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Staff Hero ― 支える勇者 ―  作者: 和泉發仙


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祝勝の夜 ――火と酒と、生きている実感





 焚き火が、ぱちぱちと音を立てていた。


 洞窟を抜け、簡易の野営地を張った夜。

 雷帝との死闘が、ようやく「過去」になった時間だった。


 焚き火のそばに並べられたのは、

 乾燥肉、黒パン、燻製ソーセージ。

 そして――


 樽から注がれた、薄い葡萄酒と麦酒。


ジージー

「……勝った、んだよね」


 ぽつりとこぼすと、セルグレンが即答した。


セルグレン

「勝ったさ。

 少なくとも――今日は生きてる」


リゲロ

「それで十分だろ」


 そう言って、木杯を差し出す。


リゲロ

「祝勝会だ。

 勇者三人と、護衛二人でな」


ジージー

「三人……?」


 視線を向けると、少し離れたところで

 リテラとガンドラが、別の焚き火を囲んでいた。


 こちらを見て、軽く杯を掲げる。


リテラ

「今夜は、各々の勝利を祝う夜よ」


ガンドラ

「……混ざると、飲み過ぎる」


ジージー

「あはは……そっか」


 それぞれの距離感。

 それでも、同じ戦場を生き延びた仲間。


 セルグレンが杯を持ち上げる。


セルグレン

「では――」


 一瞬、言葉を探し。


セルグレン

「“死ななかったこと”に」


リゲロ

「いいね。

 それが一番だ」


 杯が、静かに触れ合う。


 ――コツン。


 酒は強くない。

 味も、正直いって粗い。


 だが、喉を通るたびに

 胸の奥が、じんわり温かくなった。


ジージー

「ねえ……」


リゲロ

「ん?」


ジージー

「私、途中……

 ほんとに、怖くてさ」


セルグレン

「だろうな」


リゲロ

「顔に出てた」


ジージー

「ひどい!」


 笑いが起きる。


 ミナは焚き火の向こうで、静かに座っていた。

 誰にも見えないが、ジージーには分かる。


ジージー

「ミナも、お疲れさま」


ミナ

「……生きてる夜、好き」


 セルグレンが、ふっと息を吐いた。


セルグレン

「雷帝戦……

 正直、俺は途中で“限界”を考えた」


リゲロ

「俺も。

 影が、追いつかなかった」


ジージー

「……でもさ」


 二人を見る。


ジージー

「誰も、逃げなかった」


 焚き火が、弾ける。


セルグレン

「逃げる暇がなかっただけだ」


リゲロ

「それもある」


 少し間を置いて。


リゲロ

「……だが、背中があった」


ジージー

「え?」


リゲロ

「前に出る背中。

 守ろうとする背中。

 それを見ると、戻れなくなる」


 セルグレンが、静かに頷いた。


セルグレン

「勇者、だな」


ジージー

「……やめてよ。

 まだ、そんな大層なものじゃない」


セルグレン

「名乗るかどうかは関係ない」


リゲロ

「“立った”かどうかだ」


 ジージーは、杯を見つめた。


(私……立ってたのかな)


 ミナが、そっと言う。


ミナ

「立ってた。

 倒れそうでも、立ってた」


 その言葉に、ジージーは小さく笑う。


ジージー

「……じゃあ、もう一杯だけ」


セルグレン

「ほどほどにな」


リゲロ

「明日も生きるからな」


 夜は深く、

 焚き火の赤が、静かに揺れていた。


 これは、英雄譚ではない。


 ただ――

 “今日を越えた”者たちの、小さな祝勝会だった。




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