最後の夜


【前書き】


この章の完全ラストです。


・巡察教士の“査定”

・ベルツ事務官の決断

・ミーヤ弟リオンの運命

・タリサ

・外来者枠

・セルグレンとジージーの脱出

・ジージーが“名前の重さ”を知る瞬間


をひとつにまとめて終わらせます。

これでリルモア編は完全に終了となります。


――――――――――――――――――


【本編】


リルモア市は、

まるで“息をしていない街”のようだった。


巡察教士が来る日は、

誰もが声を失う。



午後三時。

教士たちの白外套が、街路に影を落としていた。


ひとり、

またひとり。

施薬院・工区・市場――

次々と“査定”が進んでいく。


名前が呼ばれ、

紙に書かれ、

線が引かれ、

数字に置き換えられる。


それだけで“誰かの人生”が決まっていく。


ジージーは、

施薬院の物陰で、

セルグレンと共にその様を見ていた。


「……あれが、巡察」


「数字を数えるだけの連中だ。

 だが、その数字で人が死ぬ」


セルグレンの声は、

いつになく硬い。


「俺は――

 あいつらより人間を信じたい」


ジージーは、

胸の奥がぎゅっとなる。


(この街の人たち……

 みんな“名前”があるのに……

 紙に載ると、“数字”にされる……)


ちょうどそのときだった。


白外套の一人が、

施薬院の扉を叩いた。


「施薬院補助――

 リオン・ベール。

 名を呼ばれた者は前へ」


ミーヤの瞳が凍りついた。


「……いや……

 リオンは……

 治ったばかりなのに……」


代わりに出たのは、

施薬院長の老女だった。


「巡察教士様……

 この子は、まだ体が……」


「数字上の回復値は“完治”だ。

 帳簿にはそう記されている」


冷たい声。


「“治っていない”と言うなら、

 証明書類を出せ」


老女は震えた。


「……帳簿が……

 すべて……」


ミーヤが泣き崩れた。


ジージーは、

思わず一歩踏み出した。


(リオンを……

 連れて行かせたくない……!)


だがセルグレンが腕を掴んだ。


「ジージー。

 いま出れば、お前まで数字にされる」


「でも……!」


「必ず助ける機会は来る。

 いまは、飛び込むな」


悔しさで、

唇を噛みしめた。


(なんで……

 “名前”じゃなくて数字なんだよ……)



夕刻。


巡察は終わり、

白外套は理事会館へ戻っていった。


残されたのは――

“送致候補者”として名を挙げられた十数名。


ミーヤは泣きながら、

弟を抱きしめていた。


「リオン……

 お姉ちゃんが絶対……

 一緒に行くから……」


「だめだ」


ベルツ事務官の声がした。


「“同行者”は帳簿に載らない。

 行けば、

 君も“枠”に追加されるだけだ」


ミーヤは震える。


ベルツは、

黙って帳簿を一枚渡した。


「リオンの行き先だ。

 帝国内の“救護院”としか書かれていない」


「救護院……?」


「だが……

 帝国の“救護院”など、

 この世には存在しない」


ジージーは息が止まりそうになった。


(……じゃあ、どこへ?)


ベルツは苦い顔をする。


「“北の帝国の地下鉱区”だ。

 都市伝説ではない。

 実在する」


ミーヤが崩れ落ちた。


「やめて……

 リオンを……

 あそこだけは……」


そのとき――

ベルツは一枚の紙を握りしめた。


「あの日……

 君の名前を余白に書いた。

 ジージー」


ジージーは息を呑む。


机の脇に置かれた

――“外来者(仮補)”

あの破られかけの紙。


「俺は……

 数字に抗える人間が、

 この街に一人でも必要だと思った」


ベルツの声は震えていた。


「だから……

 今日――

 お前の名前を帳簿から“消した”」


「――!」


ジージーの胸が熱くなる。


(ベルツさんが……

 あたしを……守ってくれた……)



夜。


街路の灯が消え、

風だけが吹いていた。


セルグレンが外套を手渡す。


「行くぞ、ジージー。

 街は、もう“安全な場所”じゃない。

 外来者であるお前は、

 数字に戻される可能性が高い」


ジージーはミーヤの前に立った。


「ミーヤ……

 絶対、リオンを取り返す。

 あたし、強くなるから」


ミーヤは涙でくしゃくしゃになりながら、

ジージーの手を握った。


「ジージーさん……

 あなたは……

 “数字”じゃないもんね……」


リオンも小さく頷く。


「ねぇちゃん……

 あのね……

 ぼく……

 ジージーねぇちゃんには……

 また会える気がする……」


胸がきゅっと締めつけられた。


(あたし……

 この街を絶対忘れない)


セルグレンが手を差し伸べる。


「行こう」


「はい……!」


――二人は夜の街路へ走り出した。


その背後で、

リルモア市の帳簿が

“閉じる音”がした。


ジージーは振り返らなかった。


もう、

名前を“数字”にされたくなかったから。


――――――――――――――――――


【後書き:用語解説】


■《帳簿》


帝国・聖教国・理事会の三者が管理する“人間管理用の台帳”。

年齢・出生・病歴・職能を数字化し、送致候補者を選ぶ。


■《巡察教士》


聖教国から派遣される“査定官”。

人を“神の秤”にかけると称しながら、

実際は帳簿に沿って数字で裁く。


■《外来者(仮補)》


街に突然現れた者。

身寄りがなく“労働力”として使われることが多い。

数字上はもっとも切り捨てやすい枠。


■《救護院(帝国)》


建前だけで存在しない。

実態は“北の帝国地下鉱区”への強制労働送致。


■《ジージーの脱出》


ここから

セルグレン&ジージーの“二人旅” が始まります。

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