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Staff Hero ― 支える勇者 ―  作者: 和泉發仙


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240/242

第24層 黒の外側で、ひとつの魔法が完成するまで


オープニング


黒の外側で、ひとつの魔法が完成するまで


黒霧の、さらに外。


戦場とも、ダンジョンとも呼べない場所で、

モルガレンは立っていた。


動かない。


瞬きもしない。


呼吸すら、

すでに“詠唱の一部”に組み込まれているかのようだった。


彼女の足元には、

何重にも折り重なった魔法陣。


円ではない。

正確には――円であることを拒否した構造。


角度の狂った線、

途中で途切れ、また別の位相へ接続する文様。


それらすべてが、

一つの目的のためだけに存在していた。


――視界を、殺す。


敵の目を潰すのではない。

光を奪うのでもない。


「“見る”という概念そのものを、ずらす」


それが、

彼女が今まさに組み上げている魔法だった。


(……時間をかけすぎている)


モルガレン自身が、

それを理解していた。


本来なら、

こんな長詠唱は愚策だ。


詠唱中は無防備。

集中が途切れれば即死。


それでも――

彼女は、やめなかった。


なぜなら。


(あの“四天王級もどき”)


(王の名を、

 軽く使いすぎだ)


魔王の権威を、

消耗品のように扱う存在。


それを、

勇者に倒されるのも気に食わない。


だが、

自分が直接前に出るのも違う。


(……王の舞台は、

 もっと“整って”からだ)


指先から、

黒い光が滴り落ちる。


それは血ではない。

魔力でもない。


――認識の摩耗。


この魔法は、

周囲だけでなく、


術者自身の“世界の見え方”を削る。


視界が歪む。

距離感が狂う。

音が、遅れて届く。


(……代償は重い)


(だが、足りぬ)


モルガレンは、

さらに詠唱を重ねた。


言葉を使わない。

詠唱文すら、もう不要。


彼女の脳内で、

“完成形”だけが、

ひたすらに磨き上げられていく。


やがて――


遠くで、

勇者たちが限界に近づいている気配がした。


命の重さ。

疲労の濃度。

判断の鈍り。


それらが、

魔法陣の内側に“材料”として流れ込む。


(……今だ)


モルガレンの仮面の奥で、

ほんの一瞬だけ、

感情に近いものが揺れた。


(生き残れ)


(死んだ者の声は、

 後で聞けばいい)


彼女は、

静かに最後の“鍵”を落とす。


次の瞬間――


世界から、

「敵意の視線」だけが、消えた。


戦場は存在する。

勇者も、魔物もいる。


だが――

互いを正しく“捉えられない”。


視線が滑り、

狙いが外れ、

判断が一拍遅れる。


それは、

破壊ではない。


完全な遮断でもない。


ただの、

“歪み”。


だがそれで十分だった。


モルガレンは、

その場に膝をついた。


初めて、

呼吸が乱れる。


(……これで、

 少しは稼げる)


代償は確実に刻まれていた。


視界の端が、

もう戻らない。


魔力の循環が、

一部、永久に欠けた。


それでも――


「……次は」


彼女は、

誰に聞かせるでもなく呟いた。


「次は、

 敵だ」


その言葉を最後に、

モルガレンは霧の中へと身を溶かした。


そして――

何も知らない戦場で、

勇者たちは気づくことになる。


「何が起きた?」と。





黒の外縁


霧の中で、

モルガレンは一歩、後ろへ下がった。


……それだけで、

体の均衡が崩れかける。


(これ以上は――無理だな)


視界の左が、

完全に“存在しない”。


距離も、奥行きも、

もう戻らない。


魔法は維持されている。

だがそれは、

今この瞬間に放った“最後の一撃”が残っているだけ。


これ以上、

指一本動かせば――

自分が先に壊れる。


モルガレンは、

戦場の方向を見もしなかった。


見る必要がない。


(……あとは)


(あれが生き残るかどうかだ)


勇者たち。

未熟で、無謀で、

それでも――


魔王の前に立つ意思を、

確かに持っている存在。


彼女は、

霧の奥で背を向ける。


「……ここまでだ」


魔法陣が、

ひとつ、またひとつと崩れていく。


視界制御は、

“解除”ではない。


自然消滅までの猶予。


それが、

彼女が残せたすべてだった。


(生き延びろ)


(それだけだ)


次の瞬間、

モルガレンの気配は

完全に戦場から消えた。



そして――戦場


何が起きたのか、

誰も正確には分からない。


だが一つだけ、

全員が同時に理解した。


――今だ。


止まっている敵。

崩れない建造物。

増えない魔物。


これは奇跡じゃない。

救いでもない。


ただの猶予。


ジージーが叫ぶ。


「今しかない!!

 みんな、全力で!!」


リテラが、矢を番える。


「了解!!

 遠慮はなしね!!」


ガンドラが、斧を構える。


「ようやく“殴れる時間”だ!!」


リゲロが、影を広げる。


「逃げ場は作らねぇ!!」


ミナは、静かに両手を広げた。


「……全員、出て」


冥界が、

一斉に口を開く。


ここから先は、

全員の力で生き残る時間。


モルガレンが削った世界で、

勇者たちは――

一斉に、走り出した。



黒の外縁



霧の中で、

モルガレンは一歩、後ろへ下がった。


……それだけで、

体の均衡が崩れかける。


(これ以上は――無理だな)


視界の左が、

完全に“存在しない”。


距離も、奥行きも、

もう戻らない。


魔法は維持されている。

だがそれは、

今この瞬間に放った“最後の一撃”が残っているだけ。


これ以上、

指一本動かせば――

自分が先に壊れる。


モルガレンは、

戦場の方向を見もしなかった。


見る必要がない。


(……あとは)


(あれが生き残るかどうかだ)


勇者たち。

未熟で、無謀で、

それでも――


魔王の前に立つ意思を、

確かに持っている存在。


彼女は、

霧の奥で背を向ける。


「……ここまでだ」


魔法陣が、

ひとつ、またひとつと崩れていく。


視界制御は、

“解除”ではない。


自然消滅までの猶予。


それが、

彼女が残せたすべてだった。


(生き延びろ)


(それだけだ)


次の瞬間、

モルガレンの気配は

完全に戦場から消えた。




そして――戦場


何が起きたのか、

誰も正確には分からない。


だが一つだけ、

全員が同時に理解した。


――今だ。


止まっている敵。

崩れない建造物。

増えない魔物。


これは奇跡じゃない。

救いでもない。


ただの猶予。


ジージーが叫ぶ。


「今しかない!!

 みんな、全力で!!」


リテラが、矢を番える。


「了解!!

 遠慮はなしね!!」


ガンドラが、斧を構える。


「ようやく“殴れる時間”だ!!」


リゲロが、影を広げる。


「逃げ場は作らねぇ!!」


ミナは、静かに両手を広げた。


「……全員、出て」


冥界が、

一斉に口を開く。


ここから先は、

全員の力で生き残る時間。


モルガレンが削った世界で、

勇者たちは――

一斉に、走り出した。





ジージーは、深く息を吸った。


もう、温存なんて言っていられない。

迷いも、計算も、全部――邪魔だ。


「……全てを出す!!」


棍を強く握った瞬間、

魂帯が唸った。


低く、深く、

まるで心臓がもう一つ増えたかのような鼓動。


ジージー

魂帯こんたい……

 お願い!!」


返事は、言葉じゃなかった。


棍の紋様が走り、

空気が裂ける音がした。


《響裂衝・二閃!!》


――ギィンッ!!


一閃目。


横薙ぎの衝撃波が、

視界にある魔物の“列”をまとめて削ぎ払う。


建造物に擬態していた魔物が、

石でも金属でもない“中身”を晒して砕け散った。


――ドンッ!!


二閃目。


今度は縦。


地面から空へ向かって、

一直線の衝撃が走る。


跳ね上げられた魔物が、

空中で崩壊する。


「……ッ!!」


ジージーの腕が痺れる。

視界が一瞬、白く飛んだ。


(重い……!!)


(でも――)


リゲロの声が重なる。


「今だ!!

 流れ、完全にこっちだ!!」


影が伸び、

逃げ場を断つ。


セルグレンが前へ出る。


「陣形維持!!

 突っ込みすぎるな、押し返せ!!」


聖光が盾から広がり、

味方の足を止める。


ミナは、静かに告げた。


「……全部、出す」


冥界が応えた。


骸骨、レイス、

吸血鬼に至るまで――

全眷属が戦場に展開する。


数で、

圧で、

存在感で――

魔物の群れを押し潰していく。


リテラが、息を呑んだ。


「……なにこれ……

 さっきまで“死ぬ”戦場だったのに……」


ガンドラは笑った。


「違ぇよ。

 “死ななかった側”が残っただけだ」


魔物が倒れる。

倒れる。

倒れ続ける。


経験値が、

雪崩のように流れ込む。


ジージーの中で、

何かが一段、確実に積み上がった。


(……ああ)


(これが、“前に出る”ってことか)


棍を構え直す。


息は荒い。

腕は重い。


それでも、

足は止まらない。


「次、来るよ!!」


誰かが叫ぶ。


ジージーは、

笑って返した。


「来い!!

 今度は――押し返す番だ!!」


戦場は、完全に勇者たちのターンへ入った。


そしてこの時、

誰も知らなかった。


――これは“終わり”ではなく、

第24層が本気を出すための前振りに過ぎないことを。


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